第151話 ◆JCAFの謎2

 大手クラン【ポット】所属の【剣聖】小林こばやし涼平りょうへいは、玖命の行動をいぶかしんだ。

 工場内には何もなく、小林自身は収穫なしと完全に諦め、玖命がきびすを返すのも時間の問題だと思っていた。

 しかし、玖命は一向に帰る気配がない。

 地面に手を当てた直後、玖命の表情に笑みがともる。

 それが何を示すのか、小林には理解出来なかった。


(このタイミングで笑いますかー。伊達さんには何が視えてるんでしょうねー……むっ!?)


 小林が感じた異変。

 それは工場内に起きた小さな風だった。


(これは……風の魔法、ですかね?)


 魔法と同時、玖命が目を瞑り、【超集中】を発動する。


 小林は理解していた。玖命が窓の鍵を開ける際、既に魔法は確認しているし、事前情報でも玖命が魔法を使える事は小林も知っていた。

 しかし、この場で使う魔法としてはと首を傾げたのだ。


(伊達さんの動きは……なし、ですかー)


 しかし次の瞬間、伊達は開眼し小林を見た。


(僕……ではない? 僕の後ろ?)


 小林は後ろを振り向き、伊達は小林を避けその先へと向かった。

 小さな風のほんの少しの違和感。

 玖命はそれを追い、小林はそんな玖命に違和感を覚えた。

 だが、その違和感も、伊達の次の行動で払拭された。

 積み上げられていた物流用の荷役台にやくだい――木製パレットの山。

 玖命は風魔法の出力を上げ、これを一気にどかす。

 多少の音など気にしない様子の玖命に、小林が目を見張る。


(機を見るに敏ってところですかね。伊達さんは既にJCAFの謎……いや、JCAFの悪事を確信している。多少音が出たところで、彼がやる事は変わらない……そういう事ですねー)


 最後のパレットをどかした時、それは姿を現わす。


「……ありましたね」


 玖命の言葉に小林が頷く。


(僕がこれに気付けないとは……凄いですね、伊達さん。古典的ですが、過去、多くの侵入者がこれを……この階段、、、、を見落とした)


 本来、あるべきのない場所に階段がある。

 工場の見取り図という答え合わせ。日本で生きてきた経験。階段のありそうな場所を勝手に妄想し、不確定な妄想を、さも事実かのように判断し、そこに階段などあるはずないと決めつけてしまい、結果、階段を見落としたという事実。小林はこれに気付き、自省じせいしながらも、ニコリと笑う。


(なるほどねー……これが、【無恵むけいの秀才】ですかー)


 玖命は小林に一つ頷き、先行するという合図を送る。

 小林はそれに続くも、すぐに足を止める。


(わぁ……こりゃ大変だな……)


 玖命と小林の視界に広がったモノ。

 それは、これまでは適当に配置していたと言わんばかりの――カメラ、カメラ、カメラ。


(隠れる隙はなし……ですかー)


 カメラがカメラの死角を塞ぎ、それ以上進めば確実に見つかってしまうような配置。

 玖命と小林は見合い、そして諦めたかのように溜め息を吐いた。

 そして、玖命が奥を指差すと、小林は「どうぞ」といった様子で奥へと向かうように合図した。


(では、行きます)

(ん~……このカメラで追えるか不安になってきましたねー)


 直後、伊達は強く地面を蹴った。

 そう、彼らはカメラに映らないという選択を諦めたのだ。

 警備室の人間がカメラ越しに捉えられないような高速で動き、カメラに映りながらも見つからない選択をとった。

 小林もこれに続き、最小限の動きで玖命の後を追う。

 そして気付く。玖命の底知れぬ実力に。


(速い……! 僕が置いていかれそうだ……だけど、そう簡単にこの役目を降りる訳にはいかないんですよねー……!)


 ショートカットしながら、壁を蹴りながらも、小林は玖命に食らいつく。

 やがて。玖命の先に光が見えた。

 カメラの網を抜け、辿り着いたその先には、玖命、小林二人が驚愕する事実が待っていた。


「「っ!?」」


 視界に広がる……おびただしい数の魔石。

 魔石はベルトコンベアに載せられ、更に奥へと運ばれて行く。

 様々な機械を前に、玖命がハッと思い出す。


(これは……上で作っていた機械……!? なるほど、自給自足だったって訳か……!)


 地下にある秘密の工場の機械を地上で造り、外部への情報は出さない。そんなしたたかな計画を知り、玖命も小林も確信する。


 ――この先に何かある、と。


 ベルトコンベアの先を見ようとした瞬間、玖命はぎょっとする。

 その反応に気付いた小林も、玖命に続くように驚いて見せた。


(ベルトコンベアの手前にポータルだって……!?)


 そう、ベルトコンベアの手前には何の機械もなく、あるのは整然だって並ぶポータルだった。

 三本のベルトコンベアの手前に、三つのポータル

 それだけで玖命と小林は目を丸くする。


(馬鹿な……こんな近くにポータルが出現するはず……いや、これはまさか……大災害!? とはいえ、ポータルが荒れている様子はない……)

(大災害の後、ダンジョン破壊をせずにポータルの安定化を図りましたかねー? どうも、そんな様子じゃないような気がするんですが……まぁ、とんでもないだかですけどー。ははは、これはいっちゃんが喜びますねー……)


 ポータル内が気になるのも事実だが、今は決定的な証拠が必要。

 玖命と小林は見合ってから頷き、ベルトコンベアが進む先へと向かうのだった。

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