第102話 ◆大災害2

山王やまおうさん!」

「伊達! お前も来たか!」

「越田さんに言われて来ました!」

「代表は何て?」

「水谷さんが来るまでの間、第1班の穴埋めに、と」


 そう言うと、第1班の面々は顔を見合わせた。

 そんな中、盛大に噴き出したのは最初に玖命が声を掛けたSSダブルの【天騎士】山王やまおう十郎じゅうろう


「はっはっはっは! 高幸ユキがそこまで認めたかっ!」


 すると、山王に便乗するように【賢者】立華たちばな桜花おうかもくすりと笑った。


「ふふふふ、結莉殿が不在の中、Eランクの伊達氏がその穴を埋める……ですか。面白い、先程の訓練が全てではないという事、見せて頂きましょうか!」


【大聖女】あかね真紀まきも、そのおかしさに口元を隠す。【頭目】ロベルト・郷田ごうだは表情こそ見えないものの、肩を上下させくすくすと息を漏らしていた。


「死ななきゃ治してあげる。でも、死んだら治せないからね、坊や」

「にんにん! それがしが道を切り開く故、伊達殿は援護を頼むでござる!」


 ロベルトがそう言うも、山王がそれを止める。


「何言ってんだ、伊達は水谷の代わりだ。なら、先陣切るのは伊達って事だ! 伊達、最優先はポータル内のボス、そしてダンジョン核の破壊だ!」

「は、はい!」

「何をやるかはわかってるな!? 悪いが、ボスの解体をしている暇はない! 体力の続く限りポータルからポータルへ駆け続けろ!」

「はい!」

「北側のポータルは確認出来るだけで8カ所! 場合によっては南側にも行く必要が出る! ポータルから出る度にスマホは確認しろ! 派遣所から情報がきてるはずだ!」

「はい!」

「準備はいいか!」

「はい!!」

「第1班! 状況開始っ!!」

「「おぉおおおおっ!!」」


 山王の声と共に、玖命は駆け出した。


「最北端のポータルから破壊します!」

「よしきた! 茜!」

「わかってるよ! スピードアップ……!」


【大聖女】から使用可能となる茜の速度上昇魔法。


「ロベルト!」

「承知したでござる! 闇駆やみがけの術!」


 同じく【頭目】から使用可能となる闇駆やみがけの術。これにより、ロベルトの周囲にいる味方の足音が消える。


「凄い……!」


 玖命は初めての経験にただただ驚嘆した。

 SSダブルを冠する天才たちの完璧な援護に、皆は最北端のポータルへと侵入する。


「全方位集中!」


 山王の掛け声により、ポータル侵入直後に第1班は全員背中を預け合う。


「チェック!」

「チェックです!」


 山王の指示は的確かつ迅速。その行動全てが玖命に次の行動を伝えていた。


「チェックよ!」

「チェック!」

「チェックでござる!」

「よし、ロベルト先行しろ!」

「任せるでござる!」


 ロベルトはそう言うと共に壁を駆け始めた。


「立華!」

「承知した! リングサーチ!」


 円となり広がる魔力の波が、立華にモンスターの存在を知らせる。


「この速度で行けば、15秒で接敵!」

「わかった、伊達、準備はいいか!?」

「はい!」

「総員、戦闘準備!!」


 直後、玖命は大量のモンスターと接敵した。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 ちょうどその頃、水谷は、伊達一心いっしんみこと四条しじょうなつめと共に伊達家を出ていた。


「走らなくていいよ、しっかり歩いて。目的地はみことちゃんの学校」

「「は、はい!」」


 モンスターが現れた際の対応は家に籠ってやり過ごして通報する事が最善だが、大災害ともなれば話は別。

 近隣で複数のポータル、モンスターパレードが確認されている際、天才派遣所の指導で近隣の避難スポットまで集まるのだ。

 伊達家ではみことの通学する高校がソレに該当した。

 伊達家は勿論、近隣住民に声を掛けながら目的地を目指す。

 電信柱の上に立ち、水谷はスマホを確認する。

 しかし、越田からも、派遣所からも新たな情報はない。


(好……大丈夫かな……)


 友人を心配しようとも、今の水谷には何をする事も出来ない。

 それは、各地で奮闘する天才たちにも同じ事が言えた。

 水谷が相田を心配しようと、玖命が伊達家の皆を心配しようとも、救援それが叶う事はないのだ。

 みことは暗雲たちこめる空を見つめ、ただただ兄の無事を願う。


「お兄ちゃん……!」


 一心も命と四条の肩を抱きつつも、戦場に立つ玖命を思っていた。


「玖命、無茶だけはするなよ……!」


 四条は沈黙を貫くように歩くも、その手には強い力が入っていた。


(きゅーめー、早く帰って来い……ばか)


 水谷の誘導の下、伊達家は目的地へとただ歩く。焦る気持ちを抱きながら。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 天才派遣所では、相田が後輩たちに指示を飛ばす。


「市役所の避難スペースいっぱいです!」

「近くの中学校に連絡をとって! 私立だろうと門を開けるようにさせなさい!」

「は、はい!」

「D班! E班! 中学校の外周警戒をお願いします! 追って新宿支部からの援軍と合流してください!」

「「はい!」」


 相田は八王子支部のとも呼べる存在。昼時は、ほぼ全ての天才が相田を通して依頼を受ける。

 彼女の言葉に嘘はなく、彼女が紹介する仕事に間違いはない。だからこそ、多くの天才たちは相田の指示に従う事が出来たのだ。

 一人、また一人と相田の指示により八王子支部を出て行く。そんな中、八王子支部に飛び込んで来た女が一人。


「お、遅れました! 川奈らら到着しました! 何でもやりますっ!!」


 閑散としてきた天才派遣所八王子支部に響いた川奈の声。

 川奈を見つけた相田は待っていたかのように言った。


「川奈さん、10番のレンタルルームへ!」

「へ? は、はい!」


 川奈が廊下の奥へと消えて行く。

 相田は同僚たちに目をやり、こう言った。


「間も無く八王子支部は厳戒範囲に入ります! 各々、割り振られた避難所へ退避! 残った天才たちもこれに続いてください!」


 皆、神妙な面持ちでノートパソコンを手に小さく頷く。

 八王子支部に残るのは――相田と川奈のみ。


「うぇえええ!? ふ、2人しかいないんですかっ!?」

「新宿から援軍が来るまでね。このレンタルルームは、内から鍵をかければ戦車の弾をも弾き返すから、強度については心配しないでください」

「戦車の弾以上のモンスターが来たら……?」

「……そういう事は言わない方がいいと思うんだけど?」

「そう……ですね」

「ここには、八王子の公的機関全てに通じるホットラインがあります。さっきレンタルルームからでもアクセス出来るように設定したから、ここに籠ってれば、各地に的確なサポートが出来るの。川奈さん、お願い」

「うぅ……何でもやりますって言っちゃいましたぁ……」


 困り顔の川奈と、焦りを隠せない相田。

 二人がレンタルルームに入ると同時、玖命は一つ目のダンジョン核を破壊したのだった。

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