第60話 剣の主
ようやく
Dランクモンスター――サハギンか。
ゴブリン、ホブゴブリンなんかとは比べ物にならない程、硬い表皮をしていた。
魔法剣がなければ、もう少し手こずっていただろうが、赤鬼エティンの時と比べると、少し余裕があった気がする。
でも、同じ天才の川奈さん以外――
「あれが……人を守るという事か」
絶対に映画館には行かせてはならないという覚悟があった。
抜かれてしまうかという不安もあった。
こんなにも大変な状況に
天才とはこんなにも大変な職業だったのか。
「ふぅ……」
しかし、【回復術士】の回復魔法がこんなにも優秀だとは思わなかった。戦闘系の天恵を持ち、回復魔法を使えるというのは大きなアドバンテージだ。
最下位の天恵でこれだけ回復出来るという事は、強敵と戦った時、継戦能力も、生存確率も高くなる。
いいな。確実に強くなっている。
【探究】の力はまだまだ不明な点が多いものの、使わない手はない。
というか、俺にはそれしか選択肢がないんだ。
なら、精一杯その道を歩くしかない。
倒したサハギンたちを横切り、徐々に駅へ近付く。
駅の改札付近まで行くと、今回のモンスターパレードが何故起こったのか理解出来た。
「……なるほど、そういう事か」
そこからモンスターが現れれば、当然多くの人々がモンスターを目にする。一気に緊張状態になった人々はパニックになり、サハギンもそれに呼応してしまった。
ふむ、どうやら、既に
サハギンももういないようだし、他の天才も話をしているくらいだ。
「……ここに立っておけば目立つかな?」
俺は
流石にこの剣を持っていれば、持ち主が俺の事を見つけてくれるだろう。まぁ、死んでなければの話だが。
でも、サハギンを吹き飛ばしてたし、剣撃は鋭かった。
あれ程の実力者が、サハギンを前に死ぬとは思えない。
なら、おそらく生きているはず――。
「ん?」
どうやら
中から二人……いや、三人が出て来る。
どれも見た事のない顔だ。
まだ
Cランク以上の天才はある程度頭に入ってるはず。
だが、三人とも見覚えがないとはこれいかに?
「ん?」
すると、老獪そうな男が俺に近付いて来た。
白い髭を蓄え、鋭い眼光をし、新選組を
…………ん? 達人?
「なんじゃ若造、生きとったんか」
「えっと……あなたは?」
「その剣の主……と言えば、わかるかの?」
「おぉ、あなたが俺に剣をっ!? ありがとうございます、助かりました!」
そう言って俺は、待っている間に磨いておいた剣を渡し、頭を下げた。
「何、将来有望な若者を死なす訳にはいかんかったからの」
剣を受け取った翁は、ニカリと笑った。
「えっと、それで貴方は……?」
「拓人……
「山井……拓人……!? 山井拓人っ!? 山井拓人ってもしかして西の【インサニア】のっ!?」
「ほっほっほ、確かに儂ゃインサニアの山井だな。ほっほっほっほ」
知らないはずだ。
北の【ポ
東の【大いなる鐘】。
そして、西の【インサニア】。
日本にある三大クランの一つで、他のクランと大きく違うのは、その在り方にある。
最強のカリスマ、
「自然のままに」と、心優しき癒しキャラ
だが、【インサニア】は違う。
武力――圧倒的武力による力の支配。
力がなければ発言権すら与えられない天才集団。
それがインサニアであり、その中で「理知的? なのかもしれない?」と称されるのが、この天才……
「インサニアのトップ【
「ほっほっほ、博識じゃな。
「まさか関東にいらっしゃってたとは」
「何、お上に呼ばれてな」
という事は国からの招集?
もしかしてダンジョン侵入ランクの見直しに関するあの件?
有識者という観点から呼ばれたのであれば、山井拓人は納得だ。
彼は最初期の天才。世界に天才が現れ始めた時、何の法整備も協力体制も整わない中、先陣を切って駆け続けた天才の第一人者。
メディアには出ず、名前だけが世を渡り、耳に入る。
世界への貢献度で言えば、日本一とすら言える大人物。
「お主、名は?」
「あ、伊達玖命です」
「よし、では玖命。剣の礼をせい」
「礼? というと?」
間接的にだが、俺の命も、
無茶ぶりだったらどうしよう。
内心、ちょっとビビってる俺だった。
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