第121話 臨機応変

 川奈さんとのチーム戦闘。

 調整という事もあり、今日は管理区域Bの掃除任務にやって来た。


「伊達さーん、そっち行きました!」

「ナイスです! ハッ!」


 ホブゴブリン2体、ゴブリン5体に対しそれぞれ当て身を決める。それを見た川奈さんが驚きながら言う。


「でも本当に凄いですね。当て身だけで倒しちゃうなんて」

「はははは、服が汚れない工夫をですね……」

「越田さんから頂いた引換証、まだ使ってないんですね……」

「うん……やっぱり怖くて」

「それは、ストレス的な意味で、ですよね?」

「まぁそうだね……ははは」


 俺が苦笑を浮かべると、川奈さんは俺の装備を指摘した。


「でも、ようやくゴールドクラスの装備が整いましたね」

「あぁ、軽鎧は近衛このえに壊されたまま新調してなかったからですね」

「むしろ、そのTシャツでSランク相手に挑んだのは、正直今も凄いと思ってます……」


 言葉とは裏腹に、川奈さんは引き気味である。


「でも、ゴールドクラスの軽鎧、手甲てこう脛当すねあても、全部前の装備と同じ型だから、違和感なく使えてますよ」

「でも、武器はない、と?」

「え、良い感じに戦えてませんでした?」

「伊達さんが拳で戦うと、翔さんと被るような気がします」


 むぅ、確かにそうかもしれない。

 それに、やっぱり刀か剣で戦う方が俺には合っている気がする。

 いざって時の戦闘中にどう動けるかが重要なんだから、こういう時には拳士系の動きの確認はいいかもしれないが、武器はやはり欲しい。


「うーん……」

「そう難しく考える必要ないですよ」

「越田さんに大きな借りを作っちゃうような気がして……ははは」

「クランに入れられると?」

「まぁ……そうですね」

「じゃあ大きな借りを作っちゃえばいいじゃないですか」


 何を言ってるんだ、この子は。


「えっと、それはどういう?」

「借りを作ったのなら、返せばいいんですよ」


 こういう時の川奈さんは面白い事を言うものだ。

 耳を傾けてもいいかもしれない。


「ほうほう?」

「【大いなる鐘】に入る事だけがその返済になるんですか?」


 唐突にそんな事を言われ、俺は言葉に詰まってしまった。


「……確かに、それだけじゃないような」

「いつか伊達さんが大きなクランを作って、越田さんを助ければいいんじゃないですか?」

「その、俺がクランをつくるって話はどこから広まったんです……?」

「そんなの、私と翔さんに決まってるじゃないですかっ!」


 犯人は目の前にいた。そして、真犯人は翔だ。


「この前、翔さんと事務所の候補地を内覧して来たんですよ」

「初耳ですね」

「やっぱり、八王子で結成したのであれば八王子の事務所がいいじゃないですか?」

「初耳ですね」

「だから、八王子駅に近く、天才派遣所にも近い物件で比較的賃料も安く、築年数も浅いビルをいくつかピックアップしてます」

「初耳ですね」

「あ、後でToKWトゥーカウに物件の詳細情報送りますねっ!」

「わぁー、全然話聞いてない……」

「今度詳しく話し合いましょう!」

「今度なんだ……そう」


 最早もはや、川奈さんと翔の中ではクランを立ち上げる事は決まっているようだ。


「考えてみれば、伊達さんは今日でDランク。Cランクまであと一回の昇格だけなんですから、急ぐのに越したことはないですよね。うんうんっ!」


 確かに、そう言われてみればそうなのだが、本当にそれでいいのか迷ってしまうな。

 しかも、クランを設立したところで、川奈さんシールダーアタッカーなんやかんやの3人だけ。


「やっぱり時期尚早じきしょうそうなんじゃ――」

「――そういえば伊達さん」


 言葉を完全に摘まみ取られた気分だ。


「な、何です?」

「相田さんが見せてくれた特別依頼、受けなくて良かったんですかー?」

「あぁ、その事ですか。先程も言いましたけど、結局は俺だけランクを上げる任務なんですよ、アレ。そうすると、川奈さんとの足並みもズレちゃうじゃないですか。クランを設立させるなら設立させるで、翔に並ぶためにも、俺たちチームの成長は絶対条件ですからね」

「だ、伊達さんっ!」


 目に涙を湛える川奈さん。

 今にも跳び付いて来そ――来た。


「伊達さんっ! 私! 私頑張りますからぁ!!」

「あぁ、そ、そうですね。お互いに頑張りましょう」

「はい! はいぃいいっ!」

「それじゃ、解体始めましょうか」


 そうして、俺たちはゴブリンたちの解体を終え、再び派遣所の八王子支部へと向かった。

 魔石の換金、川奈さんとの分配を終えると、俺たちの前に現れたのは、困った様子の相田さん。


「どうしました、相田さん?」


 川奈さんが聞くと、相田さんは受付を指差して俺たちを誘導した。


「さっきの特別依頼なんだけどね」

「それはさっき断ったはずですが……」

「うん、伊達くん一人用の依頼だから、私もその言い分がよくわかって上に戻したんだけど……そしたら」

「「そしたら?」」


 俺たちが言うと、相田さんは先程同様モニターをこちらに向けた。


「伊達さん」

「うん、臨機応変が過ぎる……」


 モニターの依頼には、俺指定なだけではなく、【川奈らら】の名前まで書かれていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る