第191話 ◆野郎共

「おう、センパイ」


 顎先から垂れる汗、


「何じゃ後輩」


 震える手で振るう双剣。


「何か嬢ちゃんからToKWトゥーカウきてんぜ?」

「何? まことか?」


 Rala――伊達さんが剣皇の水谷さんを倒しましたー!


「おいおい、何かおもしれー事やってんな?」

「【剣皇】を降したか。やるのう、玖命」


 血みどろ――KWNの社長と会うって話じゃなかったか?

 たっくん――玖命すごーい^^


「おい、センパイ」

「何じゃ後輩」

「何でさっきの『やるのう、玖命』って打たねーんだよ?」

「異な事を? 打ってるではないか?」


 そんな山井の反応に、翔は目を丸くする。


「お、おう……?」

「おかしなヤツじゃな?」

「それにしても、随分とガンバってるじゃねーか?」

「何をじゃ?」

「それ、もう腕が上がらねぇんじゃねーのか?」


 翔は山井の素振りを見ながら、指差した。


「これまた異な事を……現に振れているではないか? それよりも、後輩だって最近の頑張りは目を見張るものがあるぞ? ほれ、足がプルプルじゃ」


 そう言って、山井は蹲踞スタイルの翔を指差した。


「プルプルしてねーよ」

「しとるじゃろうに」

「してねーって」

「痩せ我慢め。一日に1000km近く走っとるじゃろ?」

「カカカカッ、そんな走ってねーよ」

「八王子は1周60km近いんじゃ」

「なら走ってねーよ。ノルマは8周だかんな」

「ほぉ? では昨晩走り込んでる後輩を見た我が目が節穴だという事か」

「コ、コンビニに行ってたんだよ! つーか、何でセンパイはそれ知ってんだよ!?」

これ、、を振ってたんじゃ」


 二本の剣を振りながら、山井が言う。


「はん、センパイもかよ」

「『も』ってどういう事かの? 儂ゃコンビニには行っとらんが?」

「あいや!? いや、うん……最近のコンビニ飯の味もあなどれねーなと思ってよ、色々試し食いしてんのよ」

「ほぉ、おすすめは?」

「エナジードリンク」

「コンビニ飯の話じゃなかったのかの?」

「ありゃ飯みてーなもんだろーが!」

「ほっほっほ、呑み過ぎはいかんぞ?」

「わーってるよ! つーか、俺様が聞きたいのはセンパイがそんなにガンバってる理由だよ!」


 翔が言うと、山井は素振りを止め、、血にまみれた剣を大地に付き刺し、肩にかけていた手拭いで顔を拭く。

 そして翔に言ったのだ。


「無論、玖命――代表の指示だからだ」

「そんくらいで俺様が納得するとでも?」

「…………ふむ、後輩の天恵が【拳皇】、儂の天恵が【二天一流】。そしてKWNカウンの令嬢――ららちんが【天騎士】」

「ららちんって何だよ、おい」

「ららちんのランクはD。しかし、既にSSダブルの攻撃すら耐えうる【天騎士】を有している。聞けば、ららちんは玖命の指示に従っていただけと言う。後輩、お主はこれをどう見る?」

「すんげー結果だと思うぜ」

「ならば、この常軌を逸した訓練にも、意味があると思うのは、老人の幻想だとでも?」

「そりゃぁ…………ねーな」

「そういう事じゃ。玖命の話では、儂が技術リソース、後輩は体力リソースが足りぬと言っていた。なら、それを鍛えるのみじゃろう」

「なりてーかよ? 第5段階」


 翔がそう聞くと、


「っ!?」


 山井から闘気が溢れ出る。

 かつて感じた事のない気迫に、翔が目を見張る。


「へっ、78の爺さんが出す気合いじゃねーだろ。そーかよ、なりてーかよ」

「諦めていた道半ば、儂は自分の才の限界を感じておった。がしかし、玖命は言った。まだ駆け上がれると」

「多分、言ってねーと思うぞ」

「儂に道を示したのだ。そう言ったも同義というもんじゃろ」

「なってどーすんだよ、第5段階」

「決まっておる」

「ぁん?」

番場ばんばにリベンジマッチじゃ……!」


 先程以上の気迫に、驚きつつも呆れる翔。

 しかし西の大手クラン【インサニア】の代表の名前に、翔も聞かずにはいられなかった。


「そんなにつえーかよ、【番場あつし】ってやつは?」

「強いな、北の【ポット】の女狐はわからぬが、番場は近い将来、間違いなく第5段階への領域に足を踏み入れるじゃろ」

「確かあいつは【戦士】系だから……第4段階だとすっと……?」

「【戦王せんおう】……正に力の化身よ。儂の剣技も全て力任せに破られてしもうた。後輩より乱暴者じゃぞ?」

「俺様は乱暴じゃねーよ」

山井意織いおりんボコボコにして乱暴じゃないとはこれいかに?」

「あん時ゃ頭に血が上ってたんだよ!」

「じゃあ儂からアドバイスじゃ」

「ぁんだよ?」

「そういう現場を目撃したら、まずは一言――」

「――一言?」

「『何があった?』そう考え、そう聞け」

「『何しやがった』」

「違うのう。アドバイス一瞬で歪んでしまったのう」


 そんな話をしていると、二人のスマホに川奈から連絡が入る。


 Rala――朗報です!伊達さんが早速お父さんから三つの契約取りましたよ!私もアーティファクト買ってくれるそうです!


「おー、すげーすげー。ウチのヘッドは仕事もはえーな」

「ほっほっほっほ、やりおる!」


 血みどろ――すげーじゃねーか!詳しく聞かせろ!

 たっくん――玖命すごーい^^


「おい、センパイ」

「ちゃんと打ってるぞ、後輩」


 最早もはや何も言うまいと思った翔だった。

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