第128話 ご挨拶

「「こんばんは」」

「『なっ!?』」


 俺と川奈さんは、とあるビルの屋上で、スカウト班の女に声を掛けた。

 やはり、そこにいたのは月見里やまなし梓。


「ちょっと! 何しに来たのよ!?」

「ウチのチームを調べてるのでしたら、一応紹介しとこうと思いまして」

「し、調べてないからっ!」

「こちら、川奈ららさんです」


 川奈さんを隣に立たせ、俺が言うと、


「あ、川奈ららです。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げる川奈さん。

 呆れた様子の月見里やまなしさんが、耳元の無線機器に手をやって言った。


「ほらね課長、私の言った通りになったじゃないですか……」


【超集中】が知らせる通話相手の声。


『……スピーカーに切り替えてくれ』


 すると、月見里やまなしさんはスマホを操作し、課長とやらの声が届くようにスピーカーにしてくれた。


『天才派遣所調査課課長――鳴尾なるおあきらだ。まず、君たちに謝罪させて欲しい。昨日に引き続き、今日の事、月見里やまなしを使い君たちを監視するような事をしてしまい、本当に申し訳ない。だが、我々は、決して君たちに不義理を働いている訳ではないという事は理解して欲しい。我々のこの調査活動は、君たちにとって悪い事ではないという事を理解して欲しいのだ』


 俺と川奈さんは見合ってから言う。


「えぇ、勿論、それはわかっています。月見里やまなしさんの調査活動が、近い将来、俺たちを助けてくれる事を」

「最初聞いた時は驚きましたけど、結局は派遣所の方って事ですもんね。天才を守る機構を疑う事はありませんから、ご安心ください」


 俺と川奈さんの言葉を聞き、通話相手の鳴尾なるおさんはホッと息を吐いてから言った。


『そう言ってくれると助かる。しかし、まさかこんなに早く月見里やまなしが見つかるとは思わなかった。伊達さん、昨日の一件は月見里やまなしから聞いている。いつ彼女の事に気付いたのかね?』

「えっと……昨日の討伐終了後ですよ。こびりつくような視線を感じたので、それを追っていったら、月見里やまなしさんに辿り着いた訳です」

『なるほど……しかし困ったね。私としては穏便に君たちの情報を集めたかったのだが、どうもこの状況でそんな事は言っていられないようだ』


 そう言われ、俺と川奈さんは苦笑した。

 だから、俺は鳴尾なるおさんにある提案をしたのだ。


「もしよろしければ、そちらまで伺いましょうか?」

「『え?』」


 月見里やまなしさんと鳴尾なるおさんの声が被る。


「俺たちを調査したいのでしょう? なら、直接そちらに行って、情報を集めたらいかがです?」

『ほ、本気で言ってるのかね?』

「本気です。ただ――」

『――要求があると?』

「出来れば、これっきりにして欲しいんです。いつまでも監視されていたのでは、いざという時に集中出来ませんから」


 そこまで言うと、鳴尾なるおさんは納得してくれた。


『確かに、月見里やまなしの視線が邪魔になり、場合によっては命の危険にもなり得る……か。ふっ、天才派遣所がそんな事をしていたらクーデターでも起きかねんな。わかった。その提案、是非乗らせて頂こう。月見里やまなし

「はい」

『彼らをこちらまで連れて来てくれ』

「えー、私がですかぁ?」


 嫌そうな月見里やまなしさん。


『昨日の失態を帳消しにしてやらん事もないぞ』

「今すぐ連れて行きます」


 月見里やまなしさんって、欲望に忠実だよなぁ。


「あ」


 俺は肝心な事を伝え忘れていた。


『何かね?』

「出来れば、お願いしたい事が」


 言うと、鳴尾なるおさんは言葉を選ぶように言った。


『ま、まだ何か要望が……?』


 要望も要望。

 これが通らなければ、俺は鳴尾なるおさんのところへは行けない。行かせてはくれない家族がいるのだ。


「そちらまでの交通費、ちゃんとください。往復分」

『あ……うん、わかった。問題ない』


 ある意味、俺も月見里やまなしさんと同じで、欲望に忠実なのかもしれない。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 玖命―――――という事がありまして、今、調査課に向かってます。

 水の谷の結莉―前回のトークで『玖命クンらしく振る舞ってれば、その内向こうが音を上げるんじゃないかな?』とは言ったけど、玖命クン自身がとどめを刺しに行くとは思わなかった。だめ、笑う…。

 相田好――――調査課というと、新宿支部の近くよね?

 玖命―――――はい。情報部は拠点が分かれてるらしいですね。初めて知りました。

 相田好――――鑑定課は八王子、調査課は新宿、クラン調整課は三鷹、発掘課はお茶の水にあるの。一応、統括部署はあるんだけど、そこを急襲されても、情報部のシステムが崩壊しないようになってるの。

 水の谷の結莉―この前みたいな大災害もあるしね~。


「なるほど、拠点を分ける事で、いざ被害が起きた時にその被害を分散させられるのか」

「へ~、面白いですねぇ」

「わっ!? ちょ、川奈さん? 見ないでくださいよっ」

「見えちゃったんだからしょうがないじゃないですかー。いいですね、飲み会グループ。あっ、そうだ、私たちもグループ作っちゃいましょうよっ?」

「私たち?」


 彼女と話すだけだったら1対1でトークするだけで問題ないはずだが?

 そんな事を考えていると、川奈さんは、俺にも見えない程の指の速度でスマホを操作していた。

 何、この子? 【超集中】で、ギリギリ追える速度だぞ?


「はい、出来ました!」


 ――「Rala」が「玖命」と「血みどろ」をグループ名「クラン(仮)」に招待しました。


 ――「血みどろ」がグループに参加しました。

 ――「玖命」がグループに参加しました。


 血みどろ――お? 玖命! Cランクになったのか!?

 玖命――――いや……あの、まだだけど。

 Rala――Dランクです! あと少しなので準備しておきましたー!!


 もう、翔がクラン創ればいいんじゃないかな……。

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