第113話 第2段階1

 これだ、この成長に賭けるしかない。

 だから、この戦闘を出来るだけ長く――、


「ヒィァアアッ!」

「重っ!? くそ……くそっ!」


 押し切られる寸前、俺は刀を奴の剣に滑らせると共に、反転していなした。

 すると、八神は口を尖らせ口笛を吹いた。


「やるぅ~、でも、それがいつまで持つかな? ヒハッ!」


 跳躍からの大上段っ!

 後退してかわす。なっ!?

 かわした瞬間、今の今まで俺がいた地面が爆ぜた。


「何て威力だよ……!」

「それはこっちの台詞だよ、今のかわす、普通?」


 奴の天恵【道化師】とは一体?

 これほどまでに力を出せる天恵とは思えない。

 それに、【聖騎士】のヘイト集めも完璧だった。


「うぅ…………きゅ、きゅーめー……?」

「四条さん、気が付いた……?」

「あれ……私……?」


 意識がまだはっきりしていないが、何とか一命をとりとめたみたいだ。


「ヒヒヒ……凄いね、【大聖女】や【大聖者】並みじゃない? その回復量」


【聖者】に加え、魔力で向上している分も合わせると確かにそうかもしれない。だが、それを一瞬で見抜くとはやはりこいつ、天恵についてかなり熟知している。

 おそらく俺よりも。


「でも、おかしいな。そんな事が出来るのは僕くらいだと思ってたのに…………あぁ、残念」


 わざとらしく項垂うなだれながらも、いささかも油断していない。


「てことは~……てことは~……つまり、お前が一番邪魔って事じゃね?」


 来る……!


「ヒィイイイイアッ!!」

「ハァッ!」

「ちょ、きゅ、きゅーめー!?」


 どうやら、回復しきった……か?

 これなら――!


「動かないで! 動いたら夕飯無し!」

「だ、伊達家のルールが私に通用すると思うなよ!?」

「いいね、僕もご相伴しょうばんにあずかろうかなっ!?」

「「お前は絶対来るな!!」」


 俺と四条さんの声が揃い、それに釣られて八神が笑う。


「ヒアハハハッ! なら、さっきの子にお願いしてみるよ、君たちを殺した後でっ!!」

みことには絶対手出しさせないっ!!」


 激しい動きは四条さんの体力に関わる。

 だが、それを気にしてられる相手ではないのも事実。


「きゅ、きゅーめー! 落ちる落ちるっ!?」

「しっかり掴まってろ!」

「もうやってるよ!!」

「じゃあ後は集中!」

「くっ……」


 四条さんは俺の首に手を回し、しがみつきながら目を瞑る。


「……よし、それでいい」


 なんとか……四条さんをここから逃がす。

 そうすれば勝機があるはず。

 何か……何かないか……!?

 瞬間、校舎の一番近い二階教室の窓が割られた。

 現れたのは――マジかっ!?


「玖命っ!」

「親父っ!?」

「ここだろ!? ここしかないだろっ!?」


 一瞬、親父が何を言っているのかわからなかった。

 だが、親父がベランダに出て手を広げた時、その意図を理解した。


「ヒハハハハッ! 一体何をするつもりだいっ!?」

五月蠅うるせぇ! 四条さん!」

「つ、掴まってるぞ!」

「離陸準備!」

「り、離陸っ!? うぁ!?」


 俺は八神の攻撃振り払い、四条さんをも振り払い、その身体を――、


「おぃ! どこ触ってんだよっ!?」


 そう、右手に四条さんの臀部でんぶを載せ、親父に向かって――、


「へ?」


 投げた。


「きゅきゅきゅきゅ、きゅめぇえええええっ!?!?」


 くそ、助走もなく、この疲労度だと厳しいか……!?

 親父が手を伸ばし、その意図を理解した四条さんもまた手を伸ばす。


「ぬぉおおっ!」


 親父、頼むぞ!


「ぬぎぎぎっ!」


 四条さんの右手が伸び、親父の手に届く。

 ――がしかし、


「「あっ」」


 その勢いを殺し切れず、掴んだ手が滑る。

 それを止めたのは――、


「「キャッチッ!」」


 ――三人の乙女たち。

 ベランダの手すりから身を乗り出し、みことと、あの時の二人――桐谷きりたに明日香あすか山下やましたれい


「掴んだよ玲!! 掴んだぁ!!」

「明日香!! しっかりっ!!」

「お父さん!! 手放したらご飯抜きっ!!」

「絶対に放さんっ!! ぬおおおおおおっ!!」

「「頑張れ!! 棗ちゃんっ!!」」


 そんな親父とみことの声が、四条さんに力を与えたのかもしれない。親父の手を掴み、みことの手を掴み、桐谷さんと山下さんのサポートによって、ベランダまで引き上げられる。


「お兄ちゃんっ!!」

「玖命っ!!」

「きゅーめーっ!!」

「「お兄さんっ!!」」


 五人から返ってきたのは――言葉ではなく、行動。

 五本の親指が空へ向く。

 それは、俺にとって、何より代えがたい大きな応援だった。


「ヒハハハッ……! クヒヒ……面白いなお前ら……? 人間投げて拾って仲良しごっこかい? 面白いなおい……面白過ぎて……虫唾むしずが走る……!!」


 物凄い殺気。これまでの比ではない。

 だが、両手の使える今なら――、


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【考究こうきゅう】を取得しました。


【探究】が成長した今なら……!


 ――現在の進捗速度は【探究】の300%が限界です。

 ――開始しますか?


「決まってるだろ……開始しろ」


 ――了承。

 ――天恵【考究こうきゅう】を開始します。

 ――【考究こうきゅう】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度88%。天恵【聖騎士】の解析度47%。天恵【武将】の解析度46%。天恵【凶戦士】の解析度34%。天恵【スナイパー】の解析度27%。天恵【大魔導士】の解析度30%。天恵【聖者】の解析度55%。天恵【拳聖】の解析度19%。天恵【上忍】の解析度21%。天恵【腕力A】の解析度3%。天恵【頑強A】の解析度2%。天恵【威嚇A】の解析度4%。天恵【脚力A】の解析度6%。天恵【魔力C】の解析度84%。天恵【超集中】の解析度1%。天恵【心眼】の解析度1%。天恵【魔眼】の解析度1%。

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