第163話 ◆樹子姫のGoTo天チャンネル4

 その後も、玖命の姿を追う動画が流れ続ける。


 ――さっきから魔法剣魔法剣いってるけど、そんなん存在すんの?

 ――ある訳ないよ。都市伝説みたいなもん。

 ――は?二刀流使い出したぞ!?

 ――剣士どころか双剣士そうけんし!?

 ――双剣士とか初めて知ったんだけど!?

 ――はぁあああああああ!?肩の傷回復してね!?

 ――ナニコレナニコレ!?

 ――わけがわからないよ…

 ――え、猫りん逃がすの?

 ――草。あのポータル使う気か。

 ――すげぇな、戦いながらこの作戦思いついたのかw


『う~ん……いいなぁこの人、【ポット】に欲しいなぁ~』


 ――わかる

 ――わかりみが深い。

 ――猫ニキ、グールとかゾンビって言われてるwwww

 ――ショック受けてるwwww可愛いww

 ――猫りん逃げたwwポータル突入ダー!!

 ――ちゃっかりカメラ置いてってるの、猫りん流石過ぎる


『わ……わ……一気に猫ニキがピンチだよぉ!?』


 ――いっちゃんも猫ニキ呼びしてるの笑うw

 ――うっわ、今刺された……やば……

 ――おい!顔隠すよりこっち隠せよ!

 ――やばい!猫ニキ死んじゃう!!

 ――うぉおおお!?モンスターきたぁああああああっ!!

 ――ゴブリン、オーク、オーガ……これ、猫ニキの援軍なん?

 ――乱戦に持ちこんで戦況に変化を加えたのかな?


『第二ラウンドって感じだね! 猫ニキはどうなるのか……!』


 ――始まった!

 ――すげぇえええええええええww全部捌いてる!!

 ――いやいやいや当たってる当たってる!

 ――無理無理無理無理!!

 ――いてぇええええええええええええええええ

 ――ちょ待てwwww傷wwww消えてるwwww

 ――何で回復してんの!?回復魔法!?

 ――猫ニキ複数の天恵使えるんじゃね?

 ――↑あり得ない。過去そんな天恵は見つかってない

 ――だから今見つかったんじゃねーの?

 ――動きが遅くなってる?

 ――血を流し過ぎてる。もうフラフラ……

 ――猫ニキ……頑張れ……!!


『はわわ!? 何だろう今の!? 何か飛んできたよね!?』


 ――盾っぽかったけど、何だろ?

 ――猫りん復帰?


『ルァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』


 ――イヤホンぶっ壊れるかと思った。

 ――ヘッドホン死んだ。

 ――俺が死んだ。

 ――うるせえwwwwww


 翔の登場を思い出し、顔を綻ばせていた玖命だったが、直後、その場に立ち上がる。


「っ!? はぁ!?」


 玖命が驚いたのも無理はない。

 何故なら、動画内に現れた川奈ららと鳴神翔には――、


 ――リーゼントのいかちぃ野郎だ

 ――モザイク無し、、、、、、って事はこいつらも【はぐれ】?

 ――女の子可愛くね?

 ――まだ中学生くらいだろ?

 ――でも、二人共猫ニキを助けに来たんじゃない?

 ――隣に立ってるもんね


 そう、川奈と翔には、顔にモザイク処理が施されていなかったのだから。

 月見里やまなしはこれから起こるであろう事を予測し、動画を一時停止する。


「ど、どどどどどどどういう事ですかぁ!?」

「待て、待て待て待て! 顔! 顔っ! 近いから!」


 肉薄する玖命から詰められ、しかしまんざらでもない様子の月見里やまなしだったが、説明を待っている玖命に対し、一つ咳払いをしてから答える。


「【ポット】の言い分は何だと思う?」

「は!?」

「アンタは小林とどういう契約を交わしたのか忘れたの?」


 そこまで言われ、玖命は思い出す。

 小林は確かに自身への配慮を約束してくれた。

 しかし、それが川奈と翔にまで及ぶとは言っていないし、約束していないのだ。


「しかも、この二人は、【ポット】の言い分では【はぐれ】とほぼ同じ扱いよ」

「な、何で!?」

「【はぐれ】とは天恵を持ちながら、法を犯す輩の総称……でしょ?」

「ふ、不法侵入ぅ……!?」

「ご名答。この施設に侵入が許されてるのは、伊達ニキと伊達ニキに許可された小林まで」

「伊達ニキって……」

「それ以外はただの犯罪者って事になるの。まぁ、派遣所も食い下がったんだけどね。【ポット】からすれば、「そんな契約はしていない」って事。あの日、小林とレンタルルームで話した録音データまで添付されちゃったわよ」


 肩をすくめる月見里やまなしだったが、やはり玖命は納得がいってない様子。

 頭を抱える玖命だったが、すぐに思い出す。


「こ、この事、川奈さんは!?」

「勿論、もう知ってるわ」

「なのに、あんなに元気に振舞ってっ!? な、何て健気な……!」

「全国デビューした事を喜んでたわね」


 ガクリとその場に膝を折る玖命。


「くそ! 容易に想像出来てしまうっ!」

「ま、父親にバレるのだけは嫌だったみたいだけど、それもすぐ関係なくなるとか?」

「ど、どういう事ですかっ!?」

「『伊達さんのクランに入るから大丈夫ですっ!』らしいわよ」

「……ちょっと似てました」

「ま、この二人の素性はもう特定されてるみたいだし、猫ニキの正体がバレるのも時間の問題って事ね」

「そ、そうか……川奈さんがチームを組んでるのは俺と翔だけ……だとしたら、刀使いの俺が動画の男だと判明するのも…………何てこった」

「【ポット】の政治的手腕ってところかしら。まぁ、今回は棚からぼた餅状態だったけど、それを上手く使ったってところね」


 月見里やまなしの説明に納得せざるを得なくなった玖命は、それからしばらく俯いていた。


「ところでアナタ」

「……何ですか?」

「鳴神の事は頭にきてないのね?」


 月見里やまなしが言うと、玖命は翔のベッドの方を指差して言った。


「だって……」


 玖命によって死角になっていた翔の方を、月見里やまなしが見ると――、


「カカカカッ! 中々カメラ映りがいいじゃねーか!」


 先の動画を観ながらニヤケ面を浮かべる鳴神翔の姿が、そこにあったのだった。

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