第164話 終着駅

「おい、翔。いつ起きたんだよ」

「玖命がバタバタし始めた時からだな。お、やっぱこの時のフェイントが活きてるじゃねーか! アレが決まった時の男の顔、今思い出すだけで笑えるぜ! カカカカカッ!」


 駄目だ、スマホの動画を観ながら、自分の戦闘に完全に酔いしれてる。

 俺は月見里やまなしさんに向き直る。


「【ポット】がここまでスレスレな行動をしてくるのは、アンタの天恵のせいでもある。これは山井さんが直接連絡してきたから知ったんだけどね」

「俺の天恵のせい……」

「八神もそうだけど、【鑑定】、【魔眼】で視られない天恵はどの天才も、どのクランも警戒する。伊達の天恵情報は、おそらく【ポット】であれば既に入手しているはず。でもね?」


 月見里やまなしさんの視線が怖くなった。

 というか、ようやくニキニキ言わなくなったな。


「それは、四条が上げた情報までよ」


 目を細め、俺を見る月見里やまなしさんは……完全に俺を疑っている……というか、見定めようとしている雰囲気だ。


「流石の私でもわかるわよ。アナタが最下級の天恵だけでここまでやってきた訳じゃないって事は」

「な、なるほど……」

「なるほどじゃないわよ。伊達の天恵情報だけじゃ違和感ありまくり。それじゃ米原に目を付けられても無理はないわ」

「米原さんって、そんなに未確認の天恵を知りたいんですね」


 言うと、月見里やまなしさんはちらりと扉を見てから声を落として言った。まるで、人目を気にするように。


「米原は恐れてるのよ。自分を脅かす存在がいるんじゃないかってね」

「米原さんを……脅かす存在?」

「配信チャンネルじゃ樹子姫なんて言ってるけど、アイツの正体は女王みたいなもんよ」

「女王……?」

「ま、それは明日わかる事よ」

「明日?」

「小林と約束したでしょ? 仕事が終わったら米原と会うって」

「あー……そういえばそうでしたね」


 俺がそこまで言ったところで、月見里やまなしさんの顔が引きった。


「ひっ」


 視線の先は、俺の左肩口。

 見ると、その先には鳴神さんちの翔君が立っていた。


「おうネーちゃん」

「な、何よ?」

「その面会ってやつ、俺様も交ぜろや」


 親指で自身を指差し、堂々の面会参加宣言。

 直後、開くドア。


「私も行きますっ!」


 現れたのは川奈さんちのららちゃん。


「しょ、正気……?」


 月見里やまなしさんの質問に、二人は無言の圧力だけで答えた。


「い、いや、それは私の権限じゃ出来ないわよ。そもそもの約束は伊達がとったんだから」


 無言の圧力が俺にきた。


「そういえば、あれは個人間の約束でしたね」

「そう、だから米原に会いたいなら、伊達が小林に連絡するしかないのよ」

「えー……」


 俺が難色を示していると、翔が肩を組みながら言ってきた。


「玖命ぇ、北海道でのラーメン代は俺様がもってやんぞ?」


 川奈さんは肉薄しながらいつものプレゼン。


みことさんの帰りの飛行機代は私がもちます! という事で、既に許可は頂いてます!」


 川奈さんはプレゼンを俺にせず、みことにしていたらしい。なるほど、確かに効率的である。みことが許可を出せば、俺が有無を言えなくなる事を、川奈さんは知っているのだ。

 翔の言い分も……まぁ、北海道の食費が浮くならいいか。

 そう思い、俺は二人に言った。


「俺はいいけど、最終的な許可を出すのは【ポット】の米原さんだからな? 川奈さんも、それでいいですか?」

「おうよっ!」

「はーいっ!」


 聞き分けのいい連中だ事。

 その日、俺と翔はそのまま入院となり、川奈さん、月見里やまなしさん、四条さん、みことの四人は、北海道旅行を満喫する一日を過ごしたそうだ。

 俺と翔のToKWトゥーカウには連絡が止む事はなく、二人して歯痒い思いをした夜だった。

 そして翌朝。


 ◇◆◇ 20XX年8月29日 9:00 ◆◇◆


「はははは……まさか許可が出るとはね……」

「カカカカッ! 女王がなんぼのもんよ!」

「しっかりご挨拶をしなくちゃですね! 私たちの代表が、北海道のトップと顔を突き合わせるんですから!」


 意気込む川奈さんだが……え、そういう解釈になるの?

