第132話 ◆調査課4

「うわははははははっ!!」


 上下左右、前後にいたるまで、山井やまい意織いおりの攻撃は届き、玖命の活路を塞ぐ。


「くっ!? ハァッ!」


 何とか、山井の攻撃を払うも、次なる一手が玖命を襲う。


「くそっ!」


 後退するも、


「それじゃ減点だぞ、伊達ぇ!!」


 山井の剣が飛んでくる。


(かわすのは無理……弾くしか手はない!)


 玖命が蹴りを出し、投擲武器とされた強化木剣を防ぐ。

 しかし、山井はこれを読んでいた。

 弾かれた強化木剣の先には既に山井が先回りしていたのだ。


「ナイスパスだ!」


 山井はこれを受け取り、両手からの一撃を振り下ろした。


「っ!?!?」


 訓練スペースはおろか、トレーニングルーム……否、ビル全体にすら響く轟音。ズンと玖命の足が埋まり、その片膝が大地を突く。


「はははははっ! 耐えたかっ! だが――!」


 今一度振り下ろされる双剣。

 これを前に、玖命の天恵が動きを見せる。


 ――成功。最低条件につき対象の天恵を取得。

 ――山井意織の天恵【双剣士そうけんし】を取得しました。


(少しでも俺の身体能力を上げようと取得を急いだか……!)


 玖命は、【探究】、【考究こうきゅう】に意思がある事に薄々ながら気付いていた。何故なら、天恵の発動全てが、玖命を守るために動いていたのだ。

 付き合いこそ短いながらも、玖命はその動き、発現条件について理解を示していた。


「お? おぉ!?」


 今一度受けた山井の一撃。

 しかし、玖命はそれを受けつつも、山井の腕……否、その手に持つ木剣を掴んだのだ。


「は、は、はははははっ! そうか、あの報告は真実だったか! 伊達! 私の天恵を呑み込んだかっ!!」


 拮抗する力と力。

 余りの膂力に、顔を歪ませる玖命。

 しかし、山井の表情にはまだ余裕が見えた。


鳴尾なるお!」

『はい!』

「脚力S! 受けS!」

『ちょ、ほ、本当ですか!?』

「ははははっ! 嘘を吐いてどうする!? それと、剣をもう一本だ!」

『はっ!?』

「目の前でたぎってるヤツが使うってよ!!」


 そう言う山井の目は、喜びに満ちていた。


(強い……! 兄貴たっくんが気に入る訳だ! これが……これが、Dランクだと!? はははは、笑わせる!)

「楽しいなぁ……伊達!」

「く、くくくっ! あ、あなたもバトルジャンキーですか……!」

「たっくんはもっと凄ぇぞ?」

「き、聞かなかった事にします……!」

「ふん!」


 そう言って山井は玖命を押し出すように吹き飛ばし、距離をとらせた。

 その隣に駆け寄って来る鳴尾なるお。手には、もう一本の強化木剣。

 玖命はこれを受け取り、再び腰を落とす。


 ――【考究こうきゅう】の進捗状況。天恵【剣皇】の解析度3%。天恵【双剣士】の解析度15%。天恵【聖騎士】の解析度77%。天恵【武将】の解析度76%。天恵【凶戦士】の解析度64%。天恵【スナイパー】の解析度57%。天恵【大魔導士】の解析度60%。天恵【聖者】の解析度85%。天恵【拳聖】の解析度49%。天恵【上忍】の解析度51%。天恵【腕力A】の解析度12%。天恵【頑強A】の解析度13%。天恵【威嚇A】の解析度15%。天恵【脚力A】の解析度18%。天恵【魔力B】の解析度11%。天恵【超集中】の解析度65%。天恵【心眼】の解析度65%。天恵【天眼】の解析度2%。


「もう一度お願いします……!」

「ははははっ! 安心しろ、まだまだ楽しませてもらう予定だ……!!」

「ハァアアアアアアッ!!」

「ウォオオオオオオッ!!」


 直後――、


「「っ!?」」


 鳴尾なるお月見里やまなし、川奈が驚愕する。

 4本の剣が衝突すると同時、3人の目の前にある強化ガラスに大きなひびが入ったのだ。


「うそだろ……おい」

「ちょっとちょっと! 壊れたりしないでしょうね!?」

「おっとと……伊達さんガンバですよー!!」


 そんな中、唯一強化ガラスに馴染み深い川奈が、いち早く立て直す。ゴブリンキングの咆哮で罅の入った強化ガラスを、それを倒した玖命が壊せないはずがない、と信じて疑わないのだ。

 バチン、バチンと弾ける訓練スペース内。その全ての元凶が玖命と山井の衝突である。

 鳴尾なるおは目を丸くし、月見里やまなしはあんぐりと口を開く。


八神やがみ右京うきょうを倒した実力……Sランクどころか……最早もはやSSダブルに近いじゃないか……!!」

「はっ、ありゃ逃げられないわ……」


 訓練とは思えぬような鬼気迫る玖命の前に、再び【考究こうきゅう】が動きを見せる。


 ――【考究こうきゅう】の進捗状況。天恵【双剣士】の解析度75%。

 ――失敗。討伐リソースが足りません。


「そうだよな、止まるよな!!」


 現段階で、【双剣士そうけんし】の成長はこれ以上を望めない。ならば、と玖命が動く。


「つぉ!? な、何をした!?」


 弾かれたというよりかは、山井が玖命から離れる。

 その目には大きな驚きを見せている。


「魔法剣……と言ったら、信じてくれますか?」


 強化木剣を走る紫電に、山井はその言葉を信じる他なかった。


「は、ははははっ! そうでなくちゃな、伊達ぇ!」


 駆け寄る山井。その表情に一切の恐怖無し。


(マジか、この人……受ける気だ!)


 再び玖命きゅうめいと山井が衝突する。

 剣と剣の衝突により山井の身体に電撃が走る。


「がががががっ!! い、いいマッサージじゃないかぁ!?」

「完全に我慢がまんじゃないですか!?」

鳴尾なるおぉ!」

『は、はい!!』

「一回しか言わないからしっかり書け!」

『りょ、了解しましたっ!!』

「魔力S! 体幹SS! 立ち回りA! 集中力SS! 根性S!」

『た、胆力はっ!?』

「何だそれ!? 知るかっ!!」

『いや、だってさっき……』


 言いながら鳴尾なるおは川奈を指差す。

 しかし、山井はそれに答える事はなかった。

 何故なら、更に別の事項に着目したからだ。


『戦略性SSSトリプル……!』


 そんな山井の一言に、川奈が喜びを示す。


「やったー! SSSトリプル頂きましたよ、伊達さんっ!!」


 跳びはねる川奈に、玖命の声が届く。

 だが、それは川奈に向けられた言葉ではなかった。


「それで、総合評価は……?」

「喜べ伊達……SSダブルだ!」

「まだDランクですよ」

「そんなのは時間の問題だ……!」

「それで――」

「あぁ?」

「――まだ……やるんですか?」

「何だ伊達? もういいのか?」

「ははは……じゃあもうちょっとだけ」


 そう言うと、再び山井が叫ぶ。


鳴尾なるお!」

『え? はい!』

「胆力Sだ! 川奈の嬢ちゃんよりは低い!」

『えぇ……覚えてるじゃん……』


 困惑を顔に浮かべながらも、鳴尾なるおは特記事項を書き足すのだった。

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