第183話 ららパパ
翔とたっくんには訓練メニューを与え、俺は川奈さんと共に、いつものように討伐依頼をこなしていた。
おそらく、川奈さんがCランクになるまでは、こういった流れになるだろう。
そして、全員がダンジョンに侵入出来るようになれば、いよいよクランとしても本格的に動き出せるだろう。
「えー、越田さんの【大いなる鐘】と同盟ですか!? それって凄くないですかっ!?」
「うん、本当にありがたい話ですよね。これが上手くいけば、外部からの圧力も、ある程度回避出来るかもしれないし」
「山井さんの助言のアレですか?」
「うん、
「そういえば、山井さんの事、ネットに出てましたね……」
「あぁ、【インサニア】の公表の件? とあるクランに引き抜かれたとか書かれてましたね」
「初手で嘘とか凄いですよね! 私、ある意味感動しちゃいました」
まぁ、川奈さんはそういう世界をあまり知らないだろうからな。
「あ、でも、山井さんがネットで反論してたの笑っちゃいました」
「『引き抜かれたんじゃなく追い出された』とか書いてたやつかー。山井さんもちょっと嘘書いてましたね」
「あれは、嘘というより見栄っ張りっていうんです」
確かに。
実際は【インサニア】の代表兼序列1位、
別に追い出された訳ではない。たっくんが自ら抜けたのだ。
だから、番場の引き抜き云々も嘘である。
番場の嘘とたっくんの見栄が、良い感じに世間をかきまぜ、色んな憶測が飛び交っている。
そして、昨日のたっくん【
まぁ、事件という程でもないが、鳴神翔と山井拓人の名前は知る人ぞ知るって感じだっただけに、【姫天】の良いネタにされていた。
当の本人たちは、世間の反応なんてまったく気にしていないのが、流石である。
「それで、その……川奈さんのお父さんの件、どうするんですか?」
休憩中、俺は川奈さんに聞いた。
「今日、この後ってどうですか?」
「うーん、実は今日は家族で焼肉なんですよね……」
「あ、それは重要な約束ですね! お父さんに言っておきます!」
「いやだめ! 絶対言わないでっ!?」
少々声が裏返ってしまった。
「ふぇ?」
焼肉するから川奈氏と会えないとか、普通言えないだろうに。
ここで疑問なのだが、焼肉を理由に面会を断っていいのはどのレベルの人だろうか?
友人……ならばわかってくれるだろう。
総理大臣……無理だ。焼肉が白紙になるだろう。
では大企業の社長となれば……いや、ここは友人のお父さん、という事にしてはどうだろうか。
……ふむ、何とか断れる気がしてきたような?
いや、でも会ったら会ったで、今後はビジネスパートナーという事になるのでは?
企業依頼を回してくれるそうだし、友人のお父さんという括りは外れてしまうだろう。
「うーむ……」
「お父さんの都合としては今日か明日なら都合つくみたいです」
「お、それなら明日で――」
「――あ、今明日の予定が埋まっちゃったそうです」
滑り込むようにスケジュールが埋まる人だからな、仕方ない。
「なら……余り遅くならないようであれば、今日で」
「わかりました!」
そう言って、川奈さんはスマホを使って川奈氏に連絡をとった。
「16時から1時間、お父さんとの時間を確保しました。迎えの車も手配しちゃいますねー」
電車の方が早いって言うのは……違うか。
それにしても川奈さん、父親にバレてからはスッキリした顔つきになっているような気がする。
無意識の内に、彼女の中で隠し事がストレスになっていたのかもしれないな。
「そういえば」
スマホをしまいながら川奈さんが言う。
「どうしました?」
「企業依頼ってどういった事をするんですか?」
「定期契約がメインって事が多いですかね? 一定額の契約で一定期間の施設の安全保障をするって感じ。勿論、天才が対応する安全保障だからモンスターの対応が主ですね」
「報酬とかはどうなるんです?」
「契約該当ヶ所に出現したモンスターであれば、魔石や素材は天才の所有物になります。
「へ〜、クランがCランクからしか創れないのには、そういった理由があるんですね」
「前に翔と出会った警護の依頼があったでしょう?」
「あー、あの要人警護の依頼ですよね? あれもお父さん案件でしたけどね」
「そうそう、あの時は俺がEランクで、川奈さんがFランクだったでしょう? だから、あれは翔指導の下、KWNの下請け会社が、天才派遣所を介して、俺たちに依頼が必要だったんですよ」
「なるほど……そういう事だったんですね!」
「よし、休憩終わり!」
「あう!? くっ、もうちょっと引き延ばせると思ったんですけど……」
あわよくば、迎えの運転手が来るまで、会話を引き延ばせると思っていたのだろうが、そうはいかないのだ。
まぁ、そこまで成長を急ぐ必要はないし、後半は少し流してもいいかもしれない。
「伊達さん! もう1体くらい耐えられますよっ!!」
「あ、うん……連れて来ます」
川奈さんってたまによくわからないけど、やっぱり凄いんだなと感じた俺だった。
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