 俺が首を傾げていると、川奈さんはそれに気付いたのか教えてくれた。


「今後、私たちは関東のトップクランになるんですから、トップ対談するのは当然ですよ!」


 凄い意気込みだ。

 最早もはや日本一のクラン【大いなる鐘】の事なんて、考えていないかのようだ。


「あ、伊達さーん!」


 手を振り、俺に声を掛ける人物……小林こばやし涼平りょうへい

 彼を見た瞬間、川奈さんの表情が曇る。


「大丈夫?」

「いえ、彼……かなり強いですね」


 そう言うと、俺と翔は見合って……笑った。

 それが川奈さんの成長を喜んでの笑みだという事を理解した俺たちは、更に大きく笑った。


「ははははっ!」

「カカカカッ!」

「むっ! ちょっと何ですか、二人して!」


 おそらく、今の川奈さんであれば、以前我が家で集まった時の、桐谷さんと山下さんの足音に気付けるだろう。

 俺はそれが嬉しく、おかしかった。

 もしかしたら川奈さんは覚えていないかもしれない。でも、あの時の自分をしっかり飛び越え、成長しても尚、成長をやめない川奈さんを、嬉しく思ったのだ。


「カカカカッ! ウチは面白ぇクランになりそうだぜ、なぁ玖命ぇ!」

「はははは! あぁ、そうだな!」

「あ、ちょっと! 私だけのけ者にしないでくださいよー! ところで、クランメンバー募集はいつから始めますか!? 早い方がいいと思うんですよね、私っ!」

「あぁ? そんなの選考テストでもやりゃいいじゃねーか!」

「そもそもの選考テストに誰も来ない可能性があるじゃないですか! まずはHPホームページを作って! あ、引き抜きとかどうですかっ!? 伊達さん、結構強い知り合いいますよね!?」

「いや、いるにはいるけど……」

「水谷さんとか、前に会ったっていう山井さんとかどうですか?」

「カカカカッ! 【剣皇】を引き抜くってか! そりゃ戦争の始まりだなっ! おう、お前ぇ小林だったな!? ウチのクランに入る気はねーか!?」

「おい翔! お前も火種だよ!!」

「カカカカッ! 火種上等ぉ!!」

「炎上が怖くて戦場にいられますかっ!!」


 とんでもない仲間を持ったなと呆れる一方で、俺はこの頼もしい仲間たちを誇りに思っていた。

 ここが、俺個人の終着駅。


「玖命ぇ!! 早く来いよぉっ!!」

「伊達さんっ!! こっち! こっちですよっ!!」


 これからは、俺は、俺たちは、クランという大きな個として、歩き始めるのだから。












 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 後書き ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 これにて、『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』の第三部を幕とします。

 本当は米原に会って幕としたかったのですが、会ったら会ったで落としどころを見失いそうなので、ここが一番キリがいいかなと思い、ここで一旦落とす事にしました。


 次からは第四部ですね。

 いよいよ物語がクラン創設に向かいます。

 米原との面会から始まり、川奈さんの父親にも動画の事は絶対バレてるだろうし、玖命が【道化師】の天恵を得られなかった謎もありますね。それ以外にもちらほら色々ありますが、第四部では西の【インサニア】も出したいところ。

 天才武闘集団とか面白そうじゃないですか・x・

 玖命がCランクになれば、ダンジョン攻略も出来るようになるでしょうが、アノ問題もありますからね。そこはちょこちょこ補足しつつ書いていくつもりです。




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 ⇒@hihumi_monokaki



 それではまた、いつかの後書きでお会いしましょう。

 明日からもまた、よろしくお願い致します。


           壱弐参


 追伸:別の作品も連載してたり完結してたりするので、是非ご一読ください。

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