第49話 奴ら4

「はぁはぁはぁ……さ、流石にギリギリだった……」


 というか……まさか宇戸田が絡んでいたとはな。

 つまり近衛は宇戸田に雇われた【はぐれ】。

 だとすれば、近くに長谷川はせがわ一哲いっけい田中たなかごう深田ふかだひびきがいるはず。


「くっ……いてぇ……」


 俺は鈍痛が響く中、長谷川の下へ向かった。

【超集中】で確認した矢の軌道から、奴の居場所は簡単に特定できる。【弓士】は力と集中力が向上する天恵だから、足はそんなに速くない。

【魔法士】の深田も同じだが、やはり長谷川に逃げられるのが一番怖い。

 ……いた! ビルの室外機の上!


「なっ!? だ、伊達ぇ!」

五月蠅うるさい、吠えるな」

「ガッ!?」


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。

 ――成功。最高条件につき対象の天恵を取得。

 ――長谷川一哲の天恵【弓士】を取得しました。


 更に反対側には……【魔法士】の深田!


「ちょ、ちょっとやめてよ!」

「そうはいかない」

「こ、この、ファイアーボ――――ッ!?」


 うーむ、気絶させるにしてもちょっと罪悪感が……。


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。

 ――成功。最高条件につき対象の天恵を取得。

 ――深田響の天恵【魔法士】を取得しました。


 さぁ、最後は【回復術士】の田中たなかごうだけ。

 一体どこに……!?


「……うぅ」


【超集中】の影響か、微かに川奈さんの声を拾った気がした。


「っ! まさかっ!?」


 俺は来た道を戻った。

 身体の痛みなど忘れ、一目散に川奈さんの下へ向かったのだ。

 戦いの場に戻った俺は、川奈さんの首に手を回し、その首にナイフを突きつける田中の姿を見た。


「――ッ! 田中ぁああああああああっ!!」

「ヒッ、う、動くなよ! こいつの命がどうなってもいいのかっ!?」


 駆け寄る俺を、田中は川奈さんの命を使って止めた。

 くそ……田中は腐っても【回復術士】。

 このままじゃ――!


「へ、へへへ……う、動くんじゃないぞ? おい、おい宇戸田! 起きろこの雑魚っ!」


 気絶している宇戸田を蹴り、近衛の身体に近付く。

 そう、宇戸田を回復させるより、近衛を回復させた方が効率的。

 だが、近衛が回復すれば、勝利どころか川奈さんの命まで危うい。

 今の内に田中を倒さなければ……でも、どうすればいい?


「一体何なんだよお前! あの時に死んでりゃよかったんだよ! ことごとく俺たちの邪魔しやがって! 死んで詫びやがれっ!!」


 一歩、また一歩と近衛の身体に近付く田中。


「わかってるのか? これ以上の犯罪はお前自身を地獄に落とす事になるんだぞ……?」

「そんな言葉で俺が止まるとでも!? は! 近衛の野郎も使えねぇ奴だ! 高い金払ってまで雇ったってのによ! お前を殺す計画がパーだよ! なぁ!? 責任取って死んでくれやっ!!」


 ダメだ、奴は既に正気とは思えない。

 唾を巻き散らし、悪態を巻き散らしながら歩を進める田中。

 ま、まずい……もう近衛まで距離が――、


「よーし、そのままだぞ? さぁ近衛、しっかり役目を果たして……伊達を殺せぇええっ!!」


 一か八か、動くしかない――!

 すると、田中の背から声が聞こえたのだ。

【超集中】で聞き取れるだけの小さな声が。


「よーし、玖命クン、、、、……証拠も証言も揃った、、、、、、、、、。後はサクっとやってしまうといい……よっ!」


 その掛け声と同時、


「あっつ!?」


 小さな石が田中の左手を襲った。

 なるほど……そういう事か……!

 それを合図と受け取った俺は、田中と川奈さんの間に滑り込むようにして駆け、田中の意識を刈り取った。


「ぁ…………っ」


 大地に伏した田中を見て、俺はようやく大きく息をいた。


「ふぅ~…………」


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。

 ――成功。最高条件につき対象の天恵を取得。

 ――田中豪の天恵【回復術士】を取得しました。


五月蠅うるさい、ちょっと黙っててくれ……」


 反応などするはずもないメッセージウィンドウに悪態を吐く俺を、誰が責められよう。今回は流石に……疲れた。

 ふらふらになりながら、倒れた川奈さんの下へ向かう。


「やぁ、玖命クン、お疲れ様」


 こんな風に、からかい交じりに俺に声を掛ける人物は一人しかいない。


水谷さん、、、、、いたなら助けてくださいよ……」


 どっと肩を落とし、救援に来たのかわからない水谷結莉ゆりに言う。


「何を言ってるの、ちゃんと助けたじゃない?」

「にしてもギリギリ過ぎますよ。もうちょっとどうにかならなかったんです?」


 言いながら、俺は川奈さんを仰向けに寝かす。


「あれが精一杯だよ。この状況だと、状況証拠でしか彼らを追及出来ない。なら、いっその事、そこの【回復術士】に全てを吐かせた後、捕まえた方が確実だろ?」


 なるほど、流石に経験が違う。


「スマホで全て録画済みだよ。もうすぐ救急車も来るから、川奈さんの事は安心していい」


 親指を立てて、水谷は自身の成果をアピールする。

 それはさておき、ちょっと気になる事がある。


「それにしても、よくわかりましたね? 俺たちがピンチだって。こっちは電子妨害されてて大変だったのに……」

「妨害があったからだよ」

「え?」

「派遣所で二人の反応が消えたってよしみから連絡があってね。すぐに最後に反応があった場所に向かったら……」


 水谷は、全てを言わず、俺に全てを伝えた。

 そうか、俺たちの反応がなくなれば相田さんが動く。

 そういう事か。

 がしかし、こいつらはその事に気付かなかったのか?

 そう思いながら、俺は近衛たちを呆れた目で見るのだった。

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