第170話 米原の助言2
「えーっと……確定ってどういう事ですか?」
俺はすぐにそれを確認するように聞いた。
すると、米原さんはキョトンとしながら小林さんに目をやった。
するとすると、小林さんが俺に言った。
「伊達さん、さっきいっちゃんが言ったじゃないですかー」
「さっき……ですか?」
「番場は低ランクでも強い天才を集めてるって」
「なるほど?」
「今、僕の目の前にいるでしょう? 低ランクでも強い天才」
「……なるほど?」
「番場が伊達さんに接触してくるのは必然ですよー。絶対、【インサニア】への勧誘があるでしょうねー」
「…………な、なるほど?」
「【大いなる鐘】も大きく動くでしょうねー。そろそろ越田さんから勧誘連絡があるのではー?」
「………………なるほどぉ」
俺はそう言いながら、スマホを取り出してみる。
そこには、何故か水谷さんからの着信と、越田さんからのメッセージが届いていた。
あと、何故か山井拓人さんからも。
小林さんと米原さんは見合ってくすりと笑う。
そして、米原さんが俺に言った。
「既に接触が始まっているようですね。【天武会】では三つの部門があります。一つ【新設クラン部門】、二つ【クラン部門】、三つ【個人部門】。伊達殿は集団戦でも個人戦でも活躍が期待出来るでしょうし、大手クランが動くのは必然」
「な、何てこった……」
俺が頭を抱えていると、米原さんは嬉しそうに俺に聞いた。
「【ポ
何という女王スマイル。
確かに、大手クラン【ポ
「すみません、それはお断りします」
「あら、それは残念です」
この目は諦めていない目だ。
彼女からのアプローチにも気を付けたいところだ。
「俺は、自分のクランを創るつもりですから」
そう、俺は、一昨日の一件から、川奈さんと翔と一緒に道を歩む事を決めていた。だから、俺は大手クランには入らない。そう決めたのだ。
俺の覚悟に驚いたのか、米原さんは目を丸くして俺を見た。
「【インサニア】のクラン潰しは
「…………ク、クラン潰し?」
「ご存知ありません? クランが契約している企業を、強引な手法でことごとく切り替えさせたり、架空の依頼を発注したり、事務所にやって来て直接嫌がらせしたり……」
き、聞きたくなかった……。
完全に俺が住んでた世界とは別世界かもしれない。
クランって色んな問題が起こるんだな……さて、どうしたものか。
「伊達殿が望むのであれば、【ポ
言いながら微笑んだ米原さん。
さっき諦めた目をしていなかったのは、こういう意味があったのか。傘下クラン……そういう道もあるのか。
だが、これは断らねば……そう思った矢先。
応接室の扉が開かれた。
現れたのは、川奈さんと、小指で耳をほじってる翔。
「ウチは、どのクランの傘下にも入りませんっ!」
聞き耳でも立てていたのだろうか。
川奈さんが断ってしまった。
「おう、嬢ちゃん。逆だ逆ぅ」
翔の言葉に、小林さんと米原さんが目を丸くする。
「ウチの傘下クランになりたかったら、いつでも玖命んとこ連絡してきな! 守ってやんぜ! カカカカカッ!!」
何故なら――、
「ぷっ、あはははははっ!!」
女王が爆笑し始めたのだから。
「ははははははははっ!!」
小林さんもお腹を抱えて笑っている。
やはりそうだろう、そういう反応にもなるだろう。
俺たちはまだ、クラン創設すらしていないのだから。
だが、そうではなかった。そうではなかったのだ。
目に涙まで溜めた米原さんは、俺を見据え、耳を疑うような事を言ったのだ。
「ふふふふ、確かにそれは面白いかもしれませんね」
「へ?」
「こちら、私の名刺です」
「あ、これはご丁寧に……」
「伊達殿の連絡先はこばりんから共有しても?」
「あ、どうぞどうぞ……」
「では、時が来た際、傘下クランの件、詳しくお話しさせて頂きたく思います」
「はぁ………………はぁ?」
そんなやり取りの後、俺たちは【ポ
◇◆◇ ◆◇◆
「カカカカカッ!! ありゃ本気の顔だぜ、玖命ぇ!」
バシバシと俺の背中を叩く翔と、
「大丈夫! 【ポ
鼻息荒く意気込む川奈さん。
「いやいや、そんな訳ないでしょう。あれは俺たちをからかってただけですよ」
「カカカカッ! ま、いいんじゃねーの? 玖命はそれで!」
「そうです! 伊達さんはそのままでここまで来たんですから、そのままでいいんですよ! うんっ!」
どこか馬鹿にされているような気がするのは気のせいだろうか。
そんなやり取りの後、俺はスマホを取り出した。
先程の水谷さん、越田さん、山井さんの連絡を思い出したのだ。
一番古い連絡は……山井さん?
たっくん――玖命、聞いてよ! 番場にやられちゃったよー!
たっくん――昨日付けで【インサニア】辞めちゃったー!
たっくん――もう関西は堪能したから明日から東京行くねー^^
たっくん――いおりんに聞いたけどクラン創設するってホント?
たっくん――たっくん今フリーでーす^^
たっくん――履歴書とかあった方がいい?
たっくん――職歴は一つなんだけど、経歴が大変な事になるかもー
たっくん――お、既読付いた!
「……………………既読付けちゃった」
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