第112話 探究の成長

 ――【探究】を開始します。対象の天恵【探究】を更に解析します。


【探究】が【探究】を解析……?

 遂にメッセージウィンドウがいかれてしまったのかと思った。

 しかし、そんな事、今気にしている場合ではない。

 まずは四条さんを回復させなければならない。

 俺は【聖者】の力を、【魔力】を使って向上させ、四条さんを抱えながら、その身に回復魔法を発動した。


「……ん? お前もしかして、それ、回復魔法?」


 城田の言葉を肯定する気も、否定する気もない。

 今は奴に構ってる暇はないのだ。

 四条さんを回復し、ここから避難させる。

 そうしなければ……っ!


「くっ……!」

「ヒヒヒヒ……そうだよね? やっぱり疲れてるよねぇ? 7ヵ所もポータルを破壊したんでしょ? たとえSランクだとしてもそんな重労働しないよ」

五月蠅うるさい……ちょっと黙ってろ……今集中してんだよ……!」

「クヒヒヒッ……そうだね、そうしないと棗ちゃんが死んじゃうもんねぇ」


 頭にくる喋り方をする奴だ。

 俺と手合わせした時のこいつは、無表情を貫き、こんな喋り方じゃなかった。

 つまり、仮面を被っていたという事か。

 なら……!


 ――天恵:【聖騎士】


 ……ダメか、やはり【鑑定】じゃ――…………っ!? 


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【魔眼】を取得しました。


 まさか、このタイミングとはな。


 ――八神やがみ右京うきょう

 ――生年月日:西暦20XX年10月17日

 ――身長:178cm・体重:69kg

 ――天恵:【道化師】


 ……なるほど、そういう事か。

 八神右京――それがお前の本当の名か。


「やっぱりお前、自己申告者か……」

「あ? 鑑定課でもないお前が何でそんな事……いや、待て? 待て待て待て……待てよ?」


 しばらく黙った後、八神は先程のような気持ち悪い笑みを浮かべた。


「ヒヒヒ……ヒハハハッ! そうか、そういう事かっ!」


 一体何だっていうんだ……。


「……お前、複数の天恵を使えるだろう?」

「っ!?」


 今のやりとりだけでそこまで見抜いた……?

 いや、そうじゃない。今日のあの訓練で、奴は薄々気付いていたのかもしれない。


「道理で前園も天音も負ける訳だ。そっかそっか……そうだったんだ……ヒ……ヒヒ――」


 瞬間、奴は俺の視界から消えた。


「――ヒ」


 その笑い声がなければ、俺は奴に殺されてただろう。

 咄嗟に反転し、逆手に持った風光で奴の剣を受ける。


「くっ!」


 重い……やはりあの訓練の時は手を抜いていたか。


「あぁ~残念残念……そうだよね、戦闘中に笑っちゃいけないよね? ヒヒ……」


 言って、八神は再び距離を取った。


「直す気がないのはわかった。だけどいいのか?」

「あ?」


 俺が言うと、既に刀と剣の衝突音を聞きつけた避難民たちが、校舎の窓から俺たちの戦闘を覗き見ていた。

 中にはスマホを片手に動画撮影している者もいた。


「あぁ~~~……そゆこと」


 八神は頭をポリポリと掻きながら、避難民たちを見ていた。

 直後、奴はとんでもない事を言ってのけた。


「困ったなぁ~……これじゃ【大いなる鐘】に戻れないじゃん」

「戻るつもりだった事に驚きだよ」

「でも――」

「っ!?」


 周囲一帯に広がる強い殺気。

 校庭周りの木々から無数の鳥が空へ逃げる。

 正直、ここにいたくないくらいだ。


「――ここにいる全員殺しちゃえば大丈夫じゃない?」


 ニタリと笑った八神の目に嘘はなく、ただ闇に染まる瞳に、俺は心の底から恐怖した。

 出来る訳がない、まかり通る訳がない。

 そう断言出来るのに、奴はそんな事など頭にないように見えた。


「棗ちゃんっ!」


 そんな中、俺の背後から聞きなれた声が響いた。


「み、みこと……それに親父……?」


 普段なら絶対にここまで来ないはず。

 天才同士の戦闘に介入する事は自殺行為に等しい。

 それは親父もみことも理解している。

 だが、それが出来なかったのは、四条さんかのじょにある。

 四条さんは既に伊達家の住人。血の繋がりはなくとも一緒に食卓を囲う身内のような存在。

 だからこそみことは、居ても立っても居られなくなってしまったのだろう。

 そして、親父はそのみことを止めるために――!?


「へぇ……アレが玖命君の大事なモノだね?」

「くっ……そっ!」


 奴の殺気は一直線にみことへと向かう。

 俺は駆けながら風光を振り、その進行を止める。


「ヒヒヒ……軽い、軽いねぇ? 棗ちゃんを抱えたままで僕を防げると? ヒャハッ!」

「ぐっ! み、みこと!」

「お……お兄ちゃん……!」

「下がってろ……親父、みことを頼む」


 目の端に映る親父がコクリと頷く。


「玖命、死ぬなよ……!」


 そんな願いのような親父の心配が、俺の背に届く。


「ヒハハッ、ホント凄いね? 左手で回復魔法、右手にはこの膂力……一体どんな天恵なんだい?」

「それはこっちの台詞だ八神……【聖騎士】なんて誤魔化しにくい天恵で何故ここまでバレずにあのクランにいられた?」

「そんなの簡単だよ」

「何……?」

「【聖騎士】になればいいんだよ」

「なっ!?」

「ほーら、ここだよ?」


 直後、奴は俺に対しヘイト集めを発動した。


「つぉっ!?」


 一気に身体が重くなる。

 今の俺に一番かかって欲しくない弱体効果。


「ほらほらほら? どんどん押されちゃってるよぉ~?」

「くっ、ハァアアアッ!」


 俺もまた八神に対しヘイト集めを発動。


「ふん、魔力がちょっと落ちちゃったかな? まぁ、それだけだよね」


 くそ、俺にとっては大外れもいいとこだ。

 押される刃。その数十cm先には、四条さんの身体。

 このままじゃ――、


 ――【探究】の進捗情報。天恵【探究】の解析度47%。

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