第91話 ◆作戦通り2

「ッシャオラァアアアアッ!!」


 翔が跳び上がり、一直線にリザードキングに向かった時、ようやくリザードマンたちは動き始めた。


「オラオラオラァ!!」


 駆けながら叫ぶ翔はリザードマンたちの襲来に備えていた。

 だがしかし――、


「こっちだぁっ!!」


 翔に向かおうとしていたリザードマンの流れが変わる。

 リザードマンの全てが玖命に向かう。


「お? おぉ!? マジかっ!?」


 玖命のヘイト集めが決まり、翔の道は開けた。


「おぅら!」


 翔の拳がリザードキングの頬を撃ち抜く。

 体勢を崩しながらも、リザードキングは槍を振り上げる。


「ハァアアッ!」


 玖命の気合いの直後、一瞬硬直するリザードキング。

【威嚇】攻撃はSランクのリザードキングにはほぼ無効。

 だが、一瞬の硬直には繋がる。

 翔はこれを余裕を持ってかわす事が出来、更に次なる一手に繋げる猶予すら得た。


(スゲェ! スゲェじゃねぇか玖命ぇ!)


 目の端で捉える玖命は、リザードマンの波に呑まれながらも呑み込まれてはいない。


「そこ! スパークレイン!! ハァ!」


 雷の雨が降り、痺れて止まったリザードマンから目を離す。

 その一瞬で、反対側のリザードマンを斬り、痺れから回復したリザードマンを斬る。

 何度も何度も繰り返した戦闘が、玖命の最適化を促進させた結果と言えた。

 翔はリザードキングと戦いながらも、その光景を目撃していた。


(……ありゃとんでもねー逸材だな。最初Eランクと聞いた時ゃ目玉飛び出るかと思ったが、あれから大して時間が経ってねーってのに、更に強くなってやがった。俺様が吹き飛ばされてから、この短時間でも……いや、今も尚ってかぁ!?)


 舞い散るリザードマンの首。

 噴き出る血が飛び、鮮血に染まる謁見の間。

 戦う翔の背を確実に守り、1体のリザードマンをも通さぬ正に鉄壁の玖命。

 かつて、これほどまでに快適に戦えた事はない。

 そう思う翔の心に嘘はなかった。


(やべーやべー! なんつー戦いやすさっ! ボスとのタイマンを思う存分出来るなんて夢みてーだ! 玖命! おぇが何でヘイト集めも、威嚇も、魔法も、剣も使えるのかは問わねえ! ただ感謝するぜ! カカカカッ! とんでもねーヤツとダチになっちまったぜ!! 玖命! お前となら! こいつとなら……!!)

「楽しいぜぇ……楽しいなぁおい! 玖命ぇ!!」

「さっさと倒してこっち手伝え!!」

「もうちっとカンドーしろよ!」

「まだか!? もう致命傷くらい与えただろ!?」


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【魔力C】を取得しました。


「まだだよっ!!」

「喋ってる暇あるなら戦えよ!! ったく! サンダーボルト!!」


 直後、リザードキングの上部に一筋の雷撃が走った。


「ギ、ギィ!?」

「ほら! すきだぞ隙っ!」

「てめ! タイマンけがすんじゃねぇ!?」

「長引けば長引く程、こっちは血の雨が降るんだよ!」

「カカカカッ! じゃあ玖命も今日から血みどろだぁ!」

「そういう二つ名はいらない!」


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【脚力C】を取得しました。


「カタイ事言うんじゃねー……よっ!」


 翔がリザードキングの腹部に拳を埋める。


「ガァ!?」

「っしゃあああああ!! 俺様の必勝パターンだおらっ!!」


 右に左に翔の拳が飛ぶ。

 怒りを露わにしたリザードキングが、上段から変化を付けた一撃を翔に向ける。

 だが、翔の拳はそれさえも捉える。


「だぁああああっしゃいっ!!!!」


 槍の先端を殴り、その刃を粉砕する。

 リザードキングは、余りの衝撃に槍を落としてしまう。


「カカカカッ! ガタガタにしちまうゾ、おい?」


 そう決める翔の背で玖命が言う。


「終わったぁ!?」

「まだだよ! 今イイトコなんだよ!! 邪魔すんじゃねーよ!」

「俺の方は邪魔してくれていいんだけど!?」

「わーったよ! おらっ!!」


 翔はリザードキングが落とした槍を後方へ蹴り、玖命を狙うリザードマンたちを吹き飛ばした。


「あぶ! あっぶ!? 今、かすったんだけど!?」

「当たってねーだろ!?」

「当たらないと掠らないんだよ!」


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【威嚇C】を取得しました。


「ハァアアアアアッ!」

「カカカカッ! 正面にいる奴より、後ろにいるヤツのがプレッシャー与えて来やがるっ!! オラァアア!!」


 遂に翔の拳がリザードキングの頭部を捉える。


「ギイイイ……ギ!?」

「おうおう、クラクラかぁ!? トカゲ野郎!」


 翔の攻撃、玖命の攻撃が互いの余裕を生み、互いの成長を促進させる。


「ギィイァアアアアアアアッ!!」


 最後の力を振り絞るように、リザードキングが立ち上がる。

 玉座に走り、2じょうの槍を持つリザードキング。


「面白れぇ! いたち最後さいごってやつか、おい!? じゃあ俺様もそろそろ――」

「――そろそろじゃなくて最初からやろうよ!」

「かぁああああああ、小言が多い相棒だな、おい!?」


 自慢のリーゼントをかきむしり、玖命の悪態に悪態を吐く翔。

 小さく呼吸をした後、翔が呟く。


「そんじゃ見せてやんよ……おとこの拳ってやつをなぁ!?」

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