第63話 ◆乙女のToKW

 夕食を用意し、いつでも食べられる状況の中、伊達みことは食事にラップをかけた。

 玖命から『帰宅が21時近くなる』と連絡が入ったからである。


「お父さんも今日は遅くなるって言ってたし……」


 そう呟き、みことは自分の部屋に向かう。

 兄の帰りを待つ間、予習でもしようと思ったのだ。

 勉強机の椅子に腰かけ、参考書を開くものの、勉強に身が入らない。

 当然、それは昼間の出来事にあった。


(あんなお兄ちゃん……初めて見た……)


 全身全霊をかけて自分や友人を守った兄、玖命の姿を思い出し、机に伏す。


「ん~~~~……ダメ、集中出来ないっ」


 そう言って背を伸ばし、椅子から立ち上がる。

 命はベッドにダイブし、枕を抱きかかえるようにしてスマホを覗く。

 そこにはメッセージの着信を知らせるアイコンがあった。


「誰だろ? お兄ちゃんかな?」


 スマホを開き、ToKWトゥーカウを起動するみこと

 最近作ったToKWトゥーカウ内のグループトークに、いくつかのメッセージが届いている。

 そのグループトークには 桐谷きりたに明日香あすか山下やましたれい……そして、みことが参加している。


「明日香と玲から?」


 家に戻ってから、友人との連絡をとっていなかったみことは、気になってメッセージを開いてみた。

 そこには、こう書かれていたのだ。


 明日丸――命、あれから大丈夫だった?

 0玲0――とりあえず、私たちは無事に家に帰れたよ!

 明日丸――お兄さんと一緒なら大丈夫だと思うけど、心配だから返事して。

 0玲0―― (* ˘꒳˘)⁾⁾ウンウン


「わっ、き、気付かなかったっ!」


 強心臓――ごめん!帰ってからずっと夕飯作ってた!

 明日丸――みことぉおおおお!!

 0玲0――おかえりぃいいい!!

 強心臓――もうちゃんと家だよ。心配かけてごめん!

 0玲0――てことはお兄さんも一緒!?

 強心臓――ううん。でももうすぐ帰って来るって連絡あったよ!

 明日丸――そっかー!でも何で命は引き止められちゃったの?

 0玲0――そうそう!私も気になってた!

 強心臓――あーあれね…。実は、天才の身内は、有事の際、救助が最後になっちゃうの

 明日丸――マ?

 0玲0――あ、でもそれって聞いた事ある。消防とか自衛隊とかそうだって聞くよね。

 明日丸――うーわ。それで死んじゃったらどうすんの……

 強心臓――うーん……まぁ、そういう事になるんじゃないかな……。

 0玲0――そういえば、馬淵くんとヨッシーに連絡とれたよ

 明日丸――は?あの2人、私の連絡は無視かよ!

 0玲0――明日香は2人が先に逃げた事、絶対怒るでしょ?だから私なんでしょ

 明日丸――怒るとかそれ以前に呆れたよね

 0玲0――そう?私は怒ったよ?

 明日丸――怒っとんのかーい!

 0玲0――私たちを置いてった事は反省してるみたいだから許したけど、もう卒業まで関わる事はないかもなー

 明日丸――あの2人、グレムリンに襲われなかったの?

 0玲0――馬淵くんが足、ヨッシーが腕を噛まれたって

 強心臓――無事なの!?

 0玲0――病院らしいけど、連絡返せるって事は大丈夫じゃないかな?大した事ないって言ってたし

 強心臓――そう。ならよかった。

 明日丸――言っとくけど、私は許してないんだからね!

 0玲0――まあその気持ちはわかるよ

 明日丸――それにひきかえ、命のお兄さんはちょーカッコよかった!!

 0玲0――そう!それ!ホント凄かった!


「……昼間はあれだけ『普通だー』とか、『二人目のお兄さんがいるんじゃないかー』とか言ってたような?」


 明日丸――命の言い分がよくわかった。あの人はイイ。めっちゃイイ!

 0玲0――はい!命さん!

 強心臓――なに?

 0玲0――お兄さんに彼女っているの!?

 強心臓――いないけど

 明日丸――おぉ!!

 0玲0――おぉおお!!

 強心臓――候補はいっぱいいるよ

 明日丸――どういう事なの……

 0玲0――お兄さんってもしかしてジゴロってやつ?

 強心臓――たぶんだけど、お兄ちゃんの事気になってる人は結構いると思う

 明日丸――そういう事かー

 0玲0――ライバル多し!

 強心臓――なに?狙ってるの?お兄ちゃん、彼女なんていた事ないから大変だと思うよ?

 明日丸――彼氏もいた事がない命が何を言ってるの?

 0玲0――彼女になったら何が大変なのか、本当に理解してるの?


「くっ、調子にのっちゃって……」


 強心臓――明日香と玲がお兄ちゃんに何て言ってたか、どう伝えるかは、私の一存で決まるって事を忘れないように

 0玲0――命様!お慈悲を!!

 明日丸――命、あなた……こんなに成長しちゃって……!

 0玲0――最初はスタンプすら使えない子だったのに!

 明日丸――お兄ちゃんに教えてあげるの!って頑張って覚えてたのに!


「……むぅ、2対1じゃ分が悪い」


 すると、グループトークの投稿が止まる。


「あれ? いつもならここから明日香のエンジンがかかるのに? ……おかしい、何で個別に?」


 そう、命に対し、明日香、玲から個別に連絡が届いたのだ。


 明日丸――みことぉおお!


「嫌な予感がする……」


 強心臓――何?

 明日丸――よかったら、お兄さんの連絡先を教えて欲しいんだけど、ダメ?


「むぅ、やっぱり。なら玲も?」


 0玲0――命さん命さん!

 強心臓――……何?

 0玲0――私の連絡先をお兄さんに教えて欲しいなって。出来れば、直接お礼をしたいから。


「……こ、こいつら……!」


 調子のいい事を言ってくる2人の友人に、呆れと苛立ちを覚える命。

 すると、玄関のドアが閉まる音が聞こえた。

 気付けば、時刻は20時半。


『だだいまー』


 そんな兄の声に、命はベッドからガバッと起き上がり、慌てて玄関へと向かう。

 そこには、昼見た時より更に疲れた様子の玖命の姿があった。


「お兄ちゃん……」


 直後、命は目を丸くする。


「昼間は申し訳ありませんでしたぁあああっ!!!!」


 そんなジャンピング土下座が、伊達家の玄関にキマるのだった。

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