第158話 ◆名もなきクラン2
「……一瞬ですよ」
視界に映る情報が、玖命にその言葉を言わせた。
――【
(【聖騎士】、【武将】、【聖者】が間もなく成長する……いや――、)
側面から襲って来たオーガ。
川奈のヘイト集めから逃れたモンスターが玖命を襲う。
「ふっ!」
玖命はこれを的確に処理し、首を落とした。
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【将軍】を取得しました。
(よし……!)
そのタイミングで川奈からの声が届く。
「伊達さん! 準備完了ですっ!」
全てのモンスターを通路側へ誘導した川奈からの合図。
「完璧なタイミングです、川奈さん!」
「ふふふ~、鍛えてますからっ!」
川奈が顔をニヤつかせた直後、強敵
「なっ!?」
なんと玖命は、阿木を背にし、一直線に並ぶ通路側のモンスターへと振り向いたのだ。
「サンダーランス……!」
振り向くと同時、通路側に放った無数の
「「ギィァアアアアアッッ!?!?」」
ゴブリンはこれに触れるだけで焦げ、オークは身体を貫かれ、オーガはこれを何とか受けるも、感電は免れない。
そのまま川奈の剣に魔法剣を施した玖命は、再び振り返り、残りのオーガを川奈に託した。
「弱ったオーガなら、川奈さんでもいけるはずです」
「もっちろんですよ!」
言うと、川奈は全力で駆け出した。
背後を信頼する仲間に任し、玖命は再び阿木と対峙する。
あまりにも突飛な行動だったが故、阿木はその意図を理解出来なかった。
しかし――、
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【天騎士】を取得しました。
――天恵【大聖者】を取得しました。
結果は出た。
女だけが得る事の出来る【大聖女】。
かつて、【大いなる鐘】の【大聖女】
しかし、男だけが得る事の出来る【大聖者】には、これが出来ない。代わりに可能なのが――、
「【パワーアップ】……!」
言いながら歩き始め、徐々に阿木との距離を詰める玖命。
その大胆な進行に、阿木は呆気にとられながらも憤慨する。
「くっ! ば、馬鹿にしやがってっ!」
大きな隙を見せる玖命の前進は、阿木のプライドを大きく傷つけた。
それが玖命の狙いだとも知らずに。
「あの世で後悔するんだな! カァアアアアアッ!!」
玖命の大きな隙を見、阿木は大きく動いた。
何故ならば、その隙は、玖命と阿木の差を更に拡げるものだったからだ。
しかし、阿木は知らなかった。理解する事も出来なかった。
玖命は言葉通り、一瞬で阿木との実力差を埋め、更には自身に対し強化魔法を施した。これにより、玖命と阿木との差が逆に傾いた。
経験豊富な【はぐれ】阿木龍己。年老いても鍛錬をやめず、自己を高め、油断などする事もない。
だが、今この瞬間起きた事実は、阿木にとって生涯初めての出来事だった。
阿木の放った自己最速の突きは、数分前の玖命では絶対にかわせない一撃。今の玖命の隙ならば、確実に仕留められる一撃。
――だったはず。
阿木は見た。
(……馬鹿なっ!?)
阿木の視界に映った玖命は、身を低くし、下段から真っ直ぐ刀を振り上げ、阿木の槍を撫でるように切断した。
左から右へ移動しながら槍を切断し、振り上がった刀の刃が返る。
振り下ろす刀の峰が向かう先は――、
「ガッ!?」
阿木の前頭部。
一瞬で成長し、流れるような玖命の一撃をかわす事など、阿木には出来なかったのだ。
意識を失いそうになる中、阿木は仲間の銭を見やった。
それが何の合図なのかは、銭にもすぐに理解出来た。
玖命が膝を突き、翔の体力も限界寸前。
そんな中、銭は翔の攻撃を掻い潜り、ポケットに入っていたリモコンを操作した。
鳴り響くのは……けたたましいサイレンの音。
機械という機械から赤色灯のランプが点き、工場内に何らかの問題を知らせる。
それが何なのか、翔には理解出来なかった。
「てめぇ、何をしやがった!?」
「はははは、それは自分で考えてみる事っすね!」
銭がそう言いながらもちらりと見やったのは、川奈がいる通路側。
普段の翔ならば気付けていただろう。しかし、動き通しで体力が限界の翔には、それが銭の視線誘導だと気付く事は出来なかった。
突如開けられた通路側の扉。
川奈は最後のオーガを倒した後、正面に現れたモンスターに驚愕した。
「わ、わわわっ!? ゴブリンキングにエティン! それにオークジェネラルですぅ!?」
川奈一人でこれを対処するのは不可能。
玖命も振り返りこそするものの、身体に力が入らない。
これを見過ごせる翔ではなかった。
「クソが! ダンジョンのボスを全部集めやがったかっ!!」
「さぁ、どうする?」
ニヤリと笑う銭を相手にしている時間はない。
翔は断腸の思いで銭から目を切り、川奈の救援へと走る。
その背後で銭は、三人の視界から消え、姿を
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