第56話 守る玖命

 俺は、通り過ぎる悲鳴を横切り、駅に向かった。

 駅の方には、何体かのモンスターが見えていた。


「痛い……痛いぃいい……!?」

「放せ放せぇぁああああああああああああああああああああああああ!?!? や、やめ……ぉぐ!?」


 既に犠牲が出ている。駅の監視カメラから天才派遣所に自動で連絡はいってるはずだが、みことからの連絡も合わせて必要だろう。

 連絡はあればあるだけいい。

 情報をまとめ、天才に割り振る。

 それが天才派遣所の仕事なのだから。


サハギン、、、、……か」


 緑色の体表をした二足歩行の高い知能を持った半魚人。

 トライデントを持ち、魚よりかはトカゲのような見た目をしているDランクのモンスター。

 ……しかし参ったな。


「……今日は俺、丸腰なんだよなぁ」


 そう、俺はみことと買い物をするために立川にやって来た。俺の武器や防具は全て自宅にあり、今戦う手段は……【はぐれ】の天才と戦った時に深田響から得た【魔法士】の天恵のみ。

 つまり、魔法だけでサハギンと戦えと?

 あっという間に魔力が尽きそうだが、どうすればいいものか……ん? あれは……?

 俺はサハギンが持つトライデントに注目した。

 サハギンは中学生ほどの体躯。

 大人の俺には少し小さいが、アレを拝借すれば何とか戦いにはなる、か。


 既に喧噪が聞こえなくなるくらいには避難が進んだようだ。

 これなら、映画館まで被害が及ぶ事はないだろう。

 首を鳴らし、肩を回す。今日はもう戦闘の予定なんかなかったのに。

 自分の仕事を呪いながらも、俺は進行するサハギンの群れを迎え撃つ。


「さぁ、始めよう……!」


 ――【探究】を開始します。


「「カッカッカッカッカッ!」」


 サハギン……初めて戦うが、とりあえず気持ち悪い。

 それに、めちゃくちゃ変な鳴き声だな。

 息を精一杯吐いてる……そんな感じの鳴き声。


「ファイアウォール」


 初手、駆け始めたサハギンの前に炎の壁を出現させた。

 これにより、サハギンの侵攻ルートが制限される。

 それはつまり、俺が限定したルートをサハギンが通るという事だ。

 そこに目掛けて、


「ファイアボール!」

「カッハッ!?」


 魔法を放ってやれば、確実にダメージを与える事が出来る。

 しかし、サハギンはDランク。

 対して俺の【魔法士】は最下級の天恵。【魔力F】で補っているとはいえ、一発でサハギンを倒す事など出来ない。


「ファイアボール!」

「カッハ!? ……カカカカッ!」


 くそ、まだ生きてるのか!?


「ファイアボール!!」

「ッ!? …………」


 ようやく絶命した……のか?

 いや、【探究】が反応していない。

 だが、ピクリとも動かないぞ?

 そんな事など考える余裕もなく、次々と炎の壁を超えてくるサハギンが現れた。

 俺はすぐにサハギンが持つトライデントを一本持ち、後退しながら奴らと戦った。


「カカカッ!?」

「カッハッハッ!?」


 倒している……倒しているはずなのに、【探究】が反応しない?


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度4.7%。天恵【上級騎士】の解析度81%。天恵【武将】の解析度1.9%。天恵【戦士】の解析度11%。天恵【弓士】の解析度13%。天恵【魔法士】の解析度16%。天恵【回復術士】の解析度10%。天恵【腕力B】の解析度26%。天恵【頑強C】の解析度35%。天恵【威嚇E】の解析度45%。天恵【脚力E】の解析度46%。天恵【魔力F】の解析度70%。


 いや、進捗情報が出たという事は……もしかして?

 俺はトライデントを振り回し、確実にサハギンの数を削っていった。


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度4.8%。天恵【上級騎士】の解析度84%。天恵【武将】の解析度2.5%。天恵【戦士】の解析度21%。天恵【弓士】の解析度23%。天恵【魔法士】の解析度30%。天恵【回復術士】の解析度16%。天恵【腕力B】の解析度28%。天恵【頑強C】の解析度36%。天恵【威嚇E】の解析度49%。天恵【脚力E】の解析度50%。天恵【魔力F】の解析度76%。


「やっぱりそうか!」


 三匹のサハギンを倒したのに対し、【剣聖】の解析上昇はたったの0.1%。だが、同じ3段階目の天恵【武将】は0.6%上がった。

 つまり、サハギンは俺が保有している天恵を所持している。

 それすなわち――【足軽】。

 同系の天恵持ちを倒せば、その天恵がたとえ上級の天恵でも解析度の上昇率が高いという事。

 なるほどな、一瞬焦ったが、そういう事もあるという事か。


「それにしてもこいつら……数が多いな」


 Dランクのモンスターは、そもそも本来の俺が相手出来るレベルではない。本当ならCランクの天才がチームを組んで事にあたるべき相手だ。それがモンスターパレードなら尚更。

 安全マージンを考えるのであればBランクパーティでもいいかもしれない。

 そんなレベルのモンスター相手に、俺一人でどうにか出来るのか……?

 立川は比較的八王子に近いが、車であれば30分、電車でも20分近くかかる。水谷クラスなら走れば電車の速度を上回れるが、援軍を待つにしてもこの状況じゃ……かなり厳しいな。


「ハァッ! くっ、このっ! フンッ!」


 くそ、トライデントもすぐにひしゃげてしまう。

 Dランクの相手にこれだけでは心もとない。

 せめて【拳士】の天恵でもあれば、楽に戦えるのに……!


「フ、ファイアボール!」

「カカカカッ!」

「くっ、笑ってんのか鳴いてるのかわからないんだよ! ファイアボールッ!!」


 後退、後退、1体のサハギンを倒すのに数メートルは後退している。このままじゃ――、


「……まずい」


 トライデントを持ち回転しながら薙ぎ払った時、俺は視界に捉えてしまった。

 ――先程、離れたばかりの映画館を。


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