第55話 ◆妹を取り巻く環境4
活発な明日香と、真面目な玲の間に
何でもよく話し、何でも笑い合える
そんな友人明日香が、
こうする事によって男は会話に入れず、会話の聞き耳すら立てられない状況に追い込まれる。
明日香はそれを知ってか知らずか、行動で示した。
玖命が困り顔を浮かべようが、今の三人にはどうでもいい事だった。
「あれが
明日香の問いに、玲がうんうんと頷く。
すると、明日香は確認するようにもう一度聞いた。
「
明日香の追及のような問いに、玲がうんうんうんうんと頷く。
「わぁ!? ちょ、ちょっといきなり何言い出すのよっ!?」
そんな
「二人目のお兄さんがいないかの確認だけど?」
「こういう確認って大事だと思うの」
そんな明日香と玲に、
「ん~……」
「う~ん……」
二人は振り返って玖命を覗く。
「どう見ても」
「普通……だよね?」
「カッコよく見えなくはないけど」
「カッコ悪くも見えるような?」
「イケメンになれない」
「フツメンみたいな?」
「「……う~ん」」
そんな二人のやり取りに、
「あのね、そういうんじゃないのよ、お兄ちゃんはっ」
「じゃあどういう事?」
「そこんところ詳しく聞きたいよね」
「な、内面的な強さというか、芯があるというか……まぁそういうのよ、うん」
「それじゃあ我々は納得できないのですよ、
「うんうん、今日だって明日香と一緒に馬淵くんとヨッシーを慰めてたんだから」
「そう、
そんな明日香の言い分に、
「な、何で私が明日香に感謝しなくちゃいけないのよっ」
「
「級友のヤケドリンクの付き合い、先輩からの相談、後輩からの密偵依頼」
「ちょっと、最後の何よ? それに、馬淵君とヨッシーのアフターサポートに何で映画なの?」
「そりゃ、まだ諦めてないから、
「映画を観れば話題が出来る。話題が出来れば
二人の言い分に、
そして気付くのだ。二人が今月どんな状況にあるのかを。
「明日香、今月遊び過ぎてもうお金ないとか言ってなかった?」
「へ?」
「玲、欲しかった本を買い過ぎて金欠気味とか言ってたよね?」
「わぁ!?」
「何で、二人は映画が観られたのかしら?」
「そ、それは……」
「馬淵くんたちの奢りというか……」
「なんというか……」
「
「あのね、私はともかく馬淵くんたちに悪いと思わないの?」
「い、いやちゃんと許可はもらったよ?」
「どうしてもって言うから……ね?」
明日香と玲の最後の言い訳に、
「……はぁ、まぁ筋を通してるならいいけど、人の気持ちを踏みにじるような事したら、いくら私でも怒るからね?」
そんな
そして、取り残された二人に目をやってから言う。
「それより、馬淵くんたちどうするの?」
明日香が聞く。
「
「それは同感なんだけど、どうするのよこの空気」
玲と明日香の言葉に、
「二人が今日ここに来るってわかってたら、私も時間ずらしたよ」
「「ご、ご
その直後、
「ん?」
三人の目の端で玖命が何かに反応した。
玖命の視線を追い
駅の方から何人かが走ってくるようだ。
信号に間に合うように急いで小走りになる。そんな様子とは違う全力の足。その奥から更に何人かが走って来るのだ。
先の人間同様、全速力で。
足音はやがて喧噪に、喧噪はやがて不安へと変わる。
玖命の横を何人も通り過ぎ、転び、しかし諦めず立ち上がってまた走って行く。
そして遂に、ソレが何なのか明らかとなる。
「モ……モ、モンスターパレードだぁあああああっ!!」
その瞬間、皆の不安は恐怖へと変貌する。
「「わぁああああああああああああああっ!?」」
悲鳴が悲鳴を呼び、駆けだす足音と切れた息が場を支配する。
前方からの怒号、後方からの苛立ちの声。我が身が惜しく駆け出す者に、モラルなどなかった。
この場で真っ先に逃げ出したのは、馬淵と吉田。
そんな二人を気に掛ける事など出来る訳もなく、三人の乙女は言葉を失っていた。
やがて見えるモンスターの姿。
「ひっ……」
玲が声を漏らすと同時、その視線を塞いだ者がいた。
「お兄ちゃん……」
玖命が不安と恐怖に震える玲の前に立ち、隣の明日香と
「落ち着いて。まずは慌てず、ゆっくりと映画館の中に入るんだ」
玖命は諭すように、子供にもわかるように静かに、しかし通る声で言った。
玖命の言葉を受け取った二人は、震えながらもコクコクと頷いた。
「
命もまた、コクンと頷く。
未だ震える玲と明日香の肩にポンと手を載せ、玖命が言う。
「明日香さん、玲さん」
「「は、はい!」」
不思議と、二人の震えが落ち着きを見せる。
「映画館はほとんど音を通さない。だから、まだこの事を知らない人が沢山いる。二人にはスタッフと協力して、出来るなら観客を一カ所に集めて欲しい。出入り口から逃げようとする人を頑張って抑えて欲しい。お願い出来るかな?」
再びコクコク頷く二人。
玖命は、最後に
「
「……ぅん、後でちゃんと……一緒に食べよ?」
そんな
向かう先は、誰の援護もない……確実なる地獄。
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