第117話 ◆玖命に集う人々2

 翔、四条が協力して折り紙の輪繋ぎを作る中、川奈とみこと、そして玖命は手の平の上でご飯を丸めていた。


「こ、こうですか……?」


 川奈は緊張を顔に見せ、みことの指示に従っている。


「そうそう、この後は手に餡子あんこを伸ばして、この丸めたご飯を包むの。簡単でしょ?」

「お、おはぎなんて初めて作りました」

「もち米と、うるち米……まぁ普通のお米よね。それを混ぜて作ったのがこのご飯」

「まさか家で作れるなんて……」


 驚きを見せる川奈を見、みことは玖命を見た。

 すると、みことが言いたい事を理解したのか、玖命はコクンと一つ頷いた。


「川奈さん、今度一人暮らしするんでしょ? もしよかったらお料理教えてあげよっか?」

「おぉ! そ、それは楽しみです! で、でも、いいんですかっ!?」

「勿論! 川奈さんにはお兄ちゃんがいつもお世話になってるしね」


 微笑むみことに、川奈は目を潤ませ玖命に言った。


「だ、伊達しゃん!」

「は、はい……?」

「妹さんを……私にくださいっ!」

「え、それはちょっと困るかな」

「何でですかぁ!?」


 そんな問いに返す事もなく、玖命と翔の耳がぴくりと反応し、外を見た。

 直後、家に響くインターフォンの音。

 そんな二人の反応を見て、川奈と四条が驚きを見せる。


「伊達さん、翔さん、よく気付きましたね……?」

「あぁ、結構響いてきたし……」

「一般人の歩行音は天才に比べて響くし重いからな。これくらいの距離なら気付けんだろ」


 そんな言葉に、川奈がガクリと肩を落とす。


「うぅ……どうせ私はまだまだですよぉ……」

「あははは……あ、お兄ちゃん、外お願い」


 川奈に苦笑したみことに頼まれ、玖命はまたゲストを迎えに行く。


「うーい」


 玖命が外に出ると、そこには緊張を露わにした二人の少女が立っていた。


「「お、お兄さん!?」」

「えーっと、桐谷さんと山下さん、だったよね?」

「「は、はい!!」」


 桐谷きりたに明日香あすかと、山下やましたれい

 以前、立川を襲ったサハギンと戦った際、玖命が命を救った二人。

 そして、一昨日の八神やがみ襲来の際、玖命が投げた四条棗を救った二人である。


「この前は本当に助かりました」


 玖命が頭を下げると、


「あ、あの! こちらこそ! この前は本当にありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


 桐谷、山下は勢いよく頭を下げた。


「めちゃくちゃカッコよかったです!」

「はい! みことが羨ましいくらいで!」

「はははは、ありがとうございます。何のお構いも出来ませんけど、上がってください」


 玖命がそう言うと、明日香が手土産を前に出す。


「あ、あのこれ! 昨日漬けて、今日揚げた唐揚げです! 母と一緒に作って、その!」

「わ、私はサンドイッチ作ってきました!」

「おー……それはそれはご丁寧に。今日は人が沢山だから助かります。さ、どうぞ」

「「お邪魔しまーす……」」


 恐る恐る入る級友の家。

 桐谷と山下は、中を覗くなり驚きを露わにした。

 無論、鳴神翔のガン付けが原因なのは言うまでもない。


「ぁあ?」

「「ひっ!?」」


 家に入るなりぺたんと腰を落とす二人に、玖命は翔を見て言う。


「翔、その目、どうにかなんない?」

「お、俺様のせいだってのか!?」

「9割な」

「残りの1割は何だってんだよ!?」

「俺の説明不足」


 そう言って玖命は二人に向き直った。


「ごめんね、あれでいて君たちと2歳しか違わないから気にする事ないよ」

「「あ、あはははは」」


 苦笑する桐谷と山下。

 だが、翔は玖命の説明に納得がいかなかった。


「あれでいてってなんでぇ、あれでいてって!!」

「だって翔、見ようによっちゃ、俺より上に見えるぞ」

「そ、そうか!?」

「何で喜んでんだよ」

「そりゃお前ぇ、俺様にも渋みが出てきたって事だろうが! カカカカッ!」


 とりあえず翔が収まってくれた。玖命はそう思う事にし、桐谷と山下をみことの下まで連れて行く。


みこと、お友達だぞ」

「あ、明日香、玲! 来てくれたんだ!」

「そりゃ念願の伊達家にお呼ばれしたんだから、気合い入れて来るわよ!」


 ニカリと笑う桐谷と、


「うんうん、最初は緊張したけど、お兄さんに会ったらそんなの吹き飛んじゃったよ。あ、これサンドイッチね」


 嬉しそうにサンドイッチを渡す山下。


「あ、私も唐揚げね」

「お、ギリギリセーフ」

「セーフ?」


 桐谷がみことの言葉に小首を傾げる。


「今日のメニューに唐揚げが入りそうだったのよ」

「んじゃ、別のメニューになったんだ?」

「そ、お兄ちゃんの自腹で牛肉を買ってもらったから、今日は肉じゃがです!」


 ふふんと鼻高々なみことに、桐谷と山下は見合ってくすりと笑う。


みことの料理は絶品だからねー」

「楽しみだね!」

「味は保証するよ」


 玖命の保証に、二人はまた顔を綻ばせた。

 笑顔を振り撒く玖命に、みことは呆れた様子で言う。


「お兄ちゃん、もうこっちはいいから外で待ってて」

「うぇ?」

「いいからいいから、あ、二人はサラダ作るから手伝ってー」

「よしゃ!」

「任せて!」


 玖命を外に追いやったみことは、その背中を横目に見る。


(ただでさえお兄ちゃんに気がある二人に、あんな笑顔振り撒いたら手がつけられなくなっちゃうよ……まったく)


 兄の心配半分、級友の心配半分。

 しかし、その10割の中に、みことの嫉妬心がないとは……言えないのかもしれない。

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