第58話 ◆ギアチェンジ
窓越しに見える玖命に、
何も持たずに戦場へ向かった玖命は、どこからか剣を調達し、それを使って、群れるサハギンを斬り裂いている。
その不可解な現実以上の光景が今、三人の目の前で繰り広げられていた。
「な、何あの動き……!?
「動画で見た時より更に速くなってるんじゃ!? ううん、明らかに速くなってるよっ!」
目にも止まらぬ玖命の動きに驚きを見せる明日香と玲。
(何……? あれが……私のお兄ちゃん……? あんな顔、あんな動き……見た事ない……)
「うっそ、今あの人魔法使ったよ!?」
「な、何で? 剣であんなに動ける人が……何で魔法を使えるの……?」
「ま、まずいよ
「ど、どうしよう……!」
震え、恐怖する二人の視線の先。
恐ろしい形相の
だが――、
「そっちに行くんじゃ……ない!」
玖命はサハギンの死体を蹴り、その亡骸を映画館に向かう3体に当てた。ダメージこそないものの、その衝撃で稼いだ数秒が、玖命を出入り口の前に立たせた。
「……ここに、入れさせる訳にはいかないんだよ」
再び剣を構え、【聖騎士】によるヘイト集め。
「ダメ、ダメだよ……あんな数……死んじゃう……」
「うぅ……うぅう……お母さん……」
そんな恐怖の中、ただ
玖命が噛まれ、傷つき、血を流そうとも、その目を逸らす事など出来なかった。
「お兄ちゃん……!」
願いの如き
「ウォォオオオオオオオオオッ!!!!」
その咆哮は窓をりんと鳴らし、サハギンの行動すら一瞬止めた。
玖命が何度も怪我していた理由、何度も入退院した理由、その詳細を説明しなかった理由。
自分が愛する家族に、自分を愛する家族に知られる訳にはいかなかったのだ。
玖命がどれだけ過酷な環境に置かれ、どれだけ精一杯生き、どれだけ命を賭したのか。
(こんな事……言えるはずない……)
――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度5.3%。天恵【聖騎士】の解析度1.1%。天恵【武将】の解析度5.9%。天恵【戦士】の解析度88%。天恵【弓士】の解析度63%。天恵【魔法士】の解析度79%。天恵【回復術士】の解析度60%。天恵【腕力B】の解析度53%。天恵【頑強C】の解析度62%。天恵【威嚇E】の解析度71%。天恵【脚力E】の解析度89%。天恵【魔力E】の解析度12%。
「傷が……消えてる……?」
驚く
それは、【回復術士】を得た事による玖命の特性。
たとえ傷付こうとも、玖命は戦いながら自身を回復し、継戦出来る能力を得た。それが天才にとって、どれ程恵まれているのか。天恵を知っている者からすれば、その価値は計り知れない。
玖命は、誰にも成し得られなかった玖命だけの道を見出したのだ。
――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度5.6%。天恵【聖騎士】の解析度1.4%。天恵【武将】の解析度8.0%。天恵【戦士】の解析度100%。天恵【弓士】の解析度87%。天恵【魔法士】の解析度100%。天恵【回復術士】の解析度78%。天恵【腕力B】の解析度56%。天恵【頑強C】の解析度70%。天恵【威嚇E】の解析度77%。天恵【脚力E】の解析度93%。天恵【魔力E】の解析度24%。
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【上級戦士】を取得しました。
――天恵【魔導士】を取得しました。
瞬間、玖命の動きが変わった。
「「……ぇ?」」
涙を流し、震えていた玲と明日香が微かな驚きを見せたのだ。
眼下で繰り広げられる戦闘は……いつの間にか終わりを迎えていた。
止めどなく溢れていたはずの群れは、一刀のもとに斬り伏せられている。
サハギンの切断面には、黒い焦げ痕。
何もいなくなった映画館の入り口前。
玖命はブツブツと呟き、一度だけ剣を素振りした。
そして、正眼に構え、静かに……深く呼吸した。
「そうか……今みたいにやれば、魔法を剣に
サハギンは、まだ駅の方からやって来る。
しかし玖命は、そのことごとくを一瞬にして倒し、その度に剣の威力を増していくのだった。
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