第39話 ◆赤鬼エティン3
相田が伊達からの連絡を待つ中、待合室ではどよめきが起きていた。
【剣聖】水谷
ホワイトメタリックの鎧を纏い、鋭い眼光には誰も目を合わせられない。
「
「無理だ、この身体で縮こまる訳にもいかないだろう」
2メートルはあろう身体で胸を張る姿に、水谷は呆れ顔である。
そんな二人の背を見る天才たちは、ヒソヒソと話しながら警戒を強める。
「【大いなる鐘】の【剣聖】と【
「【剣聖】は最近よく来てたけど、八王子になんかあるのか?」
「元帥、越田高幸様のおなーりーってか」
【
新宿支部にすら余り顔を出さない彼が、八王子支部に来た理由は一つ。
「さて、例の彼はどこにいるかな」
そう、伊達
「彼って?」
水谷が聞くも、
「何を言ってる。本当は知っているんだろう? 彼の事を」
「もしかして、例の動画の男の事?」
「それ以外にあるか?」
「私は知らないって言ったでしょう」
「目を見ればわかる。
「なっ!?」
くすくすと笑いながら受付に向かう越田の背に、水谷は恨めしそうな目を向ける。
「お久しぶりですね、相田さん」
「こ、越田さんっ!? お、お久しぶりです」
相田の様子を見るなり、越田が気付く。
彼女の瞳に焦りが見える事に。
「何か問題が?」
「いえ、
「
「あ、すみません――電話が」
「どうぞどうぞ」
目を細めながら相田に仕事を優先させる越田。
『「ハイ、
「伊達くん? 伊達くん!?」
『よかった、繋がった!』
「何があったの!?」
『さ、漣さんが殉職しました!』
直後、相田の目が見開かれる。
そして、すぐに全員に全ての対応を止めさせた。
派遣所の緊急マニュアルに従い、相田はすぐに電話をスピーカーに切り替える。
すると、天才たちの意識が切り替わった。
談笑していた者も、訓練に向かおうとしていた者も、スピーカーの音に注目する。それは、いつ、どのタイミングで起こってもおかしくはない緊急事態の対応だからだ。
「伊達くんは無事なの?」
『現在交戦中! くっ! くそっ!』
「っ! ……すぐに対処します。ボスモンスターの情報を正確にお願いします」
『赤……鬼……ハァッ! 赤鬼……エティン!』
瞬間、静まり返っていた天才派遣所にどよめきが起こる。
Aランクのモンスターがスマホ圏内にいる。
それが何を意味するか皆理解していたのだ。
「伊達くん……逃げられますか?」
『不可能です! それに、このままこいつを放置したら、町が大変な事に……ぐぁ!?』
相田は唇を噛みしめ、極めて冷静に努めた。
「かしこまりました。
『助かります! はぁはぁ……くそっ!』
「
スピーカーから聞こえる戦闘音は、天才が聞いても想像を絶するものだった。木が抉られ、吹き飛び、鈍い金属音と玖命の灯の声――そして、
『グルォオオオオオオオオオオオッッ!!!!』
赤鬼エティンの咆哮は、多くの天才たちを震え上がらせた。
八王子支部は玖命のホームグラウンドである。
玖命の事を知る天才は多い。そして、その脆弱さも。
だが、ネット上にアップロードされた
八王子支部の皆は薄々気付いていた。
玖命の天恵が発現したのだと。
玖命がAランクの赤鬼エティンを前にし、命を賭して戦っている。八王子支部の天才……否、職員でさえも想像出来なかった事態。
『
窮地から発した言葉とは思えない程の強気に、相田も、皆も強く反応を示した。
相田がスピーカーを通して派遣所全体に伝える。
『緊急討伐依頼です。標的は赤鬼エティン。場所は相模原ゴルフ場跡。八王子支部在籍のAランクの天才に詳細ポイントのメールを送ります。ご協力を……お願いします……!』
相田はその場で深く頭を下げ、八王子支部で名の知れた天才たちが動き始める。
そのタイミングで相田に声を掛ける男が一人。
「それ、私と
【元帥】越田高幸が名乗りをあげたのだ。
「え、こ、越田さんがですかっ? あ、ありがとうございます! すぐにメールします!」
越田は気付いたのだ。
(スピーカーの声を聞いた途端、
水谷が動き、越田が動く。
相田は電話の前でただ祈る事しか出来ない。
『ヒュー……ヒュー……後……す、少し……!』
奮闘する伊達の生存を、祈る事しか出来ないのだ。
(……お願い、伊達くん……!)
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