第82話 鉄腕の男1

 危なかった。

 後ほんの少し遅れていたら、四条さんは命を落としていたかもしれない。


「きゅ、きゅーめー……?」


 よかった、意識もあるし、怪我も擦り傷程度。

 だが、彼女をここまで追い込み、命を狙ったのは……奴。


「今一度聞く……何者だ?」

「護衛だって言っただろ」

「わかった、もう何も言わなくていい。お前は私の……敵だ」


 直後、5本の苦無くないが眼前に迫った。


「ふっ!」


 5本の奥に隠れて……4本の苦無!?


「くっ!?」

「ははは、頑張るな」


 更に3本……!


「くっそ……!」


 まだ来るのか!? ……つまり!


「ハァアアアッ!!」


 残る2本、1本と防ぐと、鉄腕の男は目に驚きを宿した。


「あの苦無を全て防ぐ……だと? 知らん、知らんなぁ? お前の情報はない。天才? 【はぐれ】ではないなぁ? それだけの実力があれば、自然と名はあがるはず」


【はぐれ】の情報網でも、俺の事はまだ知られていないようだ。だが、奴を逃がせば俺の存在が【はぐれ】の情報網に加わる。

 だから、奴は逃してはいけない。


 ――探求を開始します。対象の天恵を得ます。


 頼むぞ、出来るだけ早く……!


「では、俺の踏み台になってください」

「…………気に入らぬ」


 瞬間、鉄腕の男が俺の横を通り過ぎた。

 クソッ、やはり四条さんが最優先か!

 俺は身体を反転させ、男の背中に向かって刀を振った。

 だが、奴もまた反転し、右腕でそれを受けたのだ。

 馬鹿な!? 狙って受けたのか!?


「きゅ、きゅーめー! 上忍だ!」

「伏せてろ!」

「ぅぁ!」


 四条さんが伏せた直後、無数の攻撃が俺を襲った。

 俺はそれを全て受けるも、手に残る痺れは中々厄介だ。

 だが四条さん……ファインプレーだ。

 彼女から上忍という情報が入らなければ、俺は今のカウンターで死んでいたかもしれない。

【下忍】から成長する【上忍】。

【剣士】や【拳士】よりも速度に特化し、それを活かす戦闘方法、すなわち奇襲攻撃に長けているのだ。

 それに――、


「その腕……!」

「気付いたか、この腕は【腕力C】のアーティファクト」

「おかしな話ですね、天才登録していたとしても、活動していない【はぐれ】は購入出来ないはずなのに」

「ククク、優秀だな。これだけの情報でそこまで読むか」


 つまり、【はぐれ】にアーティファクトを捌いている企業があるという事。

 だとすれば……なるほど、もしかしてそういう事なのか?


「動きも我流のようだが悪くない。しかしわからぬ……お前の天恵は一体?」


 まぁ、さっきファイアボールも撃ったしな。

 これだけの立ち回りをしたら嫌でも気になるだろう。

 しかし、その情報を渡してやる訳にはいかない。


「それより……いいんですか? これだけ大騒ぎになれば、すぐにここへ天才がやって来ますよ」

「ククク、何の冗談だ? ここから俺に逃げられて困るのはお前の方だろう?」


 その通りだが、ちゃんとそれを理解しているという情報があるのはありがたい。

 どうやら奴は四条さんを殺すまではここから去らないようだ。


「えぇ、ですが気になりますね」

「何?」

「捕縛される可能性すらあるというのに、逃げない理由……いえ、逃げられない理由……ですかね? 【はぐれ】の集団にも【はぐれ】が嫌う規則があるようですね」

「…………やはり気に入らぬ。今すぐその首へし折ってやろう」

「っ! ハァアアア!!」

「なっ、【威嚇】だと? それにこれは【騎士】の――」

「――オォオオオオオ!!」

「くっ、何者か知らぬが、その程度の児戯で俺が負けるはずがなかろう……! シャッ!」


 鉄腕の男が再び苦無を放つと、今度は後ろに苦無ではなくその身体を飛び込ませた。

 弾いて……これはタックル? いや――違う!

 クロスした腕を開き、両腕で俺の顔を狙ってきた。半歩引いてかわすも、開いた両腕が手刀となり顔に戻ってくる。


「くっ!?」


 上体を逸らしてかわすと、


「甘い……!」


 重心のかかった足を払われてしまう。

 くそ、やるしかない……!

 俺は倒れる直前、身体をひねり、倒れながらファイアボールを放った。


「くっ!? やはり先程の魔法もお前の仕業か! 【騎士】のヘイト集め、【魔法士】のファイアボール……っ! ま、まさかお前も、、、……!?」


 奴の驚きが、俺の復帰を助ける。

 俺はすぐに立ち上がり、後退しながら、四条さんの前に立つ。

 しかし気になる「お前も」とは一体どういう事だ。

 気になるが……今は奴を倒し、四条さんを安全なところへ連れて行く事が最優先。

 俺は風光を握り、再び男に詰め寄った。


「ハッ!」

「そのような単調な動きで俺が捉えられると!? カァッ!」


 鉄腕の男は上段から右の裏拳を放って俺の上段を防ぎ、その引き手で、左の正拳が飛んで来る。


「くっ!」


 咄嗟にそれを膝で受けるも、やはり威力は絶大。


「重いな……」

「何とも奇怪な男だ。動きこそまともだが、力の使い方が甘い。どんなにデカく強いエンジンを積もうとも、中身とガワが整ってなければ、上手く使える訳もない」


 そう、それが俺の弱点。

 様々な天恵こそあるものの、俺はそれを使いこなす事が出来ていない。【剣聖】と【聖騎士】……この二つの天恵があれば、この男を倒す事は可能なはず。

 しかし、それ以外の天恵があろうともこの男と実力が拮抗してしまう事態。

 やはりこれは、短期間でいくつもの天恵を得た弊害なのだろう。

 ならば――、


「じゃあ、じっくり見せてもらいますよ」

「生意気な……!」

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