第88話 リザードの王1

「カカカカッ! すげープレッシャーじゃねーか!? なぁ、玖命ぇ!?」


 城の中に入り、ピシピシと伝わる圧力。

 翔は笑ってるが、俺は生きた心地がしない。

 ……これが、Sランクのプレッシャー?

 しかし、何故こんなになるまで?


「そもそも凶暴化する前に、一度ダンジョンを攻略してしまう手もあったんじゃないの?」

「社長は慎重だかんな。通常の魔石はリザードマンクラスでいいんだが、デカイのはSランクのが欲しいっつーからよ! 俺様がアドバイスしたんだよ! こうすりゃカンタンだってよ!」

「つまり、定期的にSランクの魔石が欲しいと?」

「そーゆーこった」


 確かに、Aランクのリザードキングを凶暴化させて倒せば、Sランク相当の魔石が手に入る。

 今回の依頼の募集が始まったのはつい最近。

 およそ一週間だろうか、それくらいでSランクの魔石が手に入るのであれば、悪くないのだろう。

 しかし、気になる。


「ここはリザードマン……つまりDランクのモンスターがうろつくダンジョンだ。そこでAランクのリザードキングが出るってのは珍しいケースだろ?」

「お? 流石に知ってるか。そうだぜ、ここも最近話題の例外ダンジョンよ! カカカカッ!」


 笑って言う事じゃないだろうに。


「一度俺様に依頼があってな? 社長にダンジョンの事を詳しく聞かれたんだよ。そんで、さっきの凶暴化の事を話したら興味を持ってな、次にAランクボスのポータルを見つけたら、破壊をせずに連絡が欲しいってな」

「それで、この場を土地ごと全て買ったと」

「おうよ! 金持ちはやる事がでけーでけー!」


 つまり、その段階で既に天才派遣所とKWNカウンに繋がりがあった。

 という事は……翔を川奈氏に紹介したのはおそらく派遣所。

 それもおそらく天才派遣所の総括所長――荒神あらがみかおる

 付き合いこそ短いものの、翔はお金にも政治にも頓着とんちゃくがないタイプだという事がわかる。横の繋がりも薄く、クランにも所属していない。扱いやすいと判断されたか?

 だがやはり、翔は選ばれてここに呼ばれた。

 両者の間でどんな約束があるのかわからないが、大量に魔石が必要な何かだという事だ。


「翔」

「ぁんだ?」


 俺が呼びかけると、翔が振り向く。


「Sランク相当の魔石一つで何が出来るか知ってるか?」

「あ? ん~~……電気とか?」

「どれくらいの電気だと思う?」

「そりゃー……電車とか?」

「市だよ」

「あん?」


 翔がポカンと口を開ける。


「大きい町、小さい市くらいなら簡単に賄える量の電力を生み出せる。それも、恒久的に」

「そいつぁすげーな」

「川奈社長は……一体何をやろうとしてるんだろうな」

「なるほど? 確かにそいつぁ気になるな」


 翔もこの管理区域に興味を持ったか。

 言ったところで何が変わる訳でもないだろうが、俺はどうしても言わずにはいられなかった。

 何か、恐ろしい事が起こりそうな気がしたから。その何かという不安を、自分より強い者と共有したかったのかもしれない。


「――だが、今それを気にしてる時じゃねーぞ?」

「っ!?」


 視界に、この城の門と同じような巨大な扉を捉えた。

 扉は閉まってる……まるで、何かを守っているかのようだ。

 何か? いや、答えなんてわかっている。あの中にはボスと大量のリザードマンがいる……!


「おうおう! すげー殺気だ! 玖命! 準備はいいか!?」

「これ以上待ってたら、ボスが外に出ちゃうからね」


 俺は風光を抜き、準備完了の合図を翔に送った。


「そんじゃ……行くぜ!」


 翔は拳を固め、正面の扉を……殴った。


「しゃぁああああああああああ!!!!」


 翔の気合いと共に俺たちは扉の中へ入った。


「「うぉ!?」」


 開けた瞬間、翔も俺も間の抜けた声を出してしまった。

 謁見の間――王と謁見する広間……のはずなのだが、その広間を埋め尽くすようなリザードマンたち。

 そして、玉座に座る赤い目を光らせたリザードの王――リザードキングが……立った。


「来んぞ! 注意しろ、きゅうめ――――!?」


 瞬間、翔が扉の外に飛んでいった。

 今、何かが通り過ぎていったような……?

 気付くと、リザードキングは行動を終えていた。

 あれはまるで槍投げの――!?


「どわぁああああああああああああああああ!?!?」


 背後から大きな衝突音が聞こえた。

 どうやら翔はリザードキングの投擲やりによって吹き飛ばされたらしい。

 声の様子から生きているとは思うが、翔が復帰するまでの間……俺……一人!?


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。


 あ、やばい。

【探究】が動いたという事は――、


「ギィァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

「っ!?」


 なんていう咆哮だ。

 これだけで身体に痺れが走るようだ。


「「シャアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」


 王の怒りの指示により、リザードマンたちが……動いた!


「おい、翔!? 翔さん!? 翔様ぁ!?」


 ダメだ、反応がない……ならば、やるしかない。


「あんまり、こっち見んなよ……?」


 直後、俺の前にリザードマンの大波が迫った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る