第130話 ◆調査課2

 新宿の調査課があるビルの地下2階。

 天才派遣所のトレーニングルームは、主に調査課に所属する天才たちが利用する場所である。

 数々のトレーニング機器の他、当然、派遣所にあるレンタルスペースのような訓練場所も存在する。

 今回のような一件、その他例外と認められる事態に、このレンタルスペースは使用される。


「よ、よろしくお願いしますっ!」

「はははは、お手柔らかに頼むぜ、川奈」


 玖命は対峙する二人を見て思う。


(流石に川奈さんに怪我を負わせるような行為はしないはずだが、さて山井さんはどんな動きを……?)

「そんじゃ、まずは耐久から調べていくか」

「へ?」


 直後、川奈の大盾から大きな音が響いた。

 それはまるで、大鐘楼だいしょうろうが鳴るような大きな音だった。


「っ!?」


 顔を歪ませながらふわりと浮き上がる川奈。


「山井さんの一撃を受け切るか。本気でないとはいえ、凄い子だね……」


 鳴尾なるおの言葉以上に、玖命は驚きを見せた。


「強い……拳であれだけの衝撃、SSダブル以上……!」

「良い目をしているね。山井さんは長年SSダブルに身を置いていたからね」


 鳴尾なるおの補足に、玖命は片隅にあった記憶を思い出した。


「や、山井やまい意織いおり……!」


 訓練スペースのガラスに張り付くように山井を見る玖命。


(お、思い出した!)


 すぐさま玖命はスマホを取り、ある人物に連絡を取る。


 玖命――――山井さん!

 たっくん――何ー?

 玖命――――山井意織って知ってますよね!?

 たっくん――あれ? 玖命っていおりんと知り合いなの?


ToKWトゥーカウだと若々しいなこの人……)


 玖命――――いおりんって……。

 たっくん――いかにもー。いおりんは私の妹でーす!

 玖命――――あんなガチムチな妹がいてたまりますか!

 たっくん――うそうそ、いおりんは弟でーす^^

 玖命――――因みに、たっくんっていうのは……?

 たっくん――山井拓人だからたっくん。中学時代のあだ名だよ^^


 そう、玖命が連絡を取った相手とは、西の【インサニア】参謀兼序列2位――山井やまい拓人たくとその人だった。


 玖命――――いおりんは?

 たっくん――家族間のあだ名ー!何?今、いおりんと一緒?

 玖命――――今、調査部に赴いてまして…。

 たっくん――あー、ね!そういう事もあるよね!玖命って結構謎なところあるからね!何?戦うの?

 玖命――――えぇ、この後。今チームメンバーが戦ってます。

 たっくん――マジで?動画欲しいかもー!チームメンバーに頼んで撮ってもらってよー!

 玖命――――えぇ…何でそんな事…。

 たっくん――いいじゃんいいじゃん。貸し2にしてあげるからー!

 玖命――――…わかりましたよ

 たっくん――やったー!よろー!^^


「…………何、この人?」


 玖命は、山井拓人の現実の姿とのギャップに困惑しつつも、川奈と山井意織との戦闘を見守る。


鳴尾なるお!』


 訓練スペースの中から山井意織の声が響く。


「は、はい!」


 慌ててマイクに声を入れる調査課課長の鳴尾なるお


『体幹D! 受けCだ!』

「チェ、チェックします!」


 そんな指示に、鳴尾なるおはバインダーの紙にその記録を付ける。

 その後、山井意織は川奈に指示を飛ばす。


「若いのに随分と自分を追い込んでるな」

「が、頑張ってます!」

「次は攻撃だ、しっかり狙って来い!」

「はいっ! やぁああああっ!!」


 川奈が駆け、大きく声をあげる。


「戦闘中に大声は……いや?」

「ここですっ!」

「やはり、大声をフェイントに使い、ここでヘイト集めか。悪くない!」

「ふっ!」


 川奈は大盾に身体を隠しながら、山井意織に突きを繰り返す。


「そこは突きだけじゃなく、斬撃も交ぜた方がいい。俺みたいなデカい相手なら尚更な」

「は、はい!」

「立ち回りC! 攻撃Dだ!」

『チェックしました!』


 訓練スペースに響く鳴尾なるおの声。


「んじゃまたこっちからだ。集中しろ!」

「集中ぅ……! 集中ですっ!」

「いい気合いだっ! はははははっ!!」


 川奈が受けに回るも、山井意織の攻撃は全てその上をいく。

 これを見て、玖命が目を見張る。


(凄いな、ここまで力をセーブ出来るのか。段階ごとに川奈さんの性能限界を見極め、それを引き上げているようだ)

「集中力B! 根性Aだ!」

『チェックッ!』

「はははははっ! 骨のあるお嬢さんだ……! ほれほれ! そっちじゃない、こっちだ!」

「わ、わわっ!? くっ、ま、まだまだですっ!」


 立ち回りに追われる川奈だが、目の炎はいささかも衰えていない。

 これを見て、山井意織がニヤリと笑う。


鳴尾なるお!」

『は、はい!』

「根性Sだ! 書き直せ!」

『了解っ!』


 その後も山井意織の査定が下る。


「腕力C! 脚力C! ははは! 凄いな!? 本当にEランクかぁ!?」

「き、鍛えてますからっ!」

鳴尾なるお!」

『は、はいぃ!』

胆力たんりょくSSだ……!」

『そ、そんな項目は……』

「書き足せ! 特記事項だっ!」

『は、はいっ!!』


 そんな風に慌てる鳴尾なるおを見て、玖命はあわれみの目を向ける。


(中間管理職って……大変なんだなぁ……)


 玖命は知らない。

 この時、玖命のToKWトゥーカウが反応していた事を。


 たっくん――いおりんの天恵は私と同じだから、いつか私と戦う時の参考にしてねー^^

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