第70話 異例
「ランクアップです、川奈さん」
「ほぇ……?」
相田さんから笑みが零れ、ウチのチームメンバーから間の抜けた声が漏れた。
「今日から川奈さんはFランクです。おめでとうございます」
形式上の祝辞には見えない。
相田さんは、本当に川奈さんのランクアップを喜んでいるのだ。
「ほ……本当……ですか?」
「はい、日頃の頑張りが結果として出ましたね」
「本当の本当ですかっ!?」
立ち上がり、相田さんに肉薄する川奈さん。
「はい、おめでとうございます!」
相田さんの言葉に、川奈さんは一瞬固まった。
だが、次の瞬間――、
「や……やりましたよ伊達さんっ!」
「あ、ちょ!? か、川奈さんっ!?」
そう言って俺に抱き着いて来たのだ。
「やりました! やりましたぁ! まさかこんなに早くランクアップするなんて思ってもみませんでした! それもこれも皆、伊達さんのおかげですぅ!」
感情表現が豊かなのか、興奮しているのか、そのどちらもなのかはわからないが、川奈ららはFランクとなった。
これで、俺たちの討伐依頼もまた選択肢が広がる事になる。
「おめでとう、川奈さん」
「はい! はぃいいっ!」
涙と鼻水塗れになった川奈さんに苦笑していると、
「あ、伊達くん」
能面のような表情の相田さんが俺に言った。
「Eランクにランクアップです。おめでとうございます」
……あれ? 形式上の祝辞にしか見えない。
何だこの抑揚のない無機質な祝辞は?
いや、それよりも今、相田さん「ランクアップ」って言わなかったか? 誰が? ……俺?
「え、えぇ!? ほ、本当ですか!?」
「本当ですー。おめでとうございますー」
祝いの気持ちがこれっぽっちも感じられないが、どうやら俺はランクアップしたらしい。
「お……おぉおおおおお!! あ、ありがとうございますっ!!」
叫ぶようにそう言いながら、俺は相田さんの手をとった。
「ちょ、ちょ!? 伊達くんっ!? こ、ここでそういうのはちょっと!?」
「何を言ってるんですか! いつも相田さんにはお世話になってるんです! お礼くらい言わせてくださいっ!」
「わ、わかった! わかったからちょっと!? ち、近いよ? 伊達くん……っ?」
そうか、俺もついにEランクか。
Eランクになれば、報酬も上がるし、依頼の幅も更に広がる。
相田さんには本当に感謝である。
「相田さん、風邪ですか? 顔が赤いですよ」
「うん、それには理由があるっていうか、その理由がコレっていうか……うん……」
俺が首を傾げていると、俺の腰に抱き着いている川奈さんが口を尖らせる。
「酷いです伊達さん……そこはチームメンバーと喜びを分かち合うべきなんじゃないんですかぁ? ぶーぶー!」
なるほど、確かにそれもそうだ。
俺は川奈さんの手を取り、未だ残る喜びを伝えた。
「川奈さんにも感謝だよ! 本当にありがとう!」
事実、川奈さんがいなければ、受けられない依頼が沢山あった。
【騎士】という天恵は、チームを安定させる壁役として多くの民間人にも伝わっている。依頼は民間から来る事がほとんどである。ならば、【騎士】持ちの川奈さんの功績は非常に大きい。
「えへへへ~、チームの勝利ですね! ぶい!」
川奈さんのVサインに応じ、俺もVサインを返しニカリと笑う。
しかし気になる。俺は相田さんに向き直って聞いてみた。
「でも、川奈さんはともかく、俺はちょっと早くないですか? 依頼消化は川奈さんと同じくらいですよね? ランクが上がる度に必要依頼消化回数が増えていくみたいな話もある中、どうしてこんなに早く――ん?」
相田さんが渋い顔をしている。
「あのね伊達くん」
「はい?」
「確かに伊達くんは依頼消化自体は川奈さんと同じくらいだよ?」
一緒にチームを組んでるんだから、当然と言えば当然だが。
「でもね、伊達くんは依頼以外の方がモンスターを倒してるし、【はぐれ】の天才だって捕まえちゃうし、Eランクの天才だって倒しちゃうし、Dランクのサハギンをこれでもかって程倒してるんだよ?」
確かに……赤鬼エティンも本来は俺への依頼ではない。あの時の依頼はインプの間引き依頼だったか。それに、近衛や宇戸田たちの一件もそうだし、サハギンなんて完全にプライベートな時である。
「あー……なるほど?」
「これだけの実績を残して、ランクが上がらない方がおかしいの。まぁそれでも異例のスピードだけどね」
そう言うと、相田さんは周囲を気にした後、俺に手招きをした。
この距離で手招きって事は……内緒話か。
そう判断し、俺は相田さんに片耳を近付けた。
「……実はね、赤鬼エティンを倒した段階で、ランクアップの話は出てたの」
「へ? そうなんですか?」
「でも、鑑定課が止めたのよ。まだ伊達くんの再鑑定が終わってないからって」
「なるほど、そういう裏事情が……って、話していいんですか、それ?」
「別に話しちゃいけないなんて指示は受けてませんから」
そういう問題なのだろうか。
「でも、人目をはばかる話だと思うので……」
そう言ってから、相田さんはパソコンを操作し始めた。
「ところで、二人の昇格……このタイミングで、面白い依頼がきたんだけど、どう? やってみない?」
相田さんが面白いと言うのだ。
きっと俺たちに合う依頼に違いない。
そう思い、俺と川奈さんは顔を見合わせ、頷く。
「「是非っ!」」
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