第127話 ご相談

 玖命―――――という訳で、情報部が嗅ぎ回ってるみたいで、こういう場合、どうしたらいいのか聞きたくてご連絡しました。

 水の谷の結莉―へぇ、急に連絡がきたからどうしたのかと思ってたんだけど、そういう事情があったんだね。ま、情報部も玖命クンの情報を確定させたいだけだと思うよ?

 玖命―――――確定、ですか?

 水の谷の結莉―やつらは不確定の情報を嫌うからね。つまり怖いのさ。

 玖命―――――なるほど。

 水の谷の結莉―鑑定課から上がった玖命クンの情報を情報部長に上げて、その情報部長から荒神さんにでも届いたんじゃない?

 玖命―――――荒神って、荒神薫さんですか!?

 水の谷の結莉―そ、日本の天才派遣所トップ。八神との一戦の動画も、荒神さんなら確保してると思うし、この前、高幸が荒神さんに呼ばれてたからね。こうまで露骨だと、玖命関連だったんだろうね。

 玖命―――――うーん、困りましたねぇ。

 相田好――――あの……このグループには私もいるんだけど……?

 玖命―――――???

 水の谷の結莉―知ってるよ?

 玖命―――――グループ名が「飲み会仲間」ってのが笑いました。

 相田好――――そうじゃなくてね?普通、派遣所の職員がいるグループでそういう事話さないでしょう?

 玖命―――――…そうなんですか?

 水の谷の結莉―↑笑

 玖命―――――相田さんが紹介してくれたお仕事の帰りだったので、一応報告しておこうと思ったんですけど…。

 相田好――――あ、いや、いいのよ?いいんだけどね?

 水の谷の結莉―面白過ぎてお腹痛い…

 玖命―――――それで、俺の対応としてはどうしたらいいですかね?

 相田好――――私から抗議する事も可能だけど…。

 玖命―――――それは相田さんに迷惑がかかるので嫌ですね

 水の谷の結莉―そういう風にハッキリ言えるのは玖命クンのいいところだよね。

 玖命―――――ありがとうございます…?

 水の谷の結莉―何、別に深く考える必要はないよ。

 玖命―――――というと?

 水の谷の結莉―玖命クンらしく振る舞ってれば、その内向こうが音を上げるんじゃないかな?

 玖命―――――俺…らしく。


 ベッドの上でスマホを握り、「俺らしさ」とやらを考えてみる。

 水谷の言った意味はよくわからないけど、彼女は俺に「自分自身で決めて問題ない」と言った訳だ。


「……そう考えると、何だか悩むのがバカらしくなってきたな……ん?」


 相田さんから個別にToKWトゥーカウが?


 相田好――――困った事があったらいつでも相談してね。

 玖命―――――わかりました。ありがとうございます!


「んん? 今度は水谷さんから?」


 水の谷の結莉―好から個別で連絡きたでしょ?

 玖命―――――何ですか?もしかして一緒にいるんですか?

 水の谷の結莉―お腹痛い…

 玖命―――――え、大丈夫ですか!?

 玖命―――――あの

 玖命―――――おーい、大丈夫ですかー?


「ダメだ、反応がない」


 仕方ない、相田さんに聞いてみるか。


 玖命―――――何か水谷さんがお腹痛いって言ってから反応ないんですが、一緒にいます?

 相田好――――結莉が?一緒じゃないけど?それに、私には普通に返ってきてるよ?

 玖命―――――あ、いや。大丈夫ならいいです。


「うーん……よくわからん」


 翌朝、俺はその話をみことにしてみた。

 するとみことは――、


「いや、このグループに答え書いてあるじゃん」

「え、どこに?」

「『面白過ぎてお腹痛い…』って」

「え、俺との会話で面白いところなんてあった?!」

「あるわよーたくさん……」


 そう言いながらみことはジトっとした目を向けた。

 これは呆れ半分、憐れみ半分ってところだろうか。

 みことは四条さんとヒソヒソ話しながら俺を見、うんうんと頷いていた。

 まったく、女の子が考える事はよくわからないな。そう思いながら、俺は朝食を済ませ、天才派遣所へと向かうのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「うぇ? そ、そんな事があったんですか!?」


 川奈さんと合流し、適当な討伐任務を受ける。

 俺がモンスターを誘導し、川奈さんがとどめを刺す。


「えぇ、昨日は換金とか報告とか全部任せちゃって申し訳ありませんでした」

「いえ、理由があった事ですし、仕方ないですよ」


 こうして雑談しながらもしっかり討伐出来てるあたり、川奈さんも成長している。

 まぁ、川奈さんの場合、翔と一緒に行動する事もあるからな。あいつのスパルタ式育成のおかげもあるのだろうが、出来れば効率的に成長させてあげたい。

 …………案外、この飴と鞭は良いバランスなのか?

 そう思いながらサハギンを誘導する。


「ふひぃ……ふぅ……や、やっぱり……翔さんより厳しいですぅ……!」


 おや?


「大変です?」

「もうしばらくお魚さん食べられません……」

「というか、サハギンの討伐選んだの川奈さんですよね?」

「だ、だって……私が選べる一番高いランクだったので……!」


 なるほど、俺のランクがD。川奈さんはEランク。Dランクのサハギンの討伐依頼は、川奈さんがソロで受ける事は出来ない。

 だが、Dランクの俺がチームにいれば、受ける事が可能だ。

 川奈さんは身体に鞭打ち、自ら困難に立ち向かっている。

 ……俺も負けてられないな。


「ハァアッ!」

「わっ!? ちょ、伊達さん! 今の私のサハギンですよ!?」

「順番ですよ、順番!」

「んもうっ!」


 その後も俺たちはサハギン討伐に明け暮れた。

 討伐依頼をクリアするも、俺はモヤっとした気持ちを抱えていた。


「ど、どうしたんですか?」

「うーん、後2%なんですよねぇ……」

「2%……?」


 そう、川奈さんが【聖騎士】に上がるまでね。


「まぁ、残りの成長は明日以降という事で」

「はぁ、そうですか……」

「それじゃ、そろそろ挨拶に行きましょうか」

「え? 挨拶……ですか?」

「今、また調査課に見張られてるんですよ」

「ちょ、え、え!?」

「あ、慌てないでください。バレちゃいますから」

「えぇ……じゃ、じゃあどうしたら……?」

「カメラの死角を移動しながら、スカウトさんの背後を取りましょう。いい訓練になると思います」


 我ながら面白い訓練だと思う。


「や、やっぱり翔さんより厳しいですぅ……」


 なんとも心外である。

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