第47話 奴ら2

 正面に立つ男の殺気は本物だ。一体何故俺の命を狙う?

 契約と言っていたが、誰と契約したというのか。

 いや、それよりも川奈さんは……?

 意識を失っているのか?

 頭を打っていないといいが、今はこの男から目を逸らす訳にはいかない。この男から目を逸らせば……俺たち二人は死ぬ事になるだろう。

 それだけ、この男の殺気が強いという事。

 おそらく、この男の実力はBランク後半?

 Aランクの赤鬼エティンを倒したとはいえ、油断出来ない相手だという事にはかわりない。


「ふんっ!」

「くっ!?」


 この突きだ。長物を持った相手との戦闘は初めてだ。

 正面から見れば、突いているのか引いているのか見定めるのが困難。それを可能にしているのが、奴の天恵と磨かれた技術。


「情報通り、慎重だな……は!」


 払いの初動も見極めにくい。


「っと!?」


【心眼】を使ってもかわすのがやっと。

 エティンとは違った戦い難さ。

 これが、一流と呼ばれる天才の動きか。

 集中しろ、奴が攻撃を仕掛けた時が反撃の時。

 槍という武器はこれ程戦い難いものだったのか。

 川奈さんの容体もわからない今、最優先でこの場を切り抜ける。


「すぅ……オォオオオオッ!」

「何っ!?」


 よし、【威嚇E】であれば、奴に影響あるようだ。

 更に【上級騎士】のヘイト稼ぎ。


「ハァアアッ!」

「馬鹿なっ!? 貴様、【上級騎士】だったのか!? それに今の【威嚇】は一体……? なっ!?」

「おしゃべりしてる暇はないだろう?」


 俺は一瞬で奴の背後に回り、先程のお返しとばかりに奴を突いた。


「くっ!? 【上級騎士】ではない!? まさか【聖騎士】!? いや、たとえ【聖騎士】であったとしても、その速度は再現不可能だ……どう見ても、動画の時よりも速度が上がっている……?」


 そりゃ、速度は【剣聖】だからな。


「もう一度っ!」

「くっ、猪口才な! この力……考えたくはないが、【天騎士】が相手と思うべきか……!」


 それは高く見積もってくれたようで何よりだ。

 相手が慎重になれば、俺もそれだけ慎重に動ける。

 とはいっても、川奈さんの事もある。

 よく考え、動く時は素早く……だ。


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度2.2%。天恵【上級騎士】の解析度66%。天恵【腕力B】の解析度4%。天恵【頑強C】の解析度14%。天恵【威嚇E】の解析度20%。天恵【脚力E】の解析度27%。


「これならばどうだ!?」


 上段に構え、槍上部を片手で押さえた……?

 これはまさか、移動する力を押さえつけ、放すと同時に爆発的な運動エネルギーを出す――、


「くっ!?」

「読んだか。だが遅い!」

「こ、このぉぉおおおおっ!」


 上段から矢のような速度で振って来る槍を、俺は全身全霊を以て迎えた。


「デ、デコピンの原理か、バカみたいだが……威力は倍増……か!?」


 脚が……沈む!?


「凄いな、この攻撃を受け切るか……! ならば――っ!?」

「それを待ってたんだ!」


 男が槍を引く寸前、俺は男の槍を掴んだ。

 引き寄せられながら駆ける俺に、男の顔が歪む。


「チィ!」


 後方に跳んだが、俺の速度はそれを超える。

 これで、俺の勝ち――――んな!?


「なっ!? 矢!?」


 飛んで来た矢は正確に足下を狙い、俺の足を止めた。


「ふん!」


 後方に跳んでいた男が、着地と同時に前方へダッシュした。

 攻撃も受けも間に合わない。後退するしか……ない!


「くっ!」


 男が繰り出した手は槍の石突を持った、最長の攻撃。

 ダメだ、届いてしまう……!

 胸元に当たったそれは、鈍い金属音を発した。


「くくく……軽鎧けいがいが砕けたか。つまり、次はないという事だ」

「いつっ……!」


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度2.3%。天恵【上級騎士】の解析度69%。天恵【腕力B】の解析度6%。天恵【頑強C】の解析度20%。天恵【威嚇E】の解析度23%。天恵【脚力E】の解析度30%。


 俺は軽鎧の破片で切った頬を拭い、再び刀を構える。

 先程の矢は一体? いや、こいつが矢を放った様子はなかった。

 ……それはつまり、仲間がいるという事。

 そ、そうだ、なら俺も仲間を――、


「『ハイ、KWNカウン。天才派遣所に電話して』」


 エティン戦で使った時は、結局援軍に頼らなかったが、助けを呼べたという事実が確実に俺の精神を支えた。

 たとえ間に合わなくとも、損はない。


「無駄だ」

「何っ?」

「周囲に電子妨害を張っている。そのスマホが外部に繋がる事はない」

「くそっ!」


 周到に練られた計画。やはりこいつの単独犯ではない。

 少なくとも三人以上……だが、何故俺を狙う!?


「もう一度だ……!」


 初動が速い!?

 溜めを短くして手数で勝負しに来たかっ?


「ふっ!」


 身体をひねってかわし、そのまま回転斬り――んな!?

 次に俺に届いたのは、矢ではなくファイアーボール。

 俺は貴重な攻撃の機会をファイアーボールを裂く事に使い、再び距離を取った。


「一体何人いるんだ……!?」

「お前が知る必要のない事だ」


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度2.5%。天恵【上級騎士】の解析度71%。天恵【腕力B】の解析度9%。天恵【頑強C】の解析度25%。天恵【威嚇E】の解析度27%。天恵【脚力E】の解析度35%。


 現状、俺はこいつに勝てるだけの力はあるはずだ。

 ただ、邪魔が入って攻めきれないだけ。

 ならば……川奈さん、ごめん。

 もう少しだけ待っててくれ。


「ボーっとしてる場合かっ!」

「ふっ!」

「……ほぉ、反撃すらないとは勝負を諦めたか?」


 奴の攻撃を……かわして、かわして……かわしまくるしかない……!


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度2.6%。天恵【上級騎士】の解析度72%。天恵【腕力B】の解析度10%。天恵【頑強C】の解析度26%。天恵【威嚇E】の解析度28%。天恵【脚力E】の解析度37%。

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