第二部
第51話 チームの成長
「川奈さん、そっち行ったよ!」
「はい! 任せてください! 【集合】ぉっ!」
ドンと大盾を構え、川奈さんがヘイト稼ぎでゴブリンを集める。
川奈さんは、まるで体育授業の先生かのようにゴブリンたちを集める。あの掛け声は悪くないが、違和感を覚えるが、川奈さんがいいのであればいいのだろう。
右にゴブリンが2体現れれば、そこに盾を構え、左から抜けて来るゴブリンをショートソードで刺す。
「やぁ!」
「ギィッ!?」
「川奈さん、ナイスです! ファイアボール!」
刀の先から放たれた炎の球が、的確にホブゴブリンの頭を狙う。
「ギャァアアッ!?」
ゴブリンたちが形成する縫い目のような細い道。
俺の【心眼】は正確にその道を捉え、沿い、
「さっすが伊達さんっ!」
シールドバッシュで押し出されたゴブリン二体に対し、俺は大腿部に着けたナイフを投げて仕留める。
そんな俺の背を通って、川奈さんが駆け抜ける。
俺の右手後方に迫るホブゴブリンに対し、大盾を構えながらの体当たり。
「やぁあああああっ!」
「「がぐぁ!?」」
ゴブリンたちが押し出される先に、
「ファイアピラー」
地面から噴き出る炎の柱。
川奈さんは、俺の合図を受け取ったのか、残りの力を使って更にゴブリンたちを押し出す。
「やぁあああああああ!!」
押し出す、押し出す……あ。
「「ギィアアアアアアアッ!?」」
ゴブリンたちの断末魔は、炎の柱より高く響き渡った。
「はぁはぁはぁ……やった! やりましたぁ!」
ぴょんと跳ね喜びを露わにする川奈さん。
「凄いですね、ショートソードのタイミングも完璧だし、ヘイト稼ぎ以外の立ち回りもバッチリでした」
「はい、何だか自然に身体が動いちゃって!」
いつの間にかゴールドクラスのショートソードまで持っていた川奈さん。
最初持って来た時は驚いてしまった。
だってあれ、中身はゴールドクラスなのに、装飾を含めるとプラチナクラスの値段になるような高級志向のショートソードだぞ。
「自然に動いたのであれば、それは本能に近い動きでしょうね。全てが正解とは言えないですけど、間違ってはいないのでいい傾向だと思います」
「そうですか! ん~、沢山予習して来た甲斐がありますっ!」
いい感じに成長している。【騎士】としても、チームとしても。【はぐれ】の天才、
「それにしても、この前の後遺症は本当にない? 大丈夫です?」
「はい! 大丈夫です! 入院した時は父にバレそうになりましたけど、未然に防げましたっ!」
病院から家族への電話を防ぐとは一体何をしたんだ、この子は。というか、俺の聞きたい事が聞けてないんだが?
「今回の間引きはこれくらいでしょうか?」
「え、あぁそうだね。モンスターの接近に注意しつつ解体だけ済ませて、今日はここであがろうか」
「へ? 午後の予定も空いてますし、伊達さんがよろしければまだまだ動けますよ、私?」
「あぁごめん。今日は妹と出掛けるんだよ」
だからこうして、昼前に川奈さんと管理区域Bの掃除依頼をこなしていたのだ。
「おぉ、
「デートっていうか、普通に買い物なんだけど」
「うんうん、兄妹デートですね」
彼女が何を言ってるのかわからないが、どうやら何をするかは伝わったようだ。
そもそも、兄妹で買い物に行ってデートと言うのだろうか?
「それじゃあ私は賃貸を見て回ろうかなー」
「おぉ、それじゃあやっぱり近くに住むんですか?」
川奈さんは、いつもバレないように都心から八王子支部まで来ている。こちら側へ引っ越して来るのなら、生活も安定し、俺たちのチーム活動も捗るだろう。
「はい! 伊達さんに電車を使うって案をもらって、色々調べてみたんです。生活に困らないように身の回りの準備とか、家具家電も見て回ってます」
「へぇ、忙しそうだけど、なんだか楽しそうだね」
「はい、部屋が見つかり次第引っ越すつもりです」
一人暮らし……か。いつかは俺もするのだろうか。
まぁ、今はそんな夢みたいな事、考える余裕もない、か。
しかし、川奈さんの事は少し気になる。
特に、川奈さんの親は、一人暮らしについてどう思っているのだろうか。
「それ、お父さんとかは……」
「勿論、知る訳ないですよ。バレたら絶対阻止されちゃいますし」
あっけらかんと言う川奈に、俺は、呆れつつも苦笑してしまった。
大手キャリア――KWNの社長か。
テレビで観た事があるけど、性格までは見えないからな。
一体どんな人なんだろう?
「引っ越しが終わったら……そ、その……伊達さんも遊びにいらしてください……ねっ?」
「遊び? あぁ、それじゃあ
大きな溜め息を吐き、川奈さんはやるせない様子で肩を落とした。
「はいはい、どうせそんな事だろうと思ってましたよー」
膨れる川奈さんに、俺は困り顔を浮かべる以外の選択肢を選べなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます