第155話 ◆孤立無援1

「ハァアアアッ!!」


 玖命の一撃はせんはんに防がれ、その隙をいて、阿木あぎ龍己たつきが凄まじい突きを繰り出す。


「くっ!」


 無数の突き、玖命の顔が歪む。

 その足下から這うように現れた小林が、阿木の槍をかち上げるも、その槍の上段から銭が剣を振り下ろし、玖命の眼前へと槍を戻した。


(上手い! って、それどころじゃない!?)


 放たれた玖命への一撃は、その頬をかすめる。


ぅ!」


 しかし、その頬の傷は、即座に玖命の回復魔法が修復した。

 これを見て、阿木は笑い、銭は「うげぇ」という声を漏らす。


「はははは! グールのがまだマシだな!」

「きんも! グールって言うよりゾンビじゃないっすかー!?」


 両者に挙げられたモンスターの名前に、玖命が心を痛める。


「ぐぅ!? お、思わぬダメージ! だが――」


 直後、玖命の連撃が決まる。

 上段斬りを阿木に防がれ、続く下段斬りをせんに防がれるも、その後に続いた玖命の蹴りが銭の足をすくう。更に、阿木が受けていた玖命の剣先から、アイスニードルが発動したのだ。

 眼前でこれを放たれた阿木は3本の氷の針を一本かわし、続く一本をガチンと咥え、最後の一本をかろうじてかわした。

 ここで、玖命の足払いによって倒れた銭が復帰しようとするも、


「させませんよー」


 小林から更なる追い打ちをかけられる。


「あぶあぶあっぶ! おい! もう少しって――あ」


 銭が気付いた時には、もう遅かった。

 小林が顔面攻撃を仕掛ける事で、銭が盾を眼前に持っていく。

 これにより発生した銭の死角に入り、小林は一気に奥の通路に向かって走ったのだ。


「あー、くそ! 逃げられたっす!?」

「構わん! こちらを手伝え!」

「はいはいわかったっすよー!」


 小林が抜けた事で生じる、玖命の窮地。

 望んだ事とはいえ、二人の気迫にされる玖命。


「孤立無援だな」

「流石に俺たち二人相手にはさっきみたいな立ち回りは難しいっすよー?」


 銭の言葉は正しく、先程までは、小林が的確に援護や威圧をかけていたおかげで、玖命が上手く動けていた。

 小林は若くして【ポット】の中心人物の一人となった才人。

 戦闘巧者こうしゃが外れた事による穴は、玖命にとって大きな損失と言えた。


(やるしかない……小林さん……頼みますよ!)

「カァアアアアアッ!!」

「シャアアアアアッ!!」


 阿木と銭が吼え、玖命に迫る。

 玖命は二刀を構え、その衝突に備える。

 ――だが、


「ぐぁ!?」


 最初の衝突こそ受けたものの、当然、阿木の連撃は続く。

 的確に動く銭もまた、玖命の攻撃だけを受け続けた。

 受けに銭が回る事で、阿木はその全てを玖命へのダメージに向けられる。流石の玖命もその手数には勝てず、またたく間に傷が増えていく。


「くっ、クソッ!」

「そらそらそらそらっ! 背なの壁が迫ってるぞ!? ははははは!」

「楽勝モードっす!」

「くそっ!! ハァアアアアッ!!」


 咄嗟に正面へ出した炎の柱ファイアピラーも、


「しゃらくさい!」

「甘々っすよ!」


 阿木の槍によって掻き消され、間髪れぬ銭の追撃により、玖命は遂に大きな傷を負う。


「カ……フ……!?」


 銭の剣が玖命の腹部を貫く。

 狙いすましたかのような阿木のひと突きもまた、胸元に大きな穴を空ける。


「く……そ……」


 反射的に身体から刃を抜くも、阿木と銭は当然玖命を追う。


「逃がすかよ!」

「回復されちゃ困るんす!」


 ――成功。適正条件につき対象の天恵を取得。

 ――せんはんの天恵【下士官】を取得しました。


「くっ、やっぱりここが限界だったか……」

「限界ではない! ここが最後だ!」

「終わりっすよ!」


 二人の突きと斬撃が合わさり、玖命を壁まで吹き飛ばす。

 背中を強打した玖命が血反吐を巻き散らすも、その目は些かも諦めていない。

 二人を見据え、ニヤリと笑うのだ。

 そんな玖命の笑みをいぶかしみ、阿木が小さく零す。


「気味の悪い男だ……銭、とどめ――っ?」


 銭にそう言いかけた時、阿木の視線が玖命の目に向かった。

 その目は阿木でも、銭でもないナニカを見ていた。

 玖命の視線の先。それは、二人の後方にあったのだ。

 阿木は瞬時にそれに気付き、その視線を追った。

 直後――、


「うぉ!?」


 阿木は驚きを露わにし、背後に向かって槍を払った。

 銭は阿木の異様な反応に驚くも、それ以上の驚きが、先に待っていた。


「なっ、何すかこれっ!?」


 阿木と同じく振り向く銭。

 二人の背後にいる玖命がニヤリと笑う。


「それが……俺の援軍ですよ」


 玖命、阿木、銭の六つの視線が向ける先。

 そこには、オークとゴブリン。更には、Bランクのオーガまで無数にいたのだ。


「ちょ、ちょ……こ、これって!?」


 銭が驚愕し、阿木もようやく理解に追いつく。


「3つのポータル内から……【剣聖】小林が連れて来たか……!」


 阿木は、前方を警戒しながらも、視線は玖命へ向く。

 そう、この状況を作ったのは、阿木でも銭でもない。

 ここにいる伊達玖命なのだ。


「なるほど、援軍か……考えたじゃないか、坊主」

「この様子じゃ、ポータル内の【はぐれ】たちは小林にやられちゃったかもしれないっすねー。ま、あんな奴らどうでもいいっすけど」


 肩をすくめ、すんと鼻息を吐く銭。


「だけどいいんすか? 自分らも戦いにくくなったけど、アンタも結構ヤバイんじゃないすかー?」


 そう煽るように聞くも、玖命は首を振り、否定したのだ。


「……いや、俺にとっては援軍ですよ」


 そう言って、初めて見るBランクのオーガに視線を移動させた。


 ――【考究こうきゅう】を開始します。対象の天恵を得ます。

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