第61話 山井への礼
「ほっほっほ、いや助かったぞ
「はぁ……?」
まさか道案内を頼まれるとは思わなかった。
立川の
だから、俺は山井に連れられ、タクシーで新宿までやって来た訳だ。新宿駅で降りると、俺は山井に聞いた。
「それで、どこに行きたいんですか?」
「【大いなる鐘】の越田に会いに来たんじゃ」
「は?」
この人は一体何を言ってるのか。
というか、【大いなる鐘】に何の用なんだ、この人。
「何、クランの事務所まで
「はぁ……それなら……まぁ」
確か、【大いなる鐘】の事務所は都庁付近にあったような。
まぁ、スマホで調べればすぐにわかるだろう。
「ところで玖命、お主、ランクは?」
「Fですけど……それが何か?」
「F? お主が? あのサハギンの捌き方……どう見てもBランクは固いと思ったのだが……そうか、Fか。儂の目も衰えたかのう」
まぁ、天恵の事は話せないしな。
申し訳ないが、そういう事にしておいてもらおう。
そういえば、山井は俺の戦闘を見たのか?
あの時、俺はファイアウォールを使っていたが、そこまでは見ていなかったのか? 魔法について触れないという事は、そういう事なのか?
都庁を通り過ぎ、五丁目方面へ歩く。
すると、やたらギラギラした建物を発見した。
「こりゃまたハイカラな建物じゃな」
目を見開いて驚く、山井の隣で、俺もまた驚いていた。
俺の知識で語れる事はない。ギラギラに輝いていて、落ち着くところは落ち着いていて、入る前に自分の衣服を確認してしまう程には……俺には場違いな場所な気がする。
これが【大いなる鐘】の本拠地……水谷が所属するクランの
凄いな、天才2人が出入り口を警護してる。
どちらも見た顔だ。確か2人共Cランクの強者。
Cランクが門番って、一体どんな
「さ、行こうかの」
山井が一歩踏み出し、出入り口を通ろうとした。
――が、
「「お待ちください、
その台詞、揃う事なんてある?
しかも、門番が聞くものなのか?
普通なら、受付で聞かれるものなんじゃなかろうか。
まぁ、こちらには山井がいる。問題なく通れるだろう。
「ない」
何を言っているのか、このご老人は。
「越田高幸殿に話がある。取り次ぎを頼む」
「「
普段、この二人はどんな訓練を積んでいるのだろうか。
「インサニアの山井拓人じゃ。越田殿に取り次ぎを頼む」
直後、【インサニア】と山井拓人の名に驚きを見せる門番たち。
確かに、この名を聞いて驚かない訳がない。
むしろ、ここで彼を追い返せば、彼らの失態になってしまいかねない。さて、どうなる?
「「…………
タメまで揃うとかある?
しかし、流石は【大いなる鐘】の門番たち。
たとえ山井が来たとしても、彼らは彼らの規則を守るのが絶対なのだろう。
「……ふむ、ならば仕方ないのう」
そう言って、山井は俺に向き直った。
「別の手を考えるか」
「というと?」
「玖命、お主【大いなる鐘】に知り合いはおらなんだか?」
「別の手が安直過ぎるんじゃないですかね?」
「ケチケチするでない。東京で生きているんじゃろ? 知り合いの一人や二人いるじゃろうに」
「い、いや……確かに一人だけいるんですが……」
「何じゃ? 訳アリか?」
「出来るだけ借りを作りたくない相手というか……」
「ほほほほ、玖命はそういう星の下に生まれたという事じゃな。安心せい。既に儂への借りは
なるほど、山井への貸しと考えると、水谷に借りを作るのは悪くない……のか?
「まぁ、一応聞くだけ聞いてみますけど、越田さんに会えるっていう保証はないですからね」
「うむ、それで異論はない」
そう言われ、俺は水谷への連絡を請け負うのだった。
電話を掛ける事……数コール。
『玖命クンっ!? どうしたのどうしたのっ?』
やたら元気だな、この人。
「えーっと……実はお願いしたい事がありまして」
『玖命クンが……私にお願い? 一体どんな無理難題を押し付ける気なのっ?』
「一体何でそういう発想が出てくるんですかね? 後、何か嬉しそうなのは気のせいでしょうか?」
『今の
「実はですね、今、【大いなる鐘】の事務所前にいまして」
すると、水谷は俺が言い切る前に口を挟んで来た。
『何? 玖命クン、もしかして【
「急に嫌そうになりましたね」
『事実、嫌だからね』
そうハッキリ言われると傷つく。
『キミにはもっと大きいところで自由に羽ばたいてもらいたいんだよ、私は』
そうハッキリ言われると照れる。
だが、水谷はそんな風に思っててくれたのか。
意外だが……ふむ、悪くない。
「あぁ、えーっと……そうじゃなくて、【大いなる鐘】の越田さんに会いたいって人がいて、水谷さんに取次をお願いしたいなーと思いまして」
『高幸に? 誰?』
「【インサニア】の山井拓人さんです」
直後、水谷は何も言わずに電話を切ったのだった。
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