第46話 ◆奴ら1

 光浴びる者あれば、闇に沈む者もいる。

 伊達玖命きゅうめいがネット上にあがった討伐動画で注目を集めている中、その動画を忌々しそうに見つめる目。


 宇戸田うどた雅樹まさき――【戦士】の天恵を得たEランクの天才である。


「野郎……こんなに実力があるのを俺たちに黙ってやがったのか……!」


 目に苛立ちの色を灯し、手に力が入る。

 宇戸田のスマホ画面にひびが入ると、隣にいた男が大きく舌打ちする。


 長谷川はせがわ一哲いっけい――Eランクの【弓士】。


「どうにかして奴に一泡……いや、この際、消えてもらった方がいいかもな」

「ホント、さいっあくだよ」


 Fランクの【回復術士】田中たなかごうがそれに続く。

 田中は、玖命の額に石を当てた張本人。


「こいつのせいでアタシたちが謹慎なんてくらってんでしょ? ありえなくない? あんな汗だく男……!」


 怒り任せに爪を噛む深田ふかだひびき――ランクFの【魔法士】である。


「だが、この伊達って野郎の実力は、既に俺たちを超えている。見ろ、ホブが5体……一瞬だ」


 宇戸田が言うと、田中が別の案をあげる。


「なら、一哲いっけいが遠距離から狙撃するのは?」

「無理だ、俺の矢では奴の剣の結界に阻まれる」

「それじゃ響の魔法は?」

「むーりー、かわされるのがオチよ」


 すると、宇戸田が思い出したように言った。


「そういや……響の前の男が……」


 そう言った時、三人は宇戸田の意図に気付き、ニヤリと笑った。


「そうね、サトルに頼めば都合がつくかもしれないわね」


 四人の意思は固まり、伊達玖命への復讐が決まる。

 それは、余りにも理不尽な逆恨み。

 しかし、それを常として動く者もいる。

 そして、そのように道を踏み外した天才を……人は皆、【はぐれ】と呼ぶのだ。


 ◇◆◇ そして現在 ◆◇◆


 管理区域B内の出入り口付近。

 ゴブリンとホブゴブリンが侵入者に対し攻撃を仕掛けていた。


「こっちだよー!」


【騎士】の天恵――ヘイト稼ぎの能力を使った川奈ららが、ゴブリンたちを集める。

 川奈の下へ集まって行くゴブリンたちを、玖命が捌く。

 川奈の下へ辿り着くゴブリンは、せいぜい2~3体。

 玖命が次に行動を起こせば、一瞬にして対処可能な数だ。


「ハァッ!」


 一刀のもとにゴブリンを倒す玖命に、川奈も驚きを隠せない。


「す、凄いです! 今なんて、私の大盾に一回しか攻撃されませんでしたっ!?」

「だから言ったでしょ? 大丈夫だって」

「確かに前回より強くなってるような?」

「そ、そうかな? まぁ色々頑張ったからね……そ、それより、この調子ならすぐに間引きが終わりそうだね」

「出入り口に結構集まってましたからね。今みたいな感じであと4、5回やれば、今回の依頼も終えられそうです」

「よーし、それじゃあ慎重にしっかり行こう」

「はい!」


 川奈と玖命のチームは、初回の時とは違い、非常に上手く機能していた。

 川奈もヘイト稼ぎに集まるモンスターの対処に慣れ始め、赤鬼エティンから得た天恵【心眼】を使う玖命は、討伐するモンスターの優先順位、その進路、退路が全て理解出来た。

 この連携により、川奈には自信と胆力が、玖命には経験と知識が積み上がっていく。

 川奈の頑張りが、玖命の潜在能力を引き出し、玖命の力と技術が、川奈を更なる高みへと連れて行く。

 この相乗効果は凄まじく、二人は早々に討伐目標数にまでモンスターを倒してのけた。


「お、終わった……? もう?」

「えぇ、これでゴブリン40体、ホブゴブリン15体の討伐はクリアしました。過剰に倒してしまうと、逆に罰則金が出ちゃうので、ここで止めて帰っちゃいましょう」

「うーん、せっかくノッてきたんですけどねぇ~」

「ははは、仕方ないですよ。それなら、復習もかねて、この後管理区域Aに行ってみますか?」

「あ、いいですね! ホブがいない分、動きをしっかり見直せますし、お昼も過ぎたばかりだし! うんうん、やりましょうっ!」


 二人のテンションは最高潮にあり、今それを崩すのは得策ではない。二人はそれを知ってか知らずか、本能に従うように維持しようと動いたのだ。

 だが――、


「……ぇ?」


 川奈を止める玖命。


「……どちら様ですか?」


 管理区域Bを出て間もなく。

 人通りの少ない路地で待ち受けていたのは、川奈も玖命も面識のない男だった。

 両の肩に長い槍を担ぎ、二人の行き先を塞ぐ。


「伊達……玖命だな?」


 長い髪をなびかせる長身細目の男。

 玖命が男から殺気を感じる前に、玖命の天恵が反応した。


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。


「っ!?」


 直後、玖命の背後に男が回り込んだ。

 玖命は瞬時に風光を引き抜き、反転してこれを受けた。

 男は、風光との衝突の瞬間、槍を振り払う。


「きゃっ!?」


 邪魔な石でもどかすかのように払われた川奈。

 不意に壁に打ち付けられ、そのまま意識を失う川奈に、玖命の目の色が変わる。


「……お前、何のつもりだ?」

「ちょっとした依頼でね、お前の事が邪魔なやつがいるんだよ」

「……なるほど、お前【はぐれ】の天才か」

「ふん、どう呼ぼうがお前の勝手だ」


 対峙する男と玖命。

 向かい合う槍と刀。

 溢れ出す殺気と闘気。


「もしかしてお前、る気か……?」

「そういう契約だ」


 それは、突如訪れた予期せぬ死闘。

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