第182話 大発表

 ◇◆◇ 20XX年9月10日 7:00 ◆◇◆


 クランを結成した翌日、俺、みこと一心おやじが朝食後に真剣な表情をしていた。

 俺と親父は、予め今日は30分だけ早く起きるようにみことから言われていたのだ。

 みことは食器をシンクにけた後、一枚の紙を俺たちの前に置いた。


「お父さん、お兄ちゃん……これを見て」


 俺と親父はみことにそう言われ、紙を覗き込む。

 そこには「借入残高かりいれざんだか」と記載があった。

 これはつまり……伊達家の借金明細書である。

 俺と親父はその末尾の金額を見て驚きを見せる。


「「お、おぉ……!?」」

「遂に……遂に! 伊達家の借金が5000万円を切りましたっ!!」

「「うぉおおおおおおっ!!」」


 俺と親父は抱き合い、そのままみことをも呑み込んだ。


「ちょっと! い、痛いってお兄ちゃんっ! お父さんっ!?」


 そんな伊達家伝統の喜びの舞に、みことも満更でない様子だ。

 そして、


「これは、お兄ちゃんの預金残高ね」

「え?」


 俺個人の口座ではなく、みことが管理している別銀行の俺の口座。


「うわぁ……息子の収入に一心ドン引き……」


 芝居がかった口調で親父が言う。


「さ、3000万くらいあるね……」


 俺も驚きのあまりそれ以上の事は言えなかった。


「毎日毎日100万単位で稼いできたら、そりゃ貯まるでしょ」


 呆れた様子でみことが言う。


「で、でもこのお金を返済に回せば……――」


 言うも、その言葉はみことによって掻き消された。


「――ダメよ」

「え……どうして?」

「このお金は来年消えるの」

「何それ怖いんだけど……?」

「税金っていうんだけど、お兄ちゃん知ってる?」

「き、聞いた事があるような気がする……!」

「天恵が発現してからのお兄ちゃんの稼ぎは、減った借金と、この通帳分あるのはわかるわね?」

「はい……」


 つまり……もう8000万以上は稼いでるのか。

 武具の買い物もしてるし、おそらくそれくらいだろう。


「経費で色々落としたとしても、天才という括りだとどうしても経費に出来ないものがあるのよ」

「は、はぁ……」

「だから、今年の稼ぎの半分近くが……来年の税金でトぶ」

「な、何て恐ろしい……!?」


 この通帳の3000万が、来年にはなくなるっていうのか?

 何て恐ろしい国なんだ、日本ってやつは……!?


「あ、でも、来年は来年の稼ぎで返せば……――」

「――ダメよ」


 本日二回目のシャットアウト。


「お兄ちゃん、予定納税って知ってる?」

「それはちょっと聞いた事ないです……」

「来年中に来年の税金の請求がくるの」

「馬鹿なっ!?」


 税金とはくも恐ろしい存在だったのか……!?


「と言う訳で、残す分は残しておかないと、来年の自分の首を絞める事になりかねないの。だから、今まで通り、お兄ちゃんの収入の半分を返済。半分を預金に回します。よろしいですね?」

「は、はい!」

「まぁ、残りの借金なら、お父さんの一生を搾り取れば返せない訳じゃなさそうだから、そんなに心配しなくて大丈夫よ」


 そんなあっけらかんとしたみことの言葉に、親父が小さな悲鳴をあげる。


「ヒッ!?」


 親父が捨てられた子犬のように俺の袖を掴む。

 何だ、この変な生き物は……?


「玖命、死ぬなよ……!」


 息子の生存を願う父親……というだけではなさそうな台詞に聞こえるのは、俺の気のせいだろうか。


「それじゃ、今日はお祝いって事で、輸入牛を使って焼肉をしまーす」

「「おぉ!?」」

「お父さんは帰りにいつものスーパーで私と待ち合わせ」

「かしこまりましたっ!」

「お兄ちゃんは隣町の何故か野菜だけ安いスーパーで、タマネギとピーマン、ニンジン、ネギを買って来る事」

「御心のままに!」

「よろしい! それじゃ今日も一日頑張って来なさい!」

「「はいっ!」」


 ◇◆◇ 9月10日 8:00 ◆◇◆


 みことに送り出され、俺は、借金返済、新たなクランの活動資金を稼ぐため、いつものように天才派遣所八王子支部にやって来た。

 しかし、不安だ。

 川奈さんはいいが、クランメンバーは皆が恐れる鳴神翔しょう

 更に、【インサニア】の参謀兼序列2位だった山井拓人たっくん

 翔はいきあったりばったりな所があるし、たっくんもせっかちな性格だ。

 ビニールプールをいて15歳の少女2人を東京から北海道まで連れて行く翔。

『俺からの連絡を待つ』とか言ったのに、たまたま翔を見つけたからって、俺と会うために翔を尾行して来るたっくん。

 やはり、俺の心の安寧を提供してくれるのは、川奈さんだけかもしれない。


「聞いてくださいよ伊達さん!」

「な、何でしょう……?」

「これ! これ見てくださいっ!」


 そう言って、川奈さんは俺にスマホを見せてきた。


 ららパパ――その伊達玖命くん、出来れば近い内に会っておきたいんだが、都合はつくかい?

 Rala――え、それ伊達さんに聞かなくちゃダメ?

 ららパパ――ダメ。娘をたぶらかす男じゃないか確認しないと、パパの胃とか腸とか肺に穴空いちゃう。

 Rala――でも、伊達さんは翔さんが認めた人だよ? お父さんは翔さんは認めたんだよね?

 ららパパ――鳴神君は私の前で実績をしっかり見せてくれた。でも、伊達くんは?

 Rala――大災害の時に7ヵ所もダンジョンを破壊したの伊達さんだよ。

 ららパパ――その切り札、ズルくない?パパそれ知らないんだけど?

 Rala――私の命も2回以上救ってくれてるし。

 ららパパ――お礼! じゃあお礼する! 父としてお礼させてください!

 Rala――え~……でもなぁ~……。

 ららパパ――ならこうしよう。

 Rala――何?

 ららパパ――伊達くんに会わせてくれたら、KWNからクランへの企業依頼をいくつか紹介しよう。

 Rala――むぅ~……わかったー。聞いてみる。


「という事なんですっ! どうしますか!?」


 胃とか腸とか肺に……穴空いちゃうかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る