第40話 ◆赤鬼エティン4
突きからの振り上げ、加速したかのように振り下ろされる木槌。
玖命は、その全てを紙一重でかわしていた。
受け、かわし、いなし、捌き、時には攻撃を加えて自分の活路を見出した。
全ての天恵を発動し、その全てを【探究】に学習させる。
――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度1.2%。天恵【上級騎士】の解析度52%。天恵【腕力C】の解析度96%。天恵【頑強C】の解析度3%。天恵【威嚇E】の解析度7%。天恵【脚力E】の解析度8%。
「ハァアアアッ!」
「カッ! グゥッ!?」
「よしっ!」
たとえ赤鬼エティンに攻撃が当たろうとも深追いはしない。
どれだけ傷が深く、ダメージが大きかろうとも、玖命はそれだけは絶対にしなかった。
跳んで後退し、エティンを見据える。
エティンの悔しそうな表情を見て、玖命は確信を得る。
「やっぱり誘ってたか。どう見ても今のは当たる攻撃じゃなかった」
その注意深さが、玖命の命を繋いだ。
【超集中】によって向上する集中力、【上級騎士】によって向上する集中力、そして【剣聖】によって向上する集中力。
更に、紙一重で動き、戦闘中に培った玖命本人の集中力が【探究】を加速させたのだ。
――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。
「っ!? はは、これはついてるな……!」
【探究】は動いた。
赤鬼エティンの天恵を得るために。
「身体は……まだ大丈夫。もっと追い込んだ事だってある。大丈夫、出来る……出来る……出来るっ!」
玖命は目を見開き、再びエティンに立ち向かう。
これまで逃げ回っていた存在が攻撃に回る。
エティンは一瞬の困惑を浮かべるも、すぐに殺意に染まった。
「グォッ! グォッ! グォッ! グォッ!」
「くっ! まだまだぁあああ!」
縦横無尽に繰り広げられる連撃も、玖命は全てを受け流してみせた。
「カァアアアアアアアアアッ!!」
懐に入った玖命に、エティンの三つの頭は強力なブレスを吐く。
「その攻撃は一瞬間隔が空くんだよ……!」
更に奥までもぐり、股下を潜る。
――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度1.4%。天恵【上級騎士】の解析度56%。天恵【腕力C】の解析度100%。天恵【頑強C】の解析度6%。天恵【威嚇E】の解析度10%。天恵【脚力E】の解析度12%。
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【腕力B】を取得しました。
「おしっ!」
そう言いながら股下を抜け、それと同時にエティンの内腿に攻撃を加える。
「グァアアアアッ!?」
「五月蠅いっつってんだよ……!」
「ガ、ガァ……!?」
ついに玖命の気迫に、エティンが呑まれ始めた。
しかし、それは同時にエティンのプライドを傷つけた。
「グゥウウ……グルォオオオオオオオオオオオオッッ!!」
大きな怒りを見せ、血走った目で玖命を捉える。
「次だ……次だよ次っ!」
――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度1.5%。天恵【上級騎士】の解析度60%。天恵【腕力B】の解析度1%。天恵【頑強C】の解析度8%。天恵【威嚇E】の解析度17%。天恵【脚力E】の解析度20%。
攻撃の催促と共に動くエティン。
本日最速の連撃が玖命を襲う。
(速い……だが、かわせる。そう、このタイミング。右に払ってブレス。なるほど、今度は頭を使い分けて吐いた訳か。なら、その顎下がお前が用意した隙だろう? わかってる。だからそこには絶対にいってやらん……!)
かつてない集中力が、玖命の視野を広げた。
「今度は外腿だな……!」
「ガァアアアッ!?」
何度も、何度も……何度も続く攻防が、玖命の動きを徐々に最適化し始める。エティンの無駄な動きを玖命が知り、その無駄を退避路とし、活路とする。
それは、天恵だけでは決して成し得ない戦闘勘。
戦いの中、天恵ではない……玖命自身が学び、培った対エティン用の技術。死地を足場とし、活路を攻撃の場とする。
玖命の動きが、エティンの動きに届き始めた時、【探究】は成った。
――成功。最高条件につき対象の天恵を取得。
――赤鬼エティンの天恵【心眼】を取得しました。
「ずるいじゃないか……お前……こんなの持ってたのか……」
そう呟いた時、玖命の視界の端に、エティンの視界の端に男と女が現れた。
それが援軍だとわかるのに、そう時間はかからなかった。
玖命の役目はそこで終わり。
だが、その認識が……今、変わった。
「水谷さんと……越田さんかな?」
そう呟いた後、玖命は口の端を上げた。
(あの二人がここに来るまでに……
その殺意がエティンにも伝わったのか、憤怒を顔に出す。
格下だと思っていた相手からの殺意。
――自分は捕食者。奴は被食者。
その摂理を崩すかのような玖命の殺意は、エティンの怒りを引き出すのに十分と言えた。
「怒るなよ……五月蠅いだけなんだから……!」
先程までの恐怖の色は、今の玖命にはない。
実力という名の天秤が、平行になった瞬間だった。
「グルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!」
最大の怒りと殺意を向ける赤鬼エティンに、玖命は静かに言った。
「すぐに終わらせてやるよ……」
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