第44話 越田の善意
天才派遣所の支部近くには【天才の武具道】を謳う【ジニウェイ】の店舗がある。当然、天才が派遣所にいるのだから、その近くに店を建てるのは当たり前の事だ。
俺は今日、越田さんと水谷からのお見舞いと称した引換証を持ち、【ジニウェイ】の八王子支店にやって来ている。
「わぁ、私、八王子支店は初めて来ましたー!」
今回は川奈さんも付き添いで一緒に来ている。
「いつもはどこに行ってるの?」
「議事堂近くの本店ですね」
あぁ……お国のお膝元の。
あそこはやたら高級志向で、俺みたいな低ランクが行ったところで、まともな応対はしてくれないだろう。
まぁあそこは役人を守る天才たちの待機スペースにも使われてるし、各支店に配送する中継地点にも使われている。
武具は見栄えのいいものしか置いてない、金持ち御用達の店と言っても過言じゃないだろう。
「あそこは可愛い武具が多くて、目移りしちゃうんですけど……ここは何だか新鮮ですねぇ」
そう言えば、この人も金持ちだった。
ミスリルクラスの大盾を持つGランクか。
他のGランクが聞いたら怒りそうだが、彼女の性格を考えれば……まぁ、誰も何も言えないかもしれない。
しかし、越田さんの気遣いは凄いな。
ちゃんと八王子支店で引換え出来るようになっている。
詳細は不明だが、あの二人は一体何を俺にくれようとしているのか。
「いらっしゃいませ」
「あの、これを」
そう言って受付に引換証を手渡す。
それを見た受付員は、少し驚いた様子をしながらちらりと俺を見た。
「あの、何か?」
「い、いえ、すぐにお持ち致しますっ」
どこか慌てている様子だったが、一体どういう事だろう?
俺が首を傾げていると、川奈さんが横からちょこんと顔を出した。
「きっと、伊達さんが越田さんと知り合いって事を知って驚いてるんでしょうね」
「ん~、そもそも知り合いって程のもんじゃないような?」
「伊達さん、【大いなる鐘】に入らないんですか?」
「そもそも誘われてないし」
「誘われる前触れですよね、今回のコレって」
「う~ん……確かにそう思えなくもない……ような?」
「水谷さんもそう言ってたんでしょう?」
「まぁ……そうだね」
「なら、早い内に決めておいた方がいいかもしれませんね」
「何を?」
「クランに入るか入らないかを、です」
こういう政治的な事は、凄く鋭いな、この子。
「私としては、伊達さんにはクランに入って欲しくないですけど」
「え、どうして?」
「だって、チームが組みにくくなっちゃうじゃないですか。せっかく伊達さんと仲良くなれたのに、そういうのはちょっと寂しいです」
確かに、クランに入ると自由な行動が制限される。
まぁ、水谷みたいな例外がいるものの、彼女の場合は自由に動けるだけの実績があるからな。
だが、実績もほとんどない俺がクランに入れば、今みたいな行動は出来なくなるだろう。
勿論、収入は安定こそすれ、何割かはクランにもっていかれてしまう。
「安定な暮らしもいいけどなぁ~」
「伊達さんにそういうのは似合わないと思いますけど」
「そう?」
「いっその事、クランを作っちゃうってのはどうです?」
「俺が?」
「はい、もし作ったら教えてくださいねっ。伊達さんのクランなら、私入りますから」
そうは言われても考えた事がなかった。
だが、それも一つの選択肢という事か。
今はまだFランクだが、Cランクを超えればクラン創設の権利を得られる。それまでの間に出来るだけ経験を積んで、考えておけば済む話だ。
川奈さんとそんな会話をしていると、店の奥から店員が戻って来た。
「大変お待たせいたしました。こちらがご依頼頂いた品でございます」
持って来たのは長い桐箱。
「武器……みたいですね」
川奈さんの言葉通り、この桐箱に武器以外の物が入ってたら逆に驚きだ。
越田さんはきっと俺の武器が破壊された事を気付いていたんだ。だから、俺に武器を……。
「どうぞ、ご確認ください」
店員にそう言われ、俺は桐箱の
「こ、これは……!」
その武器を見て驚いていた俺に、店員が手紙を差し出したのだ。
「こちらも合わせてお預かりしておりました」
手紙を受け取り、差出人を見る。
――越田高幸。
手紙を開き、読んでみると、そこにはこう書いてあった。
――伊達殿
本来、武器とは自分に合ったものを選ぶべきだろうが、この武器は、君と死地を乗り越えた武器と同タイプのものだ。
きっと、手に馴染む事だろう。
それだけ、本当にたったそれだけの事が書かれていた。
流石は越田高幸。礼の要求も、連絡先すら書いていない。
水谷の言うとおり、人の善意にはつけこむタイプっていうのは本当かもしれない。
「わぁ、綺麗な刀ですねぇ……」
そう、この武器は刀。
Cランクの天才――
ゴールドクラスに位置付けられているこの刀。
先日の戦闘後、漣の刀は回収され、親族の遺産となった。
だからこれは、新品の風光という事になる。
お値段なんと…………、
「に、にひゃくななじゅうまんえん……!」
驚愕する俺の隣で、「お手頃価格ですね」と笑っていた川奈さんに更に驚愕するのは、この数秒後の話だ。
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