第69話 鑑定課への報告

「ぇと……そ、それじゃぁ……」


 小さく頭を下げ、フードと猫を被って派遣所を出て行く四条しじょうなつめ

 それを怪しい目で見るのは、我がチームメンバーの川奈らら。


「ふふふ~……あのキュートな笑顔に癒されますねぇ~」


 何も知らない方が幸せな事だってあると思う。

 四条には、あの後、【探究】の能力について説明をした。

 最初は驚いて信じてくれなかったが、魔法を見せた後、剣技も見せてやったら驚きつつも信じてくれた。

 四条には、相田さんと水谷が知る情報と似たようなものを渡した。

 つまり、最下級の天恵なら得られるという情報を渡したのだ。


 四条が持つ情報としては、俺が持つ天恵は――、

【探究】、【剣士】、【騎士】、【足軽】、【戦士】、【魔法士】、【回復術士】、【腕力G】、【頑強G】、【威嚇G】、【脚力G】、【魔力G】、【集中】、【真贋】の14の天恵である。

 数が数だけに驚いていたが、四条は納得し、そして帰って行った。

 これならば、特殊ではあるが、鑑定課も納得するだろう。

 それに、最下級の天恵が揃ったところで、極めに極めた天恵には及びもしない。それだけ天恵の成長とは力を飛躍的に向上させるのだ。

 因みに【真贋】というのは赤鬼エティンが保有していた天恵【心眼】の最下級天恵である。


「これで、次のお偉いさんが来るまで、しばらく時間が稼げるだろう……」


 そう呟くと、川奈さんはコトンと小首を傾げた。


「今、何か言いました?」

「いえ、それより今日の討伐、何かいいのありましたか?」

「はい! 相田さんに見繕ってもらいましたっ!」

「それじゃあ――」


 そう言いかけたところで、俺は目の端に映る水谷たちを見る。

 そこには越田、水谷、そして山井がいた。

 三人とも、俺の鑑定結果に目を通したのだ。

 何故、彼らが鑑定結果を見られたのかというと、何の事はない。俺が許可したからである。


「山井殿、これをどう見ますか?」


 越田が山井に問いかける。


「最下級だけとはいえ、これだけの天恵を保有しているのだとしたら、組み合わせ次第では非常に有用かもしれんのう」


 山井も驚きを隠せないようだ。


「【足軽】、【戦士】、【魔法士】、【回復術士】、【威嚇G】、【脚力G】、【真贋】まで増えてる……ふふふ、そりゃ強くなるよね、玖命クン」


 相変わらず好奇心が旺盛な水谷だが、彼女のランクと俺のランクではまだまだ大きな開きがある。

 実力差は縮まっただろうが、それでも【剣皇】である水谷に勝てる気はしない。やはり、天恵の成長が急務だろう。……ん?

 何やらずっと話していた越田と山井が頷き合っている。

 そして何やら握手をかわし、山井は俺の隣を通り過ぎた。

 一度立ち止まると、山井は俺に言う。


「玖命、面白い土産話が出来た。西に来る際はいつでも連絡するといい」

「あ、はい。是非!」

「うむ……ではな」


 そう言って、西の大手クラン【インサニア】の参謀兼序列2位――山井やまい拓人たくとは、八王子支部を出て行ったのだった。


「伊達殿」

「越田さん? どうしました?」

「今度、【大いなる鐘】の合同訓練があります。是非遊びに来てください」

「え、はい……わ、わかりました?」

「こちら、私の連絡先です」

「あ、ご丁寧にどうも」


 俺が越田から名刺を貰うと、周囲からどよめきの声があがった。

 越田の名刺を見た川奈さんが、興味津々な様子で言う。


「凄いですよ、伊達さん! 越田さんから名刺を貰う人なんて世界に何人いるか!」


 なるほど、そんなレベルの名刺を貰ってしまったのか。

 であれば、これは越田の策略という事になる。

 越田の笑みの奥に見える打算が、とても清々しい程だ。

 世界有数の名刺――つまる事の連絡先だ。

 俺はこの場で越田に連絡先を教えていない。

 つまり、越田は俺の連絡先を知らない訳だ。

 だが、世界有数の名刺というカードは、越田に対し強制的に連絡させるという効果がある。勿論、俺の世間体や善意を利用している事は明白だ。

 俺が越田に連絡しなければ、【大いなる鐘】の合同訓練の情報は得られない。この場にいる多くの八王子支部の人たちを証人とし、俺の逃げ場を塞ぎ、俺の連絡先を半強制的に得る。


「は、はははは……」


 苦笑する俺に、越田は胡散臭いようで、見る人が見ればとても爽やかな笑みを見せてくれた。

 なるほど、越田高幸……ダテに世界と渡り合ってはいないという事か。


「では伊達殿、ご連絡をお待ちしています。結莉ゆり、行こう」


 そう言って、越田は俺を横切って行った。

 後に続く水谷は、ニシシと笑った後、俺に言った。


「それじゃあ玖命クン、また今度ね」


 派遣所を出て行く二人に、俺は拍子抜けしてしまった。


「あの二人……いや、山井さんを入れると三人か」

「あの三人が……どうしたんです?」


 川奈さんの質問に、俺は呆れながら言った。


「本当に俺の鑑定結果を見に来ただけだったね」

「あ、あははは……で、でも、それだけ皆さん伊達さんの結果が気になってたって事ですよ」


 その鑑定結果も嘘に塗れてると知ったら……あの三人は怒るかなぁ。

 そう思いつつも、俺はすぐにかぶりを振って否定した。


「いや、あの三人なら更に喜びそうだ」


 川奈さんがキョトンと小首を傾げるも、俺はそれに反応する事は出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る