第57話 ◆押し寄せるサハギン

「そっちに……行くんじゃねぇ!」


 玖命がトライデントを投げ、サハギンの後頭部を貫く。

 玖命が構築した炎の壁を抜け、その目を掻い潜られる事が、玖命にとって何よりのストレスだった。

 だからこそ、次の一手は苦渋の決断だった。


「できれば使いたくないが仕方ない……か! 来いっ!!」


【上級騎士】のヘイト稼ぎを使い、正面にいる全てのサハギンの注目を集める玖命。

 これにより、サハギンに異変が起きる。


「「カカカカカッ!!」」

「くっ、やっぱりそうなるか……!」


 炎の壁により限定していたルート。

 それはサハギンが炎に当たるのを避ける前提のルートだった。

 しかし、ヘイト稼ぎを使ってしまうと、炎の壁を突っ切ってくるのだ。

 一瞬の火傷は、サハギンにとって致命傷ではない。

 それは、玖命のファイアボールが証明している。

 だからこそ、玖命はヘイト稼ぎをためらっていた。

 だが、映画館に近付く今、それを気にしている余裕は玖命にはなかった。

 大波の如くサハギンが玖命に向かう。


「くそくそくそくそっ! 1体1体はそこまで強くないが……ここまで多いと……!」


 直後、玖命の前方で7体のサハギンが弾け飛んだ。

 その威にサハギンが硬直してしまう。

 それを好機と捉えたか、玖命は全力で正面のサハギンたちを振り払った。


「ハァアアアアアアアアアッ!!」


 吹き飛ぶサハギンが、壁にぶつかる前に切断される。


(……今のは?)


 玖命が疑問を浮かべる中、再び奥に見えたサハギンが弾け飛んだ。

 それを見た玖命はハッと気付く。


(援軍? まさかこんなに早く……?)


 そう思った瞬間、玖命の足下に一本の剣が突き刺さった。


「こ、これはっ!?」


 それが何を意味するのか、玖命にはすぐにわかった。

 玖命はすぐに剣を取り、周囲のサハギンに対処した。


(援軍が来た。それは確実だ。しかも、俺が武器を所持していない事に気付いている。だから剣だけを届けたのだ。つまり、援軍は俺のところに来られない。理由はおそらく、駅の反対出口……! という事は……)


 剣を振るう玖命が後退し、息を整える。


「す~……ふぅ……こっちは俺一人って事か……!」


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度5.1%。天恵【上級騎士】の解析度100%。天恵【武将】の解析度4.7%。天恵【戦士】の解析度69%。天恵【弓士】の解析度45%。天恵【魔法士】の解析度61%。天恵【回復術士】の解析度41%。天恵【腕力B】の解析度41%。天恵【頑強C】の解析度55%。天恵【威嚇E】の解析度62%。天恵【脚力E】の解析度72%。天恵【魔力F】の解析度100%。

 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【聖騎士】を取得しました。

 ――天恵【魔力E】を取得しました。


「流石、Dランク……成長が早くて助かる……」


 無数に群がるサハギンを前に、玖命は再びヘイト稼ぎを発動した。


「来いっ!!」


【聖騎士】へと成長した天恵は、ヘイト稼ぎも成長する。

 不確定だった能力減少が確定へと変わるのだ。

 更に、聖騎士の天恵により更なる力と強度を得る。

 湧き上がる力に、玖命の瞳が光る。


「これなら……いける!」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 映画館の中では、伊達みこと、桐谷明日香、山下玲が連携し、スタッフの協力の下、最上階に客を集めていた。

 これは、みことが相田からもらった指示によるものだ。

 落ち着きを取り戻した明日香がみことに聞く。


「でも、何でみことのお兄さん、この映画館に留まるように言ったのかな? 逃げられた人も結構いるみたいだけど……」

「私も気になって、さっき相田さんに聞いたんだけど、モンスターパレードの時は、空を飛ぶモンスターも現れる事があるから、屋根のある建物の中で一カ所に固まるのが最善らしいの」


 すると、玲が窓から空を見上げる。


「でも、空には何もいないみたいだよ? 今ならもしかして――」


 玲がそう零した直後、一カ所に集められた客からざわつきが見られた。三人は顔を見合わせ、ざわつきの中心へと向かう。

 すると、一人のサラリーマン風の男がスマホを持ち、その動画に目を奪われている。

 周りの客たちも同様の動画を見ているようだ。

 明日香が一人の客にスマホを貸してもらい、それを覗くと、口を押さえて絶句する。

 両サイドからみこと、明日香が動画を覗く。

 するとそこには、空からグレムリンが現れ、立川南を逃げ惑う人間を襲っていたのだ。


「こ、これって馬淵くんたちが向かった方だよね……?」

「ぶ、無事だよね? ね、みこと……?」


 明日香と玲が心配そうな眼差しを送る中、みことはただ口を押さえ固まっていた。


(お兄ちゃんの言う通りにしなかったら……私、今頃……!)


 身震いする身体を抱え、みことは改めて恐怖を実感した。

 直後、皆の耳に大きな金属音が届いた。

 それが、外から聞こえたものだという事は、誰にでも理解出来た。

 再び窓まで走った三人は、映画館の外を見た。

 そこには、無数のモンスターに囲まれながらも奮戦する、伊達玖命の姿があったのだった。

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