第158話 ◆名もなきクラン2

「……一瞬ですよ」


 視界に映る情報が、玖命にその言葉を言わせた。


 ――【考究こうきゅう】の進捗状況。天恵【剣皇】の解析度12%。天恵【双剣士】の解析度40%。天恵【聖騎士】の解析度98%。天恵【武将】の解析度99%。天恵【士官】の解析度8%。天恵【凶戦士】の解析度84%。天恵【スナイパー】の解析度77%。天恵【大魔導士】の解析度81%。天恵【聖者】の解析度98%。天恵【拳聖】の解析度62%。天恵【上忍】の解析度66%。天恵【腕力A】の解析度56%。天恵【頑強A】の解析度45%。天恵【威嚇A】の解析度50%。天恵【脚力A】の解析度43%。天恵【魔力B】の解析度59%。天恵【体力B】の解析度11%。天恵【再生力B】の解析度12%。天恵【超集中】の解析度88%。天恵【心眼】の解析度88%。天恵【天眼】の解析度7%。


(【聖騎士】、【武将】、【聖者】が間もなく成長する……いや――、)


 側面から襲って来たオーガ。

 川奈のヘイト集めから逃れたモンスターが玖命を襲う。


「ふっ!」


 玖命はこれを的確に処理し、首を落とした。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【将軍】を取得しました。


(よし……!)


 そのタイミングで川奈からの声が届く。


「伊達さん! 準備完了ですっ!」


 全てのモンスターを通路側へ誘導した川奈からの合図。


「完璧なタイミングです、川奈さん!」

「ふふふ~、鍛えてますからっ!」


 川奈が顔をニヤつかせた直後、強敵阿木あぎ龍己たつきの前で、玖命は大胆な行動に出た。


「なっ!?」


 なんと玖命は、阿木を背にし、一直線に並ぶ通路側のモンスターへと振り向いたのだ。


「サンダーランス……!」


 振り向くと同時、通路側に放った無数のいかずちの槍は、隙間なく一直線に進んだ。


「「ギィァアアアアアッッ!?!?」」


 ゴブリンはこれに触れるだけで焦げ、オークは身体を貫かれ、オーガはこれを何とか受けるも、感電は免れない。

 そのまま川奈の剣に魔法剣を施した玖命は、再び振り返り、残りのオーガを川奈に託した。


「弱ったオーガなら、川奈さんでもいけるはずです」

「もっちろんですよ!」


 言うと、川奈は全力で駆け出した。

 背後を信頼する仲間に任し、玖命は再び阿木と対峙する。

 あまりにも突飛な行動だったが故、阿木はその意図を理解出来なかった。

 しかし――、


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【天騎士】を取得しました。

 ――天恵【大聖者】を取得しました。


 結果は出た。

 女だけが得る事の出来る【大聖女】。

 かつて、【大いなる鐘】の【大聖女】あかね真紀まきは、【スピードアップ】という速度上昇魔法を第1班の皆に施した。

 しかし、男だけが得る事の出来る【大聖者】には、これが出来ない。代わりに可能なのが――、


「【パワーアップ】……!」


 言いながら歩き始め、徐々に阿木との距離を詰める玖命。

 その大胆な進行に、阿木は呆気にとられながらも憤慨する。


「くっ! ば、馬鹿にしやがってっ!」


 大きな隙を見せる玖命の前進は、阿木のプライドを大きく傷つけた。

 それが玖命の狙いだとも知らずに。


「あの世で後悔するんだな! カァアアアアアッ!!」


 玖命の大きな隙を見、阿木は大きく動いた。

 何故ならば、その隙は、玖命と阿木の差を更に拡げるものだったからだ。

 しかし、阿木は知らなかった。理解する事も出来なかった。

 玖命は言葉通り、一瞬で阿木との実力差を埋め、更には自身に対し強化魔法を施した。これにより、玖命と阿木との差が逆に傾いた。

 経験豊富な【はぐれ】阿木龍己。年老いても鍛錬をやめず、自己を高め、油断などする事もない。

 だが、今この瞬間起きた事実は、阿木にとって生涯初めての出来事だった。


 阿木の放った自己最速の突きは、数分前の玖命では絶対にかわせない一撃。今の玖命の隙ならば、確実に仕留められる一撃。

 ――だったはず。

 阿木は見た。


(……馬鹿なっ!?)


 阿木の視界に映った玖命は、身を低くし、下段から真っ直ぐ刀を振り上げ、阿木の槍を撫でるように切断した。

 左から右へ移動しながら槍を切断し、振り上がった刀の刃が返る。

 振り下ろす刀の峰が向かう先は――、


「ガッ!?」


 阿木の前頭部。

 一瞬で成長し、流れるような玖命の一撃をかわす事など、阿木には出来なかったのだ。

 意識を失いそうになる中、阿木は仲間の銭を見やった。

 それが何の合図なのかは、銭にもすぐに理解出来た。

 玖命が膝を突き、翔の体力も限界寸前。

 そんな中、銭は翔の攻撃を掻い潜り、ポケットに入っていたリモコンを操作した。

 鳴り響くのは……けたたましいサイレンの音。

 機械という機械から赤色灯のランプが点き、工場内に何らかの問題を知らせる。

 それが何なのか、翔には理解出来なかった。


「てめぇ、何をしやがった!?」

「はははは、それは自分で考えてみる事っすね!」


 銭がそう言いながらもちらりと見やったのは、川奈がいる通路側。

 普段の翔ならば気付けていただろう。しかし、動き通しで体力が限界の翔には、それが銭の視線誘導だと気付く事は出来なかった。

 突如開けられた通路側の扉。

 川奈は最後のオーガを倒した後、正面に現れたモンスターに驚愕した。


「わ、わわわっ!? ゴブリンキングにエティン! それにオークジェネラルですぅ!?」


 川奈一人でこれを対処するのは不可能。

 玖命も振り返りこそするものの、身体に力が入らない。

 これを見過ごせる翔ではなかった。


「クソが! ダンジョンのボスを全部集めやがったかっ!!」

「さぁ、どうする?」


 ニヤリと笑う銭を相手にしている時間はない。

 翔は断腸の思いで銭から目を切り、川奈の救援へと走る。

 その背後で銭は、三人の視界から消え、姿をくらましてしまったのだった。

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