第156話 ◆孤立無援2
(Bランクモンスター【オーガ】。赤鬼エティンはこいつらの亜種と言われている。エティン程大きくはないが、人間の倍程の体格では、この地下は狭いようだ。奴らの天恵を得る事が出来れば、俺はまだ……戦える!)
玖命がオーガを見据えると同時、再び阿木が駆け出した。
狙う先は当然、玖命。
深手を負った玖命を倒す事が何よりも先決。
銭もまた、それを理解していた。
「我らが奥に回るだけの事よ! ハァ!」
「そうそう、背中はアンタに任せるっす!」
その突進力を利用し、二人は玖命を攻撃すると共に、その背後へと回った。
だが――、
「は、ははは……ナイスパス……!」
弾かれた勢いそのままに、玖命は着地と同時に10体以上のモンスターを斬り払った。その中には、当然Bランクのオーガも含まれていた。
――成功。最高条件につき対象の天恵を取得。
――オーガの天恵【再生力C】を取得しました。
それは、先程の二人の煽り文句に、更に拍車をかける天恵だった。
「……マジかよ」
そう呟く玖命の言葉をいいように受け取った阿木と銭は、ニタリと笑った。
そして、玖命がモンスターに襲い掛かられると同時、再び
「対象集中、邪魔な奴だけ捌け」
「りょーかいっす!」
(くっ! ハズレじゃない。ハズレじゃないが、オーガの天恵が【再生力】とは思わないだろ!? これじゃ寿命が少し伸びただけじゃ――!)
玖命の考えはその通りで、実際、オーガの天恵は玖命を生きながらえさせた。
「カァアアッ! クッ、一体どうなっている!?」
「シャッ! って、さっきの腹の傷、消えてないですか!? 俺頑張ったのにー!?」
「それどころか胸元の傷まで消えかけてる!?」
「化け物かよ!? しかもこいつ、オーガばっか倒してるじゃないすか!?」
「当てても当てても……回復魔法の回復力ではとても説明出来ん!」
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【再生力B】を取得しました。
「はぁはぁはぁ……また生きられる……ははは!」
「馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ! 【聖者】だとしてもこれ程魔力は続かないはず!」
「何かさっきより戦いにくくなってるっす!」
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【士官】を取得しました。
「ハァアアアアッ!!」
斬っても斬っても現れるモンスターたち。
3つの
玖命が誇る回復力。
だが、それも限界が近かった。
【回復魔法】、【魔力】、【再生力】が
玖命から流れ出た血液はこれに該当する事はない。
奮闘しながらも、阿木と銭のタッグ力は、玖命の実力を上回っていた。
舞い散る鮮血が、ボタボタと落ちる血反吐が、かすり傷から垂れる小さな
「っ! 鈍った! 勝機っ!!」
「シャァアアアアアアッ!!」
猛攻に出た二人に対し、玖命の目は霞むばかり。
(ま、まずい……!)
確実に防ぎきれぬ手数と威力。
絶命が脳裏に過る瞬間、玖命の正面には大きな盾が突き刺さったのだ。
大盾は二人の猛攻に吹き飛ばされるも、その威を沈めるだけの硬度を誇っていた。
「馬鹿な!? まさか【剣聖】!?」
「いや、何すかあれ!?」
「ルァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
大気が揺れる咆哮。
「ゴーゴー鳴神号っ!!」と響く女の声。
そして吹き飛ぶモンスターの波。
意識も朦朧とする玖命が覚醒するには、十分な驚きだった。
「伊達さぁあああああああああああんっ!!」
「玖命ぇえええええええええええええっ!!」
背後から届いたその声が、玖命の
「は、はははは……幻聴じゃないな、この
剣で支え、何とか体勢を維持しつつ、振り返りながら
吹き飛ばされたミスリルクラスの大盾がグワンと鈍い音を立てながら壁に当たり、玖命に向かう。
玖命はこれを背後に向かって軽く蹴る。
回転しながら大盾が向かう先は――、
「あ! ちょっと翔さん! その大盾、私のですよ!」
「わざわざ取ってやったんだろうが!?
「雰囲気を壊す要素とも言えますっ! 今のは私が受け取った方がカッコよかったはずです!」
「わかってねぇな! 嬢ちゃんは! んま、俺様は俺様の魅力をわかってくれる
「翔さんが言うと何かイヤラシイ気がします」
「はぁ!?」
「確か、スケってスケベとかそういう意味からきてる言葉じゃなかったでしたっけ?」
「んな!? 俺様は硬派で通ってるんだよ!」
「それじゃあ、これからは気を付けるといいですよー」
「嬢ちゃんに一本取られちまったな! カカカカカッ!」
そう言いながらも、翔の威嚇は前方へ向いている。
それが何を意味するのかわからない阿木と銭ではなかった。
(とんでもない殺気……この時代にそぐわぬ男、どこかで!?)
(何すかあの鬼みたいな目……周囲のオーガが霞んじゃうっすよ!?)
それは当然、川奈も同じだった。周囲のモンスターを警戒しつつも、見据える先はフラフラの玖命。
玖命の隣に立ち、拳をパキパキと鳴らす翔が言う。
「よぉ、玖命。しばらくぅ」
「あぁ……よくここがわかったな……」
俯きながらも、口角が上がる玖命。
「ラクショーラクショー! カカカカッ! 面白い事になってんな? この修羅場、ちょっと交ぜてもらうぜ!」
「あぁ……悪いな」
フラフラの玖命の頭が、翔の肩に当たる。
「ガンバッたじゃねーか? おう、玖命、肩はいくらでも貸してやる。そんかし、俺様より先にぶっ倒れたらぶっ飛ばす。いいな!?」
「ったく、無茶言ってくれるよ……」
玖命の隣に立つ川奈らら。
「やぁ、川奈さん……」
「これだけ……伊達さんが、これだけ頑張ってたら、私が文句言える訳ないじゃないですかっ!」
「はははは、俺も毎日これはちょっと嫌だなぁ……」
「伊達さんは私たちの代表になる人なんですから、しっかりしてくださいっ! うんっ!」
それに便乗する翔。
「だな!
拳を握り、阿木と銭に向ける翔。
「伊達さん、指示を……!」
大盾を構え、腰を落とす川奈。
目を丸くした玖命が、嬉しそうに呟く。
「クランってのも、悪くないかもな……」
そして、残る全てを振り絞り、再び正面を見据える。
「翔、左の男は【将校】持ちだ。隣の爺さんの【将軍】を底上げしてるから注意しろ」
「おうよ、俺様はあのガキだな。任せとけっ!」
「川奈さん、モンスターの注意を引き付けつつ、通路まで誘導を。出来ますか?」
「バッチリですよ! 伊達さんの訓練に比べたらこんなのへっちゃらですっ!」
「よし……俺たちクランの最初の仕事だ……」
玖命が刀と剣を構え、腰を落とす。
「状況……開始……!」
「おっしゃぁあっ!!!!」
「はいっ!!!!」
玖命が笑い、川奈も笑い、翔は
この名もなきクランが、世界有数のクランへと成長するのは……まだまだ先の話。
しかし、玖命たちのクランが今日この時に始まったのは、まごう事なき事実だった。
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