第101話 ◆大災害1
大災害――この多くは自然災害が該当するものの、天才とモンスターが現れた現代、同時多発的な
不穏を予感させるサイレンが八王子支部に鳴り響く。
玖命が赤鬼エティンと戦った時でさえ、このようなサイレンが鳴る事はなかった。
このサイレンが流れる理由――それは、八王子支部すらも危険が及ぶ場合。
「八王子で大災害……ですか。まさか我々が八王子に来ている間に起こるとは。いいでしょう、
越田がそう言うと共に、【大いなる鐘】所属の面々の表情が変わる。
「総員、
「「はっ!」」
「目的地は八王子駅周辺。第1班は北側、第2班は南側。モンスターの戦力把握の後、配置が変わる可能性も頭に入れておけ。ロベルト!」
「はっ!」
「第3班、4班に出動要請! 最速で八王子駅へ向かわせろ!」
「かしこまったでござる!」
「
「おうよ!」
「結莉に連絡をとれ。護衛対象を安全な場所へ護送後、我々に合流するように伝えるんだ」
「任せておけ!」
「うむ、状況開始!!」
「「おぉおお!!」」
越田の指示が的確に伝わり、皆は足早にレンタルルームを出て行った。
それに続くように動いた玖命だったが、その足を止めたのは越田だった。
「伊達殿」
「え? はい!」
「体力は?」
「え、だ、大丈夫です!」
「では、結莉が来るまでの間、第1班の穴埋めをお願い出来ますか?」
「え、お、俺がですかっ!?」
「私は第2班の統括がありますので、第1班に手を貸す事は叶いません。ご安心を、既に彼らは伊達殿の動きを確認しました。戦わずともそれが出来るのが彼らです。どうか、ご協力を願えませんでしょうか?」
「そ、それは……願ってもない事ですけど」
「ありがたい。では、山王、茜、立華、ロベルトの事……頼みます」
目を伏せ依頼する越田に、玖命はコクリとだけ頷き、現場へと向かった。
玖命の背を見送った越田が、クイと眼鏡を上げる。
「……大災害。かつて辛酸を舐めさせられたあの絶望が……また始まるのか」
越田は拳を握り、口を結ぶ。
レンタルルームを出た越田は、騒然とする八王子支部の受付前へとやって来た。
慌てる天才、腰を抜かす天才、焦りながらも現状を確認する天才など……反応は様々だった。
その中で唯一冷静を貫いていたのは、常に情報を得るために受話器に耳を当てていた相田好だった。
「まったく、天才よりも一般職員の方が優秀なんじゃないですかね」
言いながら、受付前に向かって声をあげる。
「
芯のある通った声が、八王子支部に響き渡った。
越田という存在に目を奪われた天才、職員は、彼の言葉を待った。
越田の言葉を待つ事こそ、最速の対応だと信じる事が出来たからだ。
「Eランクの天才は、警察と連携し、駅の半径5キロより外の避難誘導を! チームで動く者はこれに準じるよう動いてください! Dランクは半径5キロ以内の避難誘導! Cランクは3~5人でチームを組み、モンスターの対応を! 対処が難しいモンスターが現れた場合、中心部へおびき寄せるように! 我々が殲滅する! Bランク以上の天才は適宜最善の行動を! よもやここで指し手を誤るような経験は積んでいないだろう!?」
「「お、おぉおおっ!!」」
指示し、天才たちを煽る。
【元帥】越田の経験は、天才派遣所のマニュアル以上に的確だった。
「G、Fランクの天才は八王子支部で待機! 支部に入った出動要請に従い、派遣所から随時指示を受けるように!」
「「は、はい!!」」
圧倒的カリスマ――越田高幸がまとめた八王子支部。
越田はちらりと相田を見やり、目礼をしてから八王子支部を出発するのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
天才派遣所の八王子支部は、駅の北側に存在する。
駅から徒歩15分という立地。
玖命は八王子支部を出るなり、その異様な空気に顔を強張らせた。
「うわぁあああああああああっ!!」
「最近のイレギュラーは……もしかしてこの大災害と……!? いや、そんな事考えている暇はない。まずは第1班と合流しなくちゃ……!!」
駆け始めた玖命は、目の端に数多くのモンスターを発見した。
ゴブリン、ホブゴブリンなどまだいい。玖命が手こずった、インプ、グレムリン、ゴブリンメイジ、サハギンやリザードマンすら視界に入る。
……戦った事のないモンスターもおり、玖命に大災害を予感させる。
(5年前……千葉に起こった大災害。たった一晩で多くの人間がモンスターに殺され、ビルや家が倒壊した。海や川は血で染まり、全ての
かつてニュースでしか知らなかった現実が、今、玖命の目の前で起こっている。
状況が読めない中、玖命は大きな焦りを見せていた。
八王子には、玖命の家族も、友人も、知り合いもいる。
そんな彼らの命が関わるこの事態。
玖命には、焦燥を隠す事など出来なかった。
「
今はただ、伊達家の警護を任された水谷を信じる他ない。
玖命は祈りながら駆け、駆けながら願った。
(頼む……無事でいてくれ……!)
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