第38話 赤鬼エティン2

「はぁはぁはぁ……」


 入ってすぐ、周囲を見渡したが、漣の刀は見当たらない。

 だが、ダンジョンは更に奥へ続いてるようだ。

 岩肌が目立つ……所謂洞窟系のダンジョンだ。

 ダンジョンが迷路のようになっているという事はあまりなく、基本的にはボスの部屋まで一直線である事が多い。

 走って、走って、走っても、ボスの部屋は見えない。

 途中にも刀がないとすれば、ボスの部屋しかないと思うのだが――、


「グォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 ……まずい、奴がポータルに戻って来た。

 奴の体重で木と木を跳躍したのか? いや、あの木にそこまでの強度はないはずだ。

 まさか、あの高さを跳んだっていうのか……?

 だが、かなりの距離は稼いでるはず。

 刀を見つけられれば、まだ勝機はある。

 遠くから伝わる振動が俺の心臓を更に揺らす。

 段々……近付いている。


「はぁはぁ……っ! あった!」


 岩壁に突き刺さったソレは、確かに漣が腰に携えていたものだ。


「くっ! ぬ、抜けろぉおおおおおおっ!!」


 壁に立ち、突き刺さった刀に力を込める。

 ずり、ずりと少しずつ抜けつつある刀だが……、


「グォオオオオオオオッ!!」

「……やばい」


 先程までは籠った感じの足音だったのに、今はなんかこう……かなり近い気がする。


「抜け……抜けてくださいお願いしますぅうううっ!! ――あ」


 気付くと、俺とエティンは目が合っていた。

 やばい、見つかった。


「グルォオオオオオオオオオオオッッ!!」


 迫る巨体。だが、抜くしかない……抜けろ、抜けろ、抜けろっ!!


「ウォオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣豪】の解析度100%。天恵【上級騎士】の解析度42%。天恵【腕力C】の解析度81%。天恵【頑強D】の解析度59%。天恵【威嚇F】の解析度95%。天恵【脚力F】の解析度87%。

 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【剣聖】を取得しました。


 エティンとの衝突の瞬間、刀はすっと抜け、俺はその反動で反対側の岩壁に着地していた。


「はぁはぁ……あ、危なかった……!」


 だが、これで――ようやく俺は【剣聖】の天恵を得た。

 まったく、本当に必要な天恵はいつも土壇場だな。

 しかし、この【剣聖】……確かに凄い。


「身体から力が……湧き上がってくる……!」


 エティンが先程同様、突進を始めるが、俺はそれをすんでのところでかわす。

 ……やはり速いな。これだけ力が上がったというのに、速度はまだ劣っている。

 だけど、それも時間の問題――、


「グルァ!」

「くっ、はぁ!」


 エティンの攻撃に合わせて、腕を斬り裂く。


「ガァアア!?」

「流石ゴールドクラス……よく斬れるな」


 それでも、タイミングを違えれば俺も漣のようになってしまうだろう。

 それほど、Aランクモンスターというのは気が抜けないのだ。

 木槌の攻撃も、噛みつき攻撃も、火を吹かれようが、


「なんとか……かわせる……!」


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度0.6%。天恵【上級騎士】の解析度45%。天恵【腕力C】の解析度85%。天恵【頑強D】の解析度64%。天恵【威嚇F】の解析度99%。天恵【脚力F】の解析度92%。


「グルァアア!?」

「こっちだ!」


【上級騎士】のヘイト稼ぎで奴の能力を――、


「グォオオオオオオオオッ!!」


 下がらない!?


「くそ、そんなのアリかよ!? この!」

「ガァアアッ!」

「くっ!」


 木槌で刀が弾かれただけでこの衝撃。

 さっきまでの俺だったら腕が折れていた。


「一体、その木槌どこで売ってるんだよ……KWKWカウカウか?」


 などと悪態吐いたところで、俺は思い出した。


「あ――っぶね!?」

「ガァアアアアアアアアアアッ!」


 再び突進。木槌が右手にあるなら、左へ逃げる。

 そして壁を蹴り――、


「じゃあな」


 俺はまたポータルの外へと向かい走った。

 そうだ、思い出した。あの魔法の言葉を。


「はぁはぁ……ここじゃ絶対無理だ。なら、外じゃないと……!」


 走って、走って、走る……!


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度0.8%。天恵【上級騎士】の解析度48%。天恵【腕力C】の解析度89%。天恵【頑強D】の解析度67%。天恵【威嚇F】の解析度100%。天恵【脚力F】の解析度96%。

 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【威嚇E】を取得しました。


「だ、だから……そ、それじゃないんだって……!」


 後……少し……!


「グォオオオオオオオオッ!!」

「やっぱり速いな、壁を抉りながら追いついて来る!」


 エティンの攻撃を捌き、かわしながらもダンジョンの出口へ向かう。速い……これは、かわし切れない……!


「ぐぉ!? カハッ!」


 右に払った一撃が、刀を押し切って身体に当たる。

 俺は吹き飛ばされながらも、その勢いに任せ、壁を駆けた。


「ヒュー……ヒュー……」


 呼吸がおかしい。どこか内臓を痛めたか。


 ――【探究】の進捗情報。天恵【剣聖】の解析度0.8%。天恵【上級騎士】の解析度48%。天恵【腕力C】の解析度89%。天恵【頑強D】の解析度100%。天恵【威嚇E】の解析度3%。天恵【脚力F】の解析度100%。

 ――おめでとうございます。天恵が成長しました。

 ――天恵【脚力E】を取得しました。

 ――天恵【頑強C】を取得しました。


「そう……それを待ってたんだ……よっ!」


 脚力が上がったおかげで、単純な速度であればこれで同等。

 ただそれは駆けっこというジャンルでのみの話だ。

 追いつかれもしないが、引き離せもしない。

 追いつかれたならば、攻撃速度ではあちらのが有利。

 だから、時間を稼ぐ他ない。


「ヒュー……ヒュー……み、見えた……!」


 ポータルを見つけ、ゴルフ場跡に出る……!

 瞬間、俺は叫んだ。


「『ハイ、KWNカウン! 天才派遣所に電話して!』」


 最先端技術……万歳!

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