第143話 情報提供者2

 ◇◆◇ 20XX年 8月25日 ◆◇◆


 濃厚な豚骨と深い甘みのスープ。

 中太ちぢれ麺と呼ばれる波状の麺、味噌とラーメンの香りに、野菜の深い匂いも合わさり、とても美味しそうである。

 一応写真でも撮っておくか。

 とりあえず翔にでも送っておこう。


 玖命――――ラーメン

 Rala――ラーメンです!

 Rala――Ralaさんが写真を添付しました。

 玖命――――玖命さんが写真を添付しました。


「「…………同じラーメン」」


 最早もはや何度目かもわからないが、隣の川奈さん似の人と声が揃う。

 また見合って互いに首を傾げるも、とりあえずラーメンが優先。

 そう思い、俺は箸を進めるのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「「あ~、美味しかったー!」」


 腹も適度に膨れ、味も満足。

 俺が店を出る頃には、店は長蛇の列。

 横断歩道すら跨いだ列に、俺は運がいい時に並んだのだと確信した。


「あの」


 そうだった、こちらの件も解決しておかなくては。


「はい」

「伊達さん……ですよね?」

「やっぱり川奈さんでしたか」

「な、何で伊達さんがこんなところにいるんですかぁ!?」


 川奈さんは俺を指差し、驚いた様子で言った。


「お仕事ですよ、お仕事」

「お仕事!? 伊達さん、お仕事されてるんですか!?」

「よく川奈さんって方としているのが仕事ですね」

「あれが仕事!?」


 なるほど、川奈さんはあの活動を仕事と思っていなかったのか。

 サークル活動とか部活動みたいな感覚だったのかなぁ……そう思い、そうだとしたら彼女には酷な事をしてしまった。


「あれは……仕事というより使命というか」


 とか思ってたら違った。もっと崇高だった。

 俺は、川奈さんの事を軽視してしまった事を後悔した。


「ご、ごめんなさい」

「え、な、何で謝るんですか!?」

「あぁいや……気にしないでください」

「はぁ? え、でも、それじゃあ伊達さんは依頼でこちらに?」

「あぁ、ちょっとね……ははは」

「なるほど~。あ、でも私は手伝えませんからね!」

「わかってますよ。まだまだ行きたいところがあるんでしょう?」

「はいっ! 今朝は函館行って、お昼が札幌。夜は何と旭川の予定なんです」

「み、見事な北海道三大ラーメンマラソンですね……」


 そういえば、今朝、川奈さんから函館ラーメンの画像が送られてきてたな。夜は旭川ラーメンか。

 こりゃ翔が嫉妬するだろうな。


「それじゃあ、そろそろ俺も戻らなくちゃなんで、ここで失礼します」

「わかりました! またToKWトゥーカウ送りますね~!」


 そう言って、川奈さんは大きく手を振って去って行った。

 まさかこんな広い北海道で川奈さんと出会うとは思わなかった。

 しかし、夜に旭川か……ここからだと150キロ近くあるよな?

 うーむ、川奈さんの考える事はよくわからん。

 そう思いながら、俺は再び札幌支部まで戻るのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「こちら、情報提供者の小林こばやし涼平りょうへいさん」

「どうも、小林ですー」


 物凄く人の良さそうな男が、月見里やまなしさんの隣に立っていた。白いトレーナーとジーンズ。腰元には似つかわしいとは言えない剣。太くもなく、細くもない。身長は俺より高いくらいだろうか。ハンチング帽を被った優しそうなお兄さん。

 小林さんには、そんな第一印象を抱いた。

 だけど、この小林さん…………強くないか?


「彼は先日Aランクに上がったばかりだけど、その実力は既にシングルレベルって言われてるの」

「え、ちょっと待ってください……北海道……小林? え、もしかして【ポット】の【剣聖】小林さんですか!?」

「あははは~、【剣聖】だなんて大層な。僕はただの剣士ですよー」


 照れ隠ししながらそう言う小林さんだが、やはり間違いない。

 この人、相当強い。第一印象で誤魔化されそうだったが、佇まいは一流の天才と遜色ないレベル。

【大いなる鐘】の第2班……いや、第1班にも食い込める技量を持っている。


「あ、挨拶が遅れてすみません。俺、伊達玖命といいます」

「うんうん、いっちゃんから聞いてますよー」

「い、いっちゃん……?」

「ウチの代表で~す」


 凄いな、米原樹の事をいっちゃんって呼んでるのか。

 …………ん?


「え、な、何で米原さんが俺の事知ってるんですか……?」

「そりゃ勿論、いっちゃんもあの動画を観ましたからねー」


 ど、どの動画の事だろう。


「東京から伊達って名前の天才が来るってわかったから、今回、僕がこの依頼を引き受けたんですよー」


 俺はちらりと月見里やまなしさんを見る。

 すると彼女は首を横に振って俺に合図を送った。

 ……なるほど、調査課がこの依頼を外部に漏洩した様子はない。

 だが、どこからか漏れてしまった。

【大いなる鐘】の越田高幸も、鑑定課のスケジュールを得ていた。

 やはり大手クランの所属メンバーは侮れないな。


「それじゃあレンタルスペースで話しましょうかー」


 そう言った小林さんに連れられ、俺と月見里やまなしさんはその後に続くのだった。

 だが、この時、俺は知らなかった。

 この時、この瞬間、伊達家ではとんでもない事が起こっていた事を。

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