第184話 KWNの社長1

 八王子からだと意外に遠い池袋。

 西口付近は、昔こそ繁華街として賑わっていたが、度重なるモンスターの出現により、今ではクランのオフィス街となっている。

 クランのオフィス街という事は、池袋は日本一安全な町とも言える。


「おー、ここが池袋ですか……」

「川奈さんは来た事ないんです?」

「仕事中のお父さんと会った事は、ほとんどないんですよね。ちょっとしたパーティーとかにはたまに呼ばれますけど。あ、あれじゃないですか?」


 俺と川奈さんが車の窓越しからとあるオフィスビルを見上げる。

 オフィ……オフィス……ビル?

 何だこの高さは?


「へー、高さ654メートルあるんですね。日本では建てるのに色々障害があったとか? モンスターがいる世の中で、ここまでする必要はないと思うんですけどね……」


 確かに、だが、それを踏まえた上で建てる事が、会社のイメージを良くする……んだろうか?

 まぁ、時代を牽引する企業だ。狙いがなければここまでのリスクは冒さないだろう。

 KWN本社ビルの正面に着き、俺たち……いや、主に俺はそのセキュリティに驚く。

 大いなる鐘と同じく、自動ドアの左右に天才が配備されている。

 見た感じC〜Dランクだろうか。

 いや、3人目がいる。これは……強い!


「「ん?」」

「ん?」


 俺たち3人は目と目が合った瞬間に首を傾げた。


「あれ? 何で玖命クンがこんなところに?」


 俺と川奈さんの目の前には、【剣皇】水谷みずたに結莉ゆりが立っていたのだ。


「……水谷さんこそ?」

「私はKWNの社長に呼ばれてね。ちょうど今来たところ」

「え、俺たちもですけど……」


 そう言って、俺は川奈さんと目を合わせる。


「お父さんが水谷さんと面識あるとは思いませんでした……」

「ん? あー、そういえばららちゃんは社長の娘さんだったね。完全に忘れてたよ」


 普通は忘れられないだろうが、ここが水谷の良いところなんだろうな。


「私も最近知り合ったんだよ。【大いなる鐘】に大口の依頼が入ってね。リザードマンばかり相手にする面倒なやつ」

「「あー……」」


 俺と川奈さんが記憶に新しい場所。

 KWNの管理区域の担当は、翔の手を離れて【大いなる鐘】が引き継いだか。

 いや、水谷がリザードマン相手となると……あれ? もしかしてそういう事になるのでは?


「2人が同じ時間に呼ばれたという事は、社長は私を2人に会わせたいって事だよね?」


 水谷の言葉に、俺と川奈さんは頷く事しか出来なかった。


「私も2人に会いたかったんだよね。2人とも物凄く強くなったみたいで」


 水谷の視線が恐ろしい。

 気を抜けば勝負を仕掛けてきそうである。


「玖命クン、後で一緒に訓練しない?」


 気は抜いていないのだが?


「いえ、それはちょっと……」

「残念。実はさっきまで八王子支部にいたんだよね。まさか池袋で会う事になるとは思わなかったけど」


 すると俺ではなく川奈さんが反応した。


「水谷さんって、伊達さんの事よく追いかけてますけど、そんなに気になるんですか?」


 川奈さんの質問には驚きである。

 あの無邪気な表情から、何故こんなにもストレートな表現が生まれるのか。いや、無邪気故なのか。


「んな!? そ、そんな訳ないじゃない」

「あ、それなら伊達さんと一緒にチーム組めばいいじゃないですか」


 さらっととんでもない事を言ったな、この子。


「チ、チーム!? え? チーム? 私と玖命クンが……? 何で?」

「チームを組めば伊達さんの訓練を受けられますよっ!」


 ニコリと言った川奈さんには、深い考えはないのだろう。


「えっとね、おそらく水谷さんの言ってる『訓練』と、川奈さんの言ってる『訓練』は違うと思うんですよね」


 俺が言うと、川奈さんと水谷は顔を見合わせ、小首を傾げた。

 その説明をすると、川奈さんは「お~」と口を尖らせ納得していた。

 反対に、水谷は川奈さんが受けた訓練、翔やたっくんが受けている訓練内容にあんぐりと口を開けていた。


「……なるほど~、一対一の訓練ですかー」

「何、玖命クン? 【命謳めいおう】ってそんな危ないところなの?」


 危ないとは人聞きの悪い……。


「あれ、もう俺たちのクラン名知ってるんですね」

「今日、よしみに聞いたのよ」

「そうですか……それより、ウチの訓練ってそんなに危険です?」


 聞くと、訓練を受けている川奈さんですら、引き気味のリアクションを見せた。

 呆れ交じりの水谷が、俺に言った。


「あのね、玖命クン。人間同士の訓練なら訓練で終わるけど、モンスター相手に訓練ってのは流石に常軌を逸してるでしょ。あいつらは攻撃を止める事はないんだよ?」

「でも、安全マージンをしっかりとれば、問題ないのでは?」

「ウチも動きの確認ついでに、ゴブリンやホブゴブリンを使ったりはするけど、リザードマンやサハギンってDランクでしょ? ちょっとないかなぁ~」


 コクコクと頷く川奈さん。

 なるほど……そういうものなのか。


「鳴神クンはともかくとして、80近い山井さんを、朝から晩まで素振りやら走らせてるって……拷問じゃない?」


 もしかしたら俺は、クラン代表失格なのかもしれない。

 そう思い、翔とたっくんにメッセージを送る。


 玖命――――今日はもうあがりで。ゆっくり休んでください

 血みどろ――はぁ!? こっちはまだ八王子3周残ってんだよ、ボケ!

 たっくん――りょーかーい^^あと2万回素振りしたらあがりまーす!

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