第157話 名もなきクラン1

 右側に翔、左側に川奈さんがいるだけで、何て安心出来るんだろう。目の前にいる男たちが、どれ程の力を持っていたとしても、今、俺が負ける要素はない。


「くっ! せん、作戦変更だ」

「っ! 了解……っ!」


 銭は俺を睨み、阿木あぎもまた、翔を警戒していた。


「しゃあああああっ!」


 翔が駆け出し、俺はその背後に付く。

 その際、川奈さんへの援護として、魔法剣とファイアピラーを設置。これにより川奈さんへのルートが限定され、モンスターの移動はある程度川奈さんがコントロール出来るようになる。


「ありがとうございます! 集合っ!」


 川奈さんのヘイト集めにより、モンスターの行進が始まる。

 今の川奈さんならば、たとえオーガが3体突進したとしても耐えられる。

 何故なら、今の俺には天恵【士官】がある。

 これにより、川奈さんと翔の実力が底上げされ、これまでにない力を発揮出来るだろう。


「オラオラオラオラァッ!! どこに目ぇつけてんだ爺ぃ!!」

「くっ! 何という攻撃!! SSダブルとてこのような力は……いや!?」


 翔の攻撃に押されていた阿木が、驚いた様子で俺を見る。


「っ!」


 遅れて銭もそれに気付いたようだ。


「そういう事か、貴様……!」

「俺の天恵を模倣してるっすね!?」


 流石は八神を知る二人。

 まぁ、これは当たらずとも遠からずというレベルだ。

 実際、俺の天恵は八神とは違うタイプの天恵だ。

 しかし、複数の天恵を俺が使えるという事前情報から、この戦闘で俺が銭の天恵を得たと思ったのだろう。

 勿論、俺には模倣出来る天恵はない。


 ――何故なら俺は、八神やがみ右京うきょうを倒した時、【道化師】の天恵を得る事が出来なかったのだから。


「くっ! 止めるっす!」

「そんなへっぴり腰で、俺様の拳が止められるかよっ!」


 銭の盾をぶん殴る翔。盾は鈍く大きな音を発した。

 しかし、相手も流石に第4段階。


「つぉ!? や、やるじゃねぇか!」


 翔の一撃は止められてしまう。

 だが、


「とでも言うと思ったかボケェ!!」


 言いながら翔は反転し、阿木を蹴った。


「「なっ!?」」


 その反転に、反転して合わせ、翔の代わりに銭へ攻撃するのは……俺。


「ハァアアアアアッ!!」

「んな馬鹿な!? くっ!?」


 盾は再び鈍く重い音を発した。

 吹き飛ばされた盾は川奈さんの方へ向かい、複数のモンスターを巻き込んだ。


「ナイス援護ですっ! さぁ、こっちですよー!」


 川奈さんは順調に通路側へモンスターを誘導している。

 これならば、後少しで……!


「翔!」

「任せろ、ヘッドぉ!!」


 翔は阿木への攻撃から再び銭への攻撃にシフトする。

 盾を失った【将校】が頼れるのは、剣のみ。

 ならば、翔のが有利。

 俺は俺で阿木を牽制する。


「ハアアアアッ!!」

「んんんんぁっ!!」


 気合いの声と共に、槍と刀が交叉する。

 と同時に、阿木の顔が歪む。


「くっ、厄介な魔法剣だっ! カァアアアアアアアッ!!」


 ダメージ覚悟の連続突き。

 剣でいなし、刀で突く。


「遅いわ阿呆っ!」


 いなした剣が上段へ回り、阿木の頭部へと向かう。


「我流のようだが見事! がしかし、我が槍の前では児戯も同義!」


 上段の剣先を槍の穂先に合わされてしまう。


「ぬんっ!」

「くっ!?」


 流石に剣で槍の攻撃力を上回るのは厳しい。

 ならば、次の手だ……!

 後退しながら跳び、川奈さんの周辺にいるモンスターを撃破。

 同時に周囲に範囲型魔法スパークボルトを展開。


「スパークボルト!」

「わわわ! だ、伊達さんっ! ちょっと近いです! 当たっちゃうところでしたよ!」


 よし、阿木が追って来た。

 これならば――、


「川奈さん!」

「え?」

「腰を落として!」

「こう!?」

「踏ん張って!」

「女の子に何させるんですかっ!?」


 言いながらも、しっかり腰を落とした川奈さん。

 瞬間、川奈さんの大盾から物凄い轟音が鳴った。

 それは、阿木の本気の突きが大盾に当たった証拠と言えた。


「いったーい!? 痺れちゃったじゃないですかっ!?」


 凄いな、正直想像以上の硬さだ。

 俺の【士官】と川奈さんの【聖騎士】が合わされば、彼女の実力は【天騎士】を超える。


「馬鹿な!? 銭以上に硬いだとっ!?」

「ウチの壁役シールダーは鍛え方が違うんですよ……!」

「猪口才な!」


 苛立ちを見せる阿木をよそに、俺は言った。


「川奈さん、後方チェック!」

「後方チェック了解ですっ!」


 前方と後方を入れ替えるように、俺と川奈さんの位置が変わる。

 再び阿木と対峙した俺は、迫りくるオーガの頭部目掛け、この武具工場で手に入れた剣を投擲。これによりオーガの頭部が破壊される。


「ふん、二刀流をやめるか」

「剣と刀じゃ、ね……」

「確かに、これまでよく使いこなしたと褒めるべきだろうな」

「はははは、敵に褒められてもねぇ……」

「立ち回りも見事。モンスターに魔法の網を仕掛けると共に、私を追わせた。魔法による隙は女がカバー……並みの信頼では出来んな」


 阿木の言葉に対し、俺は何も言わなかったが、真後ろにいた川奈さんは違った。


「もっと褒めてくれてもいいんですよっ!?」

「ふん、子供のお遊戯レベルでない事は確かだな」

「んもうっ! もうちょっと言葉を選んでくださいっ!」


 川奈さんは褒めると喜ぶ。覚えておこう。

 さて、ほぼ全てのモンスターが通路に集まったな。


「川奈さん、グッジョブです」

「もっと別の褒め方があるでしょう、伊達さん?」


 まだ褒めて欲しかったのか。

 翔と銭の戦闘も佳境……いや、翔のあの表情。

 あれは……何であんなに疲れてるんだアイツ?

 まぁ、あの調子なら翔も長くは持たないだろう。

 俺の身体も限界。

 川奈さんこそ無傷なものの、俺たちが倒れれば、その命はない。

 ならば……、


「ふん、決着が近い、な」


 腰を落とし大きく構える俺に、阿木が言った。

 だから俺は、


「近いんじゃありません」

「何?」


 阿木に言ってやった。


「……一瞬ですよ」

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