第101話 ◆大災害1

 大災害――この多くは自然災害が該当するものの、天才とモンスターが現れた現代、同時多発的なポータルの出現も大災害と呼ばれている。


 不穏を予感させるサイレンが八王子支部に鳴り響く。

 玖命が赤鬼エティンと戦った時でさえ、このようなサイレンが鳴る事はなかった。

 このサイレンが流れる理由――それは、八王子支部すらも危険が及ぶ場合。


「八王子で大災害……ですか。まさか我々が八王子に来ている間に起こるとは。いいでしょう、5年前、、、とは違うという事を世界に知らしめてやりましょう」


 越田がそう言うと共に、【大いなる鐘】所属の面々の表情が変わる。


「総員、傾聴けいちょう!」

「「はっ!」」

「目的地は八王子駅周辺。第1班は北側、第2班は南側。モンスターの戦力把握の後、配置が変わる可能性も頭に入れておけ。ロベルト!」

「はっ!」

「第3班、4班に出動要請! 最速で八王子駅へ向かわせろ!」

「かしこまったでござる!」

山王やまおう

「おうよ!」

「結莉に連絡をとれ。護衛対象を安全な場所へ護送後、我々に合流するように伝えるんだ」

「任せておけ!」

「うむ、状況開始!!」

「「おぉおお!!」」


 越田の指示が的確に伝わり、皆は足早にレンタルルームを出て行った。

 それに続くように動いた玖命だったが、その足を止めたのは越田だった。


「伊達殿」

「え? はい!」

「体力は?」

「え、だ、大丈夫です!」

「では、結莉が来るまでの間、第1班の穴埋めをお願い出来ますか?」

「え、お、俺がですかっ!?」

「私は第2班の統括がありますので、第1班に手を貸す事は叶いません。ご安心を、既に彼らは伊達殿の動きを確認しました。戦わずともそれが出来るのが彼らです。どうか、ご協力を願えませんでしょうか?」

「そ、それは……願ってもない事ですけど」

「ありがたい。では、山王、茜、立華、ロベルトの事……頼みます」


 目を伏せ依頼する越田に、玖命はコクリとだけ頷き、現場へと向かった。

 玖命の背を見送った越田が、クイと眼鏡を上げる。


「……大災害。かつて辛酸を舐めさせられたあの絶望が……また始まるのか」


 越田は拳を握り、口を結ぶ。

 レンタルルームを出た越田は、騒然とする八王子支部の受付前へとやって来た。

 慌てる天才、腰を抜かす天才、焦りながらも現状を確認する天才など……反応は様々だった。

 その中で唯一冷静を貫いていたのは、常に情報を得るために受話器に耳を当てていた相田好だった。


「まったく、天才よりも一般職員の方が優秀なんじゃないですかね」


 言いながら、受付前に向かって声をあげる。


傾注けいちゅうっ!!」」


 芯のある通った声が、八王子支部に響き渡った。

 越田という存在に目を奪われた天才、職員は、彼の言葉を待った。

 越田の言葉を待つ事こそ、最速の対応だと信じる事が出来たからだ。


「Eランクの天才は、警察と連携し、駅の半径5キロより外の避難誘導を! チームで動く者はこれに準じるよう動いてください! Dランクは半径5キロ以内の避難誘導! Cランクは3~5人でチームを組み、モンスターの対応を! 対処が難しいモンスターが現れた場合、中心部へおびき寄せるように! 我々が殲滅する! Bランク以上の天才は適宜最善の行動を! よもやここで指し手を誤るような経験は積んでいないだろう!?」

「「お、おぉおおっ!!」」


 指示し、天才たちを煽る。

【元帥】越田の経験は、天才派遣所のマニュアル以上に的確だった。


「G、Fランクの天才は八王子支部で待機! 支部に入った出動要請に従い、派遣所から随時指示を受けるように!」

「「は、はい!!」」


 圧倒的カリスマ――越田高幸がまとめた八王子支部。

 越田はちらりと相田を見やり、目礼をしてから八王子支部を出発するのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 天才派遣所の八王子支部は、駅の北側に存在する。

 駅から徒歩15分という立地。

 玖命は八王子支部を出るなり、その異様な空気に顔を強張らせた。


「うわぁあああああああああっ!!」


 遠方みなみから聞こえる悲鳴、悲鳴、悲鳴。


「最近のイレギュラーは……もしかしてこの大災害と……!? いや、そんな事考えている暇はない。まずは第1班と合流しなくちゃ……!!」


 駆け始めた玖命は、目の端に数多くのモンスターを発見した。

 ゴブリン、ホブゴブリンなどまだいい。玖命が手こずった、インプ、グレムリン、ゴブリンメイジ、サハギンやリザードマンすら視界に入る。

 ……戦った事のないモンスターもおり、玖命に大災害を予感させる。


(5年前……千葉に起こった大災害。たった一晩で多くの人間がモンスターに殺され、ビルや家が倒壊した。海や川は血で染まり、全てのポータルを破壊し終える頃には、およそ10万人の死者、32万人もの怪我人を観測。世界はこれを「日本の悪夢」と呼び、日本はこれを「大災害」と呼んだ……)


 かつてニュースでしか知らなかった現実が、今、玖命の目の前で起こっている。

 状況が読めない中、玖命は大きな焦りを見せていた。

 八王子には、玖命の家族も、友人も、知り合いもいる。

 そんな彼らの命が関わるこの事態。

 玖命には、焦燥を隠す事など出来なかった。


みこと……親父……四条さん……!」


 今はただ、伊達家の警護を任された水谷を信じる他ない。

 玖命は祈りながら駆け、駆けながら願った。


(頼む……無事でいてくれ……!)

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