第90話 ◆作戦通り1

「くそ!」


 後退しながらもリザードマンを倒し、リザードキングとの距離をとる玖命。

 リザードキングは二じょうの槍を持ち、遂に歩き始める。

 その一歩は大きく、距離を稼ぐ玖命を徐々に追い詰める。


「来るな来るな来るな!」


 距離を詰められてリザードキングの攻撃を受ければ、絶命は必至。自分にまだSランクに匹敵する力がないという事は、玖命にもよくわかっていた。

 だからこそ――、


「ガァアアアッ!!」


 なりふり構わず刀を振り、魔法を放った。


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度34.1%。天恵【聖騎士】の解析度14.0%。天恵【武将】の解析度19.7%。天恵【上級戦士】の解析度100%。天恵【狩人】の解析度77%。天恵【魔導士】の解析度91%。天恵【白魔術士】の解析度82%。天恵【拳豪】の解析度7%。天恵【上忍】の解析度6.1%。天恵【腕力A】の解析度1.7%。天恵【頑強B】の解析度14.2%。天恵【威嚇D】の解析度48%。天恵【脚力D】の解析度71%。天恵【魔力D】の解析度60%。

 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【凶戦士】を取得しました。


「まだまだぁあああああっ!!」


 玖命が舞うと共に、リザードマンが散る。

 その数は一撃毎に増えていく。

 練られ、洗練され、昇華する。


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【大魔道士】を取得しました。


「近いんだよ! こっちに来んな!」


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【聖者】を取得しました。


 攻撃の度に減っていく部下リザードマンを見、リザードキングは遂に玖命を脅威と認める。


「ギィァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

「まずい……!」


 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【スナイパー】を取得しました。


「ス、スパークレイン!」


 初動、玖命はリザードキングに雷撃を放ち攻撃を遅らせた。

 この成功がリザードキングの動きを一瞬遅らせた。

 だが、それでもリザードキングが止まる事はない。

 至近距離からの槍投擲。玖命にかわせる余裕はない。

 投げられた槍は風を切り、仲間であろうはずのリザードマンすら斬り裂き、玖命の胴体に向かった。


(こ、これは……か、かわせな――!)


 直後、玖命の前に音が走った。

 届いた槍と…………槍。

 真っ直ぐ玖命に向かった槍は、真横から届いた槍によって防がれ、ひしゃげたのだ。


「お? ぉおっ? おぉおおお!?」


 玖命の目の色が変わる。

 それは、玖命がずっと待っていた援軍の到着の知らせだったからだ。


「カカカカカカッ!! やるじゃねーか玖命っ!!」


 謁見の間の外から聞こえる援軍の声。

 足取り軽く、鼻歌交じり。

 しかし、その足音が他のリザードマンたちを怯ませた。

 カツカツ響く革靴ローファーの足音。

 ヘイト集めによって意識が玖命に奪われているにも関わらず、リザードマンの敏感な耳が、その音に囚われている。


「いやぁ~……正に気付けのイッパツだったなぁおい?」


 デコピン一発でリザードマンの首を飛ばし、ステップを踏むようにふわりと跳び、リザードマンの頭を踏み、踏み、踏み……いつのまにか援軍はリザードキングの真後ろ。

 玖命が捉えたのはそこまでだった。

 直後、リザードキングは緊急防御の姿勢に入った。

 両手で槍を突き出し、援軍のソレを受けた。


「ギィイイ!?」


 10メートルはあろうリザードキングが……吹き飛ぶ。

 ふわりと地面に降り立ち、ポケットから取り出す――真っ赤なくし

 黄金のリーゼントを整え、櫛をポケットに戻す。

 この間、リザードマンはおろか、玖命すら動く事が出来なかった。

 短ランをビシっと正し、左手はハンドポケット。

 そしてリザードキングに向かって逆手にした右拳を突き出す。


「うぉ……マジかよ」


 玖命でさえ呆れる援軍の行動。

 右の逆手から…………そそり立つなか指。


「sb@rあvobd絵i☆brjgんなよゴラァ!!」

(何言ってるかわかんねーよ)

「どこ中だてめぇゴラァ!? おぉ!?」

(あ、今のは何となくわかった)

「ギィイイッ!?」


 リザードキングすら困惑する恫喝どうかつ


「ごめんで済むなら雅夫は国道1号コクイチで捕まらねぇんだよ! お!? めとんのかワレェ!?!?」

「いや、絶対謝ってないって」


 そう言いながらも、玖命は援軍もとい翔の額から流れる血に気付き、回復魔術を施した。


「お? おぉ!? なんじゃこりゃ!?」

「ただのおまじないだよ」

「へっ、迷信は信じねぇ性質たちだが……なるほど、こりゃ悪くねー」

(ていうか、槍投擲アレが直撃してそれだけのダメージってどういう事だよ?)

「お? 何だ、玖命?」

「いや、元気だなぁと」


 未だ誰も動けぬ謁見の間で、腰を落とし、ストレッチを始める翔。それにならったのか、玖命もまたぐりんと首を一周回す。


「いけるか玖命?」


 すっと腰を落とし、鳴神なるがみしょうの背を守るように刀の結界を敷く玖命。


「……いつでも」

「よーし! そんじゃ、当初の作戦通りって事で――」


 ぶんぶんと肩を回す翔と、


「――いくぞ」


 玖命。

 互いの背を預けた【拳聖】と【無恵の秀才】。


「カカカカカッ! 全殺ぜんごろしだぁ……!!」


 血みどろの翔の目が、全てを支配した瞬間だった。

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