第93話 収益

「お……おぉ……!?」


 明細書


 リザードマン(小)―16000円×487体=7792000円

 リザードマン(中)―20000円×364体=7280000円

 リザードマン(大)―24000円×201体=4824000円


 合計―――――――――――――――――19,896,000円


「な、なんだこれ……」

「カカカカッ! 6人組Cランクチームの総収入って感じだな!」

「ちょ、何見てるんだよ?」

「いーじゃねーか、減るもんじゃねーし」


 まぁ、翔がいなかったら、この魔石の言い訳が面倒臭かったけどな。

 がしかし、翔がいるからか八王子支部の皆が……目すら合わせてくれないのは気のせいだろうか?

 深夜だから良かったものの、相田さんに見つかってたら何を言われるか……。


「そんじゃ、俺様は戻るぜ! またな」


 そんな空気など意に介さず、翔は俺の胸にポンと拳を置き、去って行った。


「……筋は通すよな、アイツ」


 そう呟いた後、俺はまた明細書を覗き込む。

 明細書に顔が埋まる程に。


「むぅ……に、にせんまんえん、か……」


 この明細書をみことに見せるのが怖い。

 ……が、見せなかったら見せなかったでまた怖い。

 Sランクの魔石ともなれば億をゆうに超えると聞く。

 勿論、あくまで天才への報酬の話だ。

 その魔石が市場に出回れば、100……いや200億の金が動くとか動かないとか……なるほど、KWNカウンの社長が欲しがる訳だ。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 翌日、平日という事もあってか、俺が起きた時には、既に親父もみことも出掛けていた。


「むぅ……」


 俺はまだ明細書を前に唸っていた。

 リビングのテーブルに置いたソレを、どう扱うべきか迷っていたのだ。


「へぇ……結構稼いだじゃん」

「はっ!?」


 俺と同じ目線、その先は明細書。


「な、なぜ四条さんがここに……?」

「おい護衛」


 四条さんにそう言われ、俺は昨日の出来事を思い出した。


「あ、そういえば……?」

「昨日からここに厄介になってる、どうも四条しじょうなつめです」

「それはそれはご丁寧に……って違う! え、見ちゃいました?」

「見たし、コメントもしたよ。何だよこれなら返済すぐじゃん」

「今回は上手くいったというか事故というか……」


 そんな説明など聞いていないかのように、四条さんは明細書を覗き込む。


「てゆーか、この数やばいな。リザードマン1000体以上? Aランクの天才ですらやらないだろ」

「ノ、ノーコメントで……」

「まあ、あの上忍の男を倒した時、玖命の実力はある程度わかった」

「へぇ、流石は鑑定課ですね……」


 そう言うも、四条さんは不服そうな表情を浮かべた。


「あくまで一般人目線だからな。私は戦闘とか全然わからないんだから」

「そうですかね?」

「そうだよ。だからきゅーめーが必要なんだよ」

「そっか……うん、頑張ります」


 そう言うと、四条さんは顔を赤くさせ、慌て始めた。


「ひ、必要ってのは護衛としてって意味だからな! しっかり守ってくれる約束だろ! うん!」

「ははは、わかってますよ」


 その後の沈黙を嫌ったのか、四条さんはテーブルの上のリモコンを指差して言った。


「あ、テレビつけていい?」

「あ、どぞ」


 俺がリモコンを渡すと、四条さんは椅子に腰を落としてテレビをつけた。

 テレビがつくと、ちょうどお昼のニュースが流れていた。

 四条さんがチャンネルを変えなかったのは、テレビの下部テロップに天才の名前が書かれていたからだ。

 そう、最近までよく会っていた有名人の名前が。


『大手クラン【大いなる鐘】所属の水谷結莉ゆりさんが、天才派遣所よりSSランク――通称SSダブルの認定を受けました。これまで水谷さんは【剣聖】として名を馳せ、数々の功績をあげてきましたが、SSダブルにランクアップすると共に、【剣皇】への成長も公表――』

「――あー、水谷さん。遂に公表したのか」

「何だきゅーめー、知ってたのか?」


 逆に四条さんは知らなかったのか。

【魔眼】持ちなら水谷さんを視ていてもおかしくはなかったが……そうか。


「この前食事した時に……はい」

「鳴神翔といい、水谷結莉といい、Eランクの交友関係じゃないよな」

「あの人もまぁ……偶然みたいなもんですよ」

「凄い偶然もあったもんだな」

「この二つの公表が【大いなる鐘】の名前を更にあげる事になるんでしょうね」

「それもそうだけど、【大いなる鐘】が契約してる民間企業の株価にも影響が出るだろうね」

「かぶ……か?」


 俺の言葉に、四条さんは呆れたように言った。


「あのな、きゅーめー? 今やSランクのモンスターが出現した瞬間に企業が物理的に潰れる時代なんだよ。どの企業も大金をはたいて強力なクランとの契約を求めてる。で、今、日本で一番契約したいクランと言えば?」

「【大いなる鐘】ですね……」

「そういう事。大々的に【大いなる鐘】の戦力が増強された事が公表されたんだ。このクランと契約してる企業の株価が上がるのは必然だろ?」


 つまり、安全性が上がったって事か。

 凄い時代だ。クランが企業の株価をも左右するなんて……。


「円高にも影響あるんじゃね?」


 ……ホント凄い。

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