第74話 リザードラッシュ

 翔が川奈さんの下に戻り、俺はダンジョン内にある城のエントランスでリザードマンと戦い続けていた。


「キシャァアアアアッ!!」


 蛇の威嚇音のような声をあげ、リザードマンが斬りかかる。

 やはり左利きという事もあり、戦い難い。

 だが、リザードマンから頂いたこの小型の円盾バックラーを使えば、攻撃を簡単に弾ける。

 バックラーは自分から剣を迎えにいく防具であり、受けるものではなく弾き、剣のバランスを崩す目的で使われる。

【上級騎士】と【威嚇】で上手く攻撃を誘導してやれば、あの長い首は格好の的だ。


「カッ!?」


 しかし、翔に言われ、ここでリザードマンを倒し続けてから、もう30分は経過している。

 終わりの見えないマラソン程怖いものはない。

 バックラー戦法が確立するまでは、色々ためしてみたが、やはり一人で動く時間というものは、考える事に重点を置く場合が多い。

 戦闘で集中している事もあるのだろう、【超集中】を使用している事もあるのだろう。ここ最近の全てが頭の中で整理出来た気がする。


 まず【探究】についてだ。

 この前の四条と会った時、【探究】は早々に四条から【鑑定】を得た。【超集中】を発動していないにもかかわらずだ。

 そして、その後、四条は俺に教えてくれた。


 ――【鑑定】持ちには【鑑定】系の天恵は無意味なんだよ。


 最高条件ではなく適正条件での【探究】成功。

 最高条件であれば【魔眼】を得ていただろうに、【鑑定】を得た。時間が足らなかった? いや、あの時、四条とはかなり長い時間、行動を共にしたはずだ。

 それなのに、遂に【魔眼】を得る事は出来なかった。

 この戦闘中、それを考えていた。

 そして、一つの仮説に辿り着いた。

【探究】には……意思があるのではないか、と。

【探究】が【魔眼】に見破られれば、俺の持っている全天恵が多くの目に触れる事になるだろう。

 それを避けたと考えれば、早々に四条の【鑑定】を得たのにも納得する。

 だが、そんな簡単に【鑑定】を得られるのか。

 勿論、答えはNOだ。ずっとこの天恵と付き合ってきた俺は、体感で知っている。圧倒的な集中力をもってしても、たとえ最下級の天恵だとしても、倒さず、視るだけでその天恵を得るには、かなりの時間を要すると。

 だが、もう一つの仮説が生まれた。

 それが、【探究】結果の前借り、、、だ。

【探究】は、四条に視られる事を避けるため、【鑑定】という天恵の外側だけを得た。そして、四条と過ごした残りの時間で、中身を【探究】したのではないか、と。

 こう考えれば、何故早々に【鑑定】を得たのか、何故、残りの時間で【鑑定】が成長しなかったのかも説明がつく。

 勿論、確証はない。確証はないのだが……やはりこの仮説がしっくりくる。


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度11.9%。天恵【聖騎士】の解析度2.6%。天恵【武将】の解析度9.3%。天恵【上級戦士】の解析度10%。天恵【弓士】の解析度100%。天恵【魔導士】の解析度12%。天恵【回復術士】の解析度100%。天恵【腕力B】の解析度66%。天恵【頑強C】の解析度92%。天恵【威嚇E】の解析度100%。天恵【脚力D】の解析度20%。天恵【魔力E】の解析度59%。

 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【狩人】を取得しました。

 ――天恵【白魔術士】を取得しました。

 ――天恵【威嚇D】を取得しました。


「いいね。リザードマンは【剣士】持ちだから捗るな……」


 他の天恵についてもわかった事がある。

【弓士】の天恵だが、基本的に投擲系の武器を投げれば進捗が進む。石でも投げナイフでも、リザードマンから奪った剣や盾を投げても成長する。当然、これには魔法も含まれる。

 つまり、魔法には【弓士】系天恵の命中補正がかかる。

 本来、自身の技術だけで対象に魔法を当てなければならなかった【魔法士】たちとは大きな差。これがある事で、魔法の運用が非常に楽になった。

 サハギンが【足軽】を持っていて、【武将】を成長させていて、一度【武将】の成長率が【剣聖】を抜いたが、リザードマンが【剣士】を持っていたおかげで、また【剣聖】の成長率が【武将】を抜いた。

 川奈さんと依頼消化している間に【脚力E】が【脚力D】に成長した事もあり、力負けする事がなくなったのはいいが、逆に怖い面もある。何故なら俺の力は、既に一般人を軽く殺せる程に成長しているからだ。

 いつかみことや親父にこの力が向かわないか、不安でならない。


「はぁ……困ったもんだな」


 天恵の成長が不安になる日が来るとは、無能と呼ばれていた頃の俺なら思わなかっただろう。

 どんなに馬鹿な俺でもわかる。今、俺が歩んでいる道は、必ず最強へと続いている。

 望めば、世界中の天恵を自分のものに出来るかもしれない。

 だが、それは、裏を返せば世界中から恐れられるという事に他ならない。

 最強そこへ辿り着いた時、俺は今の俺でいられるのか。

 それが、本当に不安である。


「カッ!?」

「それにしても、あと何体のリザードマンを倒せばいいんだ?」


 俺はそんな愚痴を零しながら、積み上がるリザードマンの死体を見上げたのだった。

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