第三部
第120話 成長
◇◆◇ 20XX年8月18日 ◆◇◆
「ふ……ふふふふっ! どうですか伊達さんっ!」
やたら嬉しそうな川奈さんが、俺の目の前に現れた。
ここは天才派遣所八王子支部の出入り口――自動ドアの前である。
「お、おはよう川奈さん」
「ふふ~ん!」
鼻高々に、川奈さんは俺に何かのカードを見せつけている。
何だこれ……?
「これってもしかして【天才証明】?」
「そうでーす!」
【天才証明】――簡単に言ってしまえば、天才の身分証明書である。これは、天才派遣所に登録した時に貰えるもので、俺も普段持ち歩いているものの、使ったためしがない。
何故なら、提示する機会がないからだ。
だが、川奈さんは俺にそれを見せてきた。
何か理由があるのだろうか?
「……ん? あれ、更新が今日じゃないですか」
「ぶー! 伊達さん、見るところが違いますー!」
不服そうな川奈さんだが、俺は非常に驚いている。
まさかこんなものを更新する人がいるなんて。
定期更新こそあるものの、川奈さんはまだそんな時期でもないはずだ。
つまり、自分で更新したのだ。
自分で更新……? 確か、更新が必要なケースがいくつかあったな。
えーっと……あ。
「お? おぉ!?」
「うんうん、そうでしょうそうでしょう!」
「川奈さん、Eランクになったんですね! おめでとうございます!」
「ふへへへ~……やっぱりわかっちゃいますぅ~?」
本当に嬉しそうだ。
そういえば、【天才証明】は更新をしなければ、最後に更新した時のランクでそのまま表示される。Gランクだった表記をEランクに更新したのか。
「頑張りましたね」
「頑張りましたから~! ふふふ~」
その場で踊り出しそうである。
「この一ヶ月は、週の半分くらいしか一緒に動けませんでしたからね。でも、川奈さんの成長は身をもって体験してますから、正当な評価だと思いますよ」
「しかも!」
まだ何かあるのだろうか?
「しかもですよ伊達さん!」
「はい?」
「実は私――」
そう言って、川奈さんは俺の耳元に口を寄せた。
「――今朝、【上級騎士】に成長したんです」
「おぉ!? おぉおお!」
確かに、天恵の成長のタイミングはEランクの前後だと言われている。おめでたい事が二つも重なるとは、今日は川奈さんにとって最高の日なんだろう。
そりゃ、【天才証明】を更新しちゃうか。
「本当におめでとうございます!」
「いやいやいや~、まぁ? 頑張りましたからぁ~」
「じゃあ、これでランクは一緒ですね」
「はい! ようやく追いつきましたよー!」
そんな会話をしながら、俺たちは相田さんの下へ向かう。
すると、相田さんはいつも以上の笑みで俺たちを迎えてくれた。
「伊達くん、おめでとうございます」
「「へ?」」
「Dランクへ昇格です」
「おー……」
確かに嬉しい。
確かに嬉しいのだが、今、俺は隣にいる川奈さんを直視出来ない。
「ふぬぅ……ふぬぅうう……!」
鼻息が荒い。とても。
悔しそうだ。とても。
「ぬわぁんでですかぁ!? せ、折角追いついたのにぃ!?」
頭を抱え、俺でもなく、相田さんにでもなく、川奈さんは訴えかけた。ほんと、誰に投げかけているのだろうか。
「じゃあ、その理由なんだけど……伊達くん、いいかな?」
「それは川奈さんも同席でって事です? 勿論、構いませんよ」
すると、相田さんはコクリと頷き、俺たちに教えてくれた。
「八神さんの事件の後、本部から私に直接問い合わせがきたんです。内容は『伊達玖命』に関する全て。勿論、私は、この八王子支部が知る伊達くんの全てを本部に伝えました。【大いなる鐘】の第1班と共に7ヵ所の
「対外的に? そういう事なんてあるんですか?」
川奈さんが相田さんに聞く。
「世界は慢性的な天才不足です。大きい仕事であればある程、当然、天才に求めるランクも高くなります。だから、強者をEランクで……言葉は悪いかもしれませんが、遊ばせておく……というのは、派遣所も出来れば避けたい……それが、私が上長から聞いた、今回の昇格についての大まかな理由です」
「ふ~ん……でも、伊達さんDランクなんですね?」
そんな川奈さんの疑問に、今度は俺が答える。
「それも対外的にって事なのかもね」
「そういう事です。一気にランクを上げるのも勿論可能です。当然、私の権限では出来ませんが、もっと上の権限であれば、それが可能なのです。理由を付けて飛び級のようにランクを上げたという実例も、過去何度かあったと聞きます。ですが、それではやはり内外から何を言われるかわからない時代……という事で、伊達くんにはこれまで通り、段階的にランクを上げて頂くという結論に達したという訳です」
「「なるほど」」
「勿論、上も伊達くんのランクは早くあげたいはず。なので、もしかしたら……あ」
相田さんの目がパソコンに向かう。
俺と川奈さんは、その反応を見て顔を見合わせた。
「……やっぱり」
「「やっぱり?」」
「これを見て」
言いながら、相田さんはパソコンの画面をこちらに向けた。
「「と、特別任務……!」」
どうやら天才派遣所は、俺向けの依頼を相田さんに送ってきたらしい。
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