第126話 月見里梓という女2
「…………くひひ」
伊達家のリビングに、四条さんの笑い声が響く。
「……ふんっ!」
「おい」
「何よっ?」
「メイク崩れてるぞ」
四条さんは、自身の目元を指差し、
「嘘っ!?」
瞬時に出てくる手鏡。
今、一体どこから出した? 全然わからなかった。
バッグから化粧ポーチを出し、すぐに修正に入る
「大変だな、大人は」
「うるさいわねっ! それより、何でアナタがここにいるのよ!?」
「そりゃ~……居候してるから?」
「鑑定課の寮はっ!?」
「たまに帰ってるよ。まぁ主に郵便受けの確認だけど」
「鑑定課長はこの事知ってるのっ!?」
「勿論、報告済み」
「くっ!」
睨むだけ睨んで、何も言わなくなった。
俺は、四条さんを手招きして俺の隣へ誘導した。
そして、
「あの人、
「
だがそこで
「――53よっ!」
「54だよ」
バッサリ。
【魔眼】があれば、相手の体重さえ視る事が可能。
だから、常時推移する体重は、本人よりも正確だ。
「嘘っ!?」
「つまみ食いし過ぎたんだろ」
「まさか昨日の明太子っ!?」
いや、明太子だけで1キロは変わらないだろ。
「いや、明太子だけで1キロは変わらないだろ」
俺のツッコミを四条さんが代わりにやってくれた。
「あ、でもさっきこの男とかなり走ったから、これでカロリー0よね?」
「天才の代謝については未だ謎が深いからね~。ま、酒を控えれば、その体重も戻るだろ」
「く……折角の今日の楽しみが……」
「調査課スカウト班の期待の星……なんて言われてるけど、ただの酒好きだよ」
「なるほど」
「でも、何できゅーめーがこの女と?」
「それを質問してたら逃げられちゃってさ」
言うと、
「逃げられた!? 何言ってるのよ! どう見てもこの家まで誘導されたんじゃないっ!!」
見た、と言うより「
「そうなのか?」
四条さんが俺に聞く。
「まぁ、そっちの方が手っ取り早いと思ったんで」
「何で?」
「
「相変わらず頭の回転が早いな、きゅーめー」
呆れたように感心する四条さん。
「でも、何だって調査課が? スカウト班って基本的にモンスターの動向チェックが仕事だろ? きゅーめーの動向チェックして何が…………いや、まぁしょうがないのか?」
「ふん、どうやら四条の方が私より情報持ってるみたいじゃない?」
「まぁ、遅かれ早かれきゅーめーは調査課……というより情報部が動き出すとは思ってたけどな」
四条さんが言うと、俺は思い出したように言った。
「あ、じゃあ、あの特別任務も……」
「特別任務?」
そう聞かれ、俺は四条さんに今日あった事を全て話した。
すると四条さんは、また面倒臭そうな顔をして言った。
「相変わらず情報部は手が込んでるな。多分、それはきゅーめーの思った通りだろ。甘い汁できゅーめーを釣って、討伐対象付近に
今、川奈さんの事をさり気なく「らら」って言ったな?
彼女、たまにウチに来て
それでいつの間にか3人が仲良くなった……って訳か。
「ほーんと可愛くない女」
「じゃあ、情報部が俺の情報を欲しがってるって事ですか?」
「だろうな、なぁ
四条さんが聞くと、
「そうだけど? でもね、私はそれ以上の事は何も聞いてないの。わかる? だから、私を問い詰めても無駄。って事で、もう帰っていいでしょ?」
そう言われ、俺と四条さんは顔を見合わせた。
「ま、この女が帰れば、スカウト班じゃどうにもならないって事くらいは伝わるだろ」
「じゃあ、もっと凄い人が来るとか?」
「情報部の人材で、
「【脚力SS】とかいないんです?」
「そのレベルになると、派遣所に雇われるより、クランの所属になった方が給料がいいだろ?」
「あー…………そういう事ですか」
「別に【脚力】持ちが内勤にならなくちゃいけない決まりはないんだよ。戦闘系として登録する事も可能なんだから、斥候として雇ってるクランは多いはずだよ」
確かにその通りだ。
つまり、
「じゃあ私帰るから、もう二度と関わらないでね~」
そう言って、
残された俺と四条さんはポカンとしながらその背を追った。
そして、四条さんは俺に聞いたのだ。
「酒ってそんなに美味いのか?」
「それは
だから俺は、こう言うしかなかったのだ。
その晩、食事の際、親父が呑む酒を四条さんがチラチラ見ていたのは、言うまでもないだろう。
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