第149話 ◆準備完了

「……ふぅ」


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【体力B】を取得しました。


 玖命の背後には、オークの亡骸が積み上がっていた。

 汗一つかいていない玖命を見、月見里やまなしが硬直する。


(何か……この前より強くなってない……?)


 月見里やまなしがそんな驚きを見せる中、玖命が月見里やまなしに言う。


月見里やまなしさん、すみません」

「あ、え? な、何?」

「申し訳ないんですけど、解体班呼んで頂いてもいいですか? 流石にこの数だと、明日に響きそうで……ははは」


 苦笑する玖命に、月見里やまなしはただ「あ、うん。わかった」とだけ返事する事しか出来なかった。

 月見里やまなしはスマホを取り出し、再び天才派遣所へ連絡する。


「もしもし? 調査課の月見里やまなしです。いえ、ダンジョン破壊班はまだです。ですが、モンスターパレードはなんとか片付きました。え? はい、解体班をお願いしたくて。数……数ですか? えーっと……350……? くらいですかね。え? いや、無理ですよ。その天才、Dランクですから侵入は出来ません。Dランクです。BじゃなくてD。デー! わかります? デーランク! Dなの。D。はい。えぇ、なので破壊担当の天才は必要です。はい、いるんですよ。世の中には意味のわかんない天才が。350体全て彼に。名前は伊達玖命。所属は東京の八王子支部。はい……はい、よろしくお願いします。だからDランクだってば!」


 苛立ちを見せながらスマホを切る月見里やまなしが、面倒臭そうに玖命を見る。


「伊達」


 電話の内容がほぼ聞こえていた玖命にとって、この後何を言われるかの見当はついていた。


「え……はい」

「さっさとダンジョンに入れるようになりなさい。20秒で終わる通話が1分半になっちゃうから」

「あ、はい。何か……すみません」

「謝る必要はないわよ。別に悪い事してないんだし」

「はぁ」

「それじゃ、さっさとホテルに帰って。ゆっくり休みましょ」

「確かに、あんまり眠れなかったですし」


 玖命が言うと、月見里やまなしは流石に今朝の出来事を思い出したのか、


「ぐっ……!」


 少しばかり顔を歪めていた。


「大丈夫……大丈夫……うん」


 その後、現場保全の後、ダンジョン破壊担当の天才が駆けつけ、玖命の依頼は終わった。

 思わぬ臨時収入にホクホク顔の玖命だったが、タクシーで隣に乗る月見里やまなしに言われた一言が、その笑みを崩したのだ。


「そんだけ稼ぐと来年の税金は半分持ってかれるわね」

「は、半分……!?」


 そう、玖命を地獄の底に叩き落としたのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 北海道旅行を満喫していた川奈ららだったが、早くもその旅行に飽きがきていた。


「旭川ラーメンも食べちゃったし、夕張は流石に遠いし……中々有意義に、とはいかないですねぇ」


 そう呟きながら、川奈は喫茶店でロールケーキをつついていた。


富良野ふらの……美幌びほろ……稚内わっかない……ん~、どこも昔行っちゃったし……行ってないのなんて、ラーメン店くらいでしたからねぇ……」


 ブツブツ言いながら紅茶をかき混ぜていると、川奈のスマホが反応を見せた。


「あれ? みことちゃんから? あ、棗ちゃんとのグループだ」


 超心臓―――うーみー

 四条棗―――うーみー

 Rala――うーみー

 Rala――海がどうしたんですか?

 四条棗―――今、北海道向かっててさ

 Rala――え!?ホントですか!?

 超心臓―――翔さんとビニールプールと一緒ですね!

 Rala――それって…どういう事ですか?

 四条棗―――まぁ、この調子だと明日の深夜くらいになりそうなんだよね。

 Rala――車ですか?結構かかりますね。

 四条棗―――結構速度出てるよ。時速40〜50kmくらい。

 超心臓―――乗り心地最悪ですけどね。

 Rala――よくわかりませんけど、それならこっちで合流しますか?伊達さんは札幌支部にいるみたいですけど。

 四条棗―――私とみことは函館あたりでのんびりしてようかなと。ららは翔に拉致られるんじゃないか?

 Rala――え!何でですか!?

 超心臓―――何か、お兄ちゃんと二人してラーメンの画像送ったのが原因みたいです。

 四条棗―――仲間外れは許さねぇとかキレちらかしてた。身に覚えは?

 Rala――あり過ぎて怖いです…。

 四条棗―――それじゃー、仕方ないな。

 超心臓―――仕方ないですね。

 Rala――少しは助けてくださいよぉ…。

 四条棗―――こっちも被害者だからね。

 超心臓―――現在進行形で…。


「ひ、被害者……?」


 超心臓―――とにかく、明日の22時頃、函館に着く予定でーす!

 四条棗―――色々準備しといた方がいいかもなー。


「じゅ、準備……。準備か……うん、確かにそれは悪くないかもしれません」


 Rala――わかりましたー!お待ちしてまーす!


 川奈はそう返信すると、喫茶店から飛び出すように出た。


(うんうん、私って準備いいよねー!)


 玖命、川奈、翔……全ての面々の動きが決まり、その全員が北海道へ集結する。

 ヤケ食い旅行に飽き始めていた川奈の表情が明るくなる。


(やっぱり天才はこうでなくちゃ!)


 川奈の向かう先は――追加料金を払ってまで広いスペースをとってもらった、ホテルのクローク。

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