第75話 Cランクになるまでは。

 あれから更に何時間が経った……?

 ダンジョン内では、多くのモンスターが出現すると聞くが、こんなにも現れるものなのか?


「さすがに……疲れてきたかな……」

「気合いが足らねぇ」


 振り返ると、そこには鳴神翔がいた。

 翔は俺の横に積み上げられたリザードマンの死体を見上げ、口を尖らせる。


「ほーぅ、とは言え、ケッコー頑張ったじゃねぇか」

「無限に湧き出てくるんじゃないかと思いましたよ」

「あぁ? ボスが生きてるんだ。時間はかかれど無限に湧くだろうが」

「でも、それにしては多かったような……」

「リザードマンは再出現リポップ期間が短ぇんだ。更に1体の魔石もそこそこデケェ。だからKWNの社長も、ここを管理区域にしたんだよ」

「ゴブリンやホブならまだわかるんですが、リザードマンクラスになると、そのうち手に負えなくなるんじゃ……?」

「だから俺様みたいな半端者はんぱもんに声が掛かったんだよ」


 なるほど、確かにそれなら納得だ。

 おそらくここの契約は長期での契約。

 KWNの川奈氏の狙いはわかっている。

 当然、リザードマンの魔石が狙いだ。

 このエントランスを守っていれば、リザードマンがポータルの外に出る事はない。

 それを事前に調べ、たとえポータルから外に出たとしても、管理区域を出るための通路全てに天才を配置。

 一応理にかなってるが、配置された天才はDランクの方がいいんじゃないか?

 ……いや、待てよ?


「はっ、見かけによらず頭の回転は早いじゃねぇか」


 それはどんな見かけなのだろう。

 だが、俺の表情の機微を感じ取り、俺が今回の依頼を理解したと翔は見抜いた。流石は【拳聖】。潜り抜けてる修羅場が違うという事か。


「そういうこった、今回の依頼はランクF以上の天才。しかし、天才派遣所にゃこうも言い含めてある」

「Dランク以上の力を持った天才であれば、下位ランクを優先的に紹介してもらう」

「カカカカカッ! 川奈社長は下位の実力者を優先的に雇うよう、下請けに依頼したって訳だ」


 確かに、このエントランスに来ないのであれば、かなり美味しい仕事だ。だとすれば、若手の実力者はここの長期契約をする可能性が高い。

 ならば、彼らのランクが低い方が依頼報酬が安く済む。正に商売人の考えそうな事だな。


「ぁ」


 俺がそう零した瞬間、翔の後ろに新たなリザードマンが現れた。


「ぉ?」


 出現と共に翔を発見したリザードマンは、その背に向かって剣を振り下ろした。

 だが、翔はそれを半歩動いただけでかわし、ハンドポケットから右手を出して言ったのだ。


「俺様が話してるんだ、邪魔すんじゃねーぞ?」


 デコピン。

 翔の中指が弾けたと同時、リザードマンの頭部はどこかに消えてしまったのだ。

 何て一撃だ。あれが拳士を高みへ成長させた翔の強さか……!


「やっべ!?」


 翔が焦る。何だ、一体何が起きた?


「ま、ままま……」

「ま?」

「魔石が吹き飛んじまったぁあ!?」


 頭を抱え後悔を叫ぶ翔は、年相応という感じだった。


 ――成功。最低条件につき対象の天恵を取得。

 ――鳴神翔の天恵【拳士】を取得しました。


 いつの間に発動したんだよ、お前。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 翔と交代し、俺は再び川奈さんと合流した。


「本当にすみませんでしたっ!」


 深々と謝罪する川奈さんに、俺は言った。


「あぁ大丈夫大丈夫。結構勉強になったし」


 事実、今回のリザードマンとの戦闘で、他の天恵がかなり成長した。戦いの幅が出来るというのは、何とも気持ちのいいものだ。


「うぅ……すみません……」

「それより何かわかったの?」

「あ、そうです、 あの後……翔さんと一緒に父を尾行したんです」


 契約者が雇用主を尾行するって……なんだ?


「そしたら、物凄い人物が現れたんです!」

「物凄い人物?」

「天才派遣所統括所長――荒神あらがみかおるさんがいました」

「うぇ!? ほ、本当にっ!?」


 コクコクと頷く川奈さん。

 どうやら見間違いではないようだ。

 それにしても荒神薫か……とんでもない大物が出てきたな。

 しかし、企業の管理区域なんて大事業、あの人が関わらなかったら上手くいく訳がない。

 世界にはありふれた【魔法士】の天恵を【賢者】にまで成長させ、世界に名を轟かせた傑物。

 確かあの人は、現役最後にSSダブルにまで上りつめ、世界最大のクランに入って世界を股にかけたと聞く。

 だから世界のSSダブルSSSトリプルにも顔が利き、日本の派遣所トップになった。


「リザードマンを狩り続けて、魔石を集めてるんですよね?」

「リザードマンの皮、奴らが持つ剣とバックラーもね」

「ぜ、全部お金になるんですね……」


 奴らの皮はともかく、武具はどこからくるのか、それは世界の謎として残っているものの、異界からの資源を有効に活用するというのは俺も賛成だ。

 しかし、その謎に迫る事も大事だと思っている。


「結局、お父さんとは話さなかったんだよね?」

「遠目で見てただけですね。話しかけたら私が天才の活動してる事バレちゃいますから」

「因みに、バレたらどうなるの?」

「んー…………お小遣い禁止? とか?」


 どうしよう、彼女のお小遣いの金額を知りたい俺もいるが、知りたくない俺もいる。


「やっぱり、Cランクになるまでは、親には言えないですね……」


 確か、売れっ子配信者の動画で、ランク別の月収予想があった。

 Cランクの平均月収は確か……一千万だったっけ?

 その後の川奈さんの話は、あまり覚えていない。

